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カ・ル・マ! ~天王寺の変~(改訂版)  作者: 后 陸
天王寺の変 六の章
167/192

策略謀略 弐 その2

 和室に虎。

 巨大な白虎(びゃっこ)


 異常な光景も、珍晴はいつもの事のように何の感慨(かんがい)も持たなかった。

 大きさと風格はさておき、その仕草はネコ科特有の動作で左の手を舐めては顔を拭うを数回繰り返す。


 ――!!


 珍晴の眼が、動いた。

 襖を見た。

 同時、三度(みたび)開く襖。

 今度は左前方の襖だ。


 入って来たのは、無造作に髪をアップに(まと)めた女性。

 ずかずかと入って来たと思ったら、雑な挨拶。


 「遅れたわ。ゴメンやで」


 アンダーウェアの上に肌襦袢(はだじゅばん)だけを羽織った格好で(おく)することなく入って来た細身のシルエットは無遠慮に珍晴に声を掛けると、作務衣姿の僧がセッティングした上座に座った。

 首に掛かるは、今治(いまばり)産のタオル。


 礼儀知らずかと思いきやこの女性、端々(はしばし)に見せる所作(しょさ)が美しい。

 大雑把(おおざっぱ)に動く仕草が、(かえ)って優雅さを(かも)し出していた。

 そして動くたび、瞬間々々、白い肢体にしなやかな筋肉が浮かび上がる。


 端麗。


 この姿でも格調を(かも)し出すのならば、それなりの衣装を纏えば畏怖(いふ)の念さえ出すだろう。


 (ほほ)が、赤い。

 ほんのり、立ち上がる湯気。


 美麗。


 どうやら、風呂上がりのようだ。

 堂々たる振る舞いは、盆の前で胡坐(あぐら)をかいた。


 「いえ、、、」


 落ち着いたリズムで、首を()れる珍晴(たかはる)

 そんな珍晴の返答を聞いたのかどうでもいいのか、耳に届く前に手酌(てじゃく)猪口(ちょこ)硝子(ガラス)徳利(とっくり)を傾け、キンキンに冷えた冷酒を注いだ。


 ()む。


 「美味(うんま)っ。美味(うま)いねんけど、風呂上がりの一杯目はやっぱりビールやったかな? そう思わん?」


 気兼ね無い視線を、珍晴に送っていた。


 「ボクは呑まへんから、よう解らんわ」

 「た~か~は~る~~~~、いつになったら付きおうてくれるん?」


 言いながら、早くも二口目の猪口を空ける。

 珍晴が、あっ、、、という顔をしたのを見て、上座に座る女性は首を(かし)げた。


 「なん?」

 「こういう時って、ボクがお酒を()いだ方が良かったっけ?」


 大袈裟にしかめっ面を作って答えた。


 「そんなんええわ。手酌で。珍晴に()いで()うたら、道具屋からエラい怒られそうで怖いわ」


 言い終えてぐびりとやると、今度は盆の上の肴に手を付ける。

 手前に添えてある(はし)を使えば、手本のような(さば)きで黒豆を口に運ぶ。


 不躾(ぶしつけ)な振舞いとは裏腹に、ふとした仕草に(つちか)った“(ひん)”が見え隠れし、どんなにガサツにふるまってもそうは見えない不思議な雰囲気を出す女性。


 その女性に、白虎が甘えるように顔を擦り寄せる。

 比率で言うと、さっきも言ったがひと口で成人の上半身を簡単にパクリといく大きさ。

 それがしつこく甘えてくる。



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