策略謀略 弐 その4
素早く空の徳利を引き下げ、これまた音も無く部屋を出て行く。
これはもう、職人芸。
「それはなにか、ウチが風御門家にこれからもず~~っと狙われるっちゅう訳か?」
「その、、、はい、、、」
さすがにソコは、言い訳出来ず。
「この、ウチがか?」
土下座のポーズから、ゆっくりと視線を円に上げる。
見ると大袈裟に左手を胸に当て、信じられないと言う顔を芝居仕立てで珍晴に向けていた。
「そう、、、なりますね~~」
返答に窮する珍晴。
円はさらに詰めて来る。
「この、“呪禁童子”のウチが、反対に術師に狙われるとは笑い話にもならんわ!」
「ホンマやね~~」
「なに笑とんねん! アホ!」
可愛く、顔の前で両手を合わせてみた。
「ごめんね。円ちゃん」
「アンタ今からアホ晴な!」
「呼んで呼んで! それで気ぃ済むんやったらナンボでもそう呼んで!」
咆哮。
白虎が、珍晴に向かって低く威嚇してきた。
「あ、怒ってはる?」
「言わばそちらの“お家騒動”ではないか。解決の矛先を円に向けるのは、無礼極まりないのではないかな? 次期当主よ」
白虎が、喋った。
ハッキリ。
澱みの無い言葉で。
クッキリ。
落ち着いた声で。
シッカリ。
イケボの声で。
その状況に、円も珍晴も、、、もとい、アホ晴も驚きもしなければ不思議がりもしない。
これは普通の事なんだ。
白虎が、人間の言葉を話す。
口の構造がどうのとか脳が発達してるのとかそんなの無視して、この2人が生きている世界では、普通の事なのだ。
「ええねんええねん。コウキは優しいなぁ」
円は白虎の事を、コウキと呼んだ。
そのコウキの頭を撫でる。
コウキも撫でやすいように、頭を屈めて円に近付ける。
「なぁ、アホ晴、、、」
白虎の頭を撫でながら、視線も合わせずに円の声が広い和室に零れた。
声のトーンが、先程までとは違う、、、。
「何やろ?」
「身に掛かる火の粉は、払わなアカンよな」
「ですよね。放っといたら熱いですもんね」
「払ったヤツにイモ引かして、加茂家の名が出たら、イって良えんか?」
、、、脅しだ。
火の粉とは、円を捕縛しに来る術師。
どうせ最悪、生死は問わないって感じで、風御門家の手練れたちが自分を狙って来るのだろう。
その術師を反対に捕まえ口を割らせ、芋蔓式に辿った先で加茂家の名が出た場合、どうするのか?
そう円は聞いている。




