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カ・ル・マ! ~天王寺の変~(改訂版)  作者: 后 陸
天王寺の変 六の章
163/196

策略謀略 壱 その1

 中年中肉中背ちゅうねんちゅうにくちゅうぜいの男は、見た目と裏腹(うらはら)にとても紳士だった。


 状況を考えると、()にも(かく)にも日本橋へ、モノアイの居場所(ところ)へ行かなければならない。

 先程みたいなのが、この結界の中ではうじゃうじゃ居る事は百も承知。

 それでも先っちょは、佳穂の身体と気持ちを思いやった。


 「大丈夫か? (いと)ぅないか?」


 耳に届くやさしい声音(こわね)が、佳穂に安心感を与えていた。


 「うん。ありがと、、、」


 周りを(うかが)仕草(しぐさ)をすると、先っちょは谷九で千日前通りを右に曲がり、そこで背中に背負っていた佳穂をゆっくり降ろした。

 天満橋から今居る谷町九丁目、谷九の交差点まで、先っちょは佳穂を背負って来ていたので、かなり疲れた。


 正直、佳穂を気遣うフリをして自分が休みたかった。

 無理して先を急げば、このまま日本橋まで行けたかも知れない。

 知れないが、先っちょはどうしても気になった。


 中年中肉中背の自分の(にじ)み出る汗が、おんぶしてる佳穂に染みて『気持ち悪い』って思われていないだろうか?

 ホントは汗でベタベタして『降ろしてくれ』って佳穂が思ってるんじゃないかと気にし出したからだ。


 自分を卑下(ひげ)する考えが(よぎ)ると、そればっか考えてしまう。

 そう考えてしまうと、早く佳穂を降ろさないと嫌われてしまうんじゃないかとモテない君的思考が脳内を駆け巡る。


 ――いや~、でも、早く日本橋へ行かないと、、、


 という思いもあったりする。

 モノアイには、デカい“借り”もあるし。


 ――イヤでもでも、、、


 こんな感じで、戦闘以外は優柔不断の先っちょは結局ここ、谷九まで休まず来ていた。

 天満橋からここまで来る途中、何度か休憩できそうな場所はあったが、どうしようどうしようと悩んでいるうちに通り過ぎ、気付けば30分、佳穂を背負ったまま歩きっぱなしだった。

 そりゃ汗もかく。


 普通にウォーキングでも、5分歩けば先っちょは汗だくのだくだく。

 それなのに佳穂を背負って30分も歩き続ければ、ナイアガラ級の汗が出るのは至極(しごく)当然。

 心底、夏じゃなくて良かったと思った。


 ええかっこしようとして、佳穂をおんぶした自分を責めた。

 フェミニストを気取って、だくだくになった自分を責めた。


 ――俺はアカンな、絶対オトコマエにはなられへん、、、


 先っちょ、反省。

 千日前通りに入ってスグに出て来たコンビニ、その入口横に佳穂を座らせた。

 搬入のプラスチックケースが畳まれてあったので、重ねて座れるようにした。


 「ちょっと待っときや」


 コンビニの自動ドアは、当たり前だがカギが掛かっている。

 先っちょはポケットからリングに通された沢山(たくさん)のカギの中から、無造作に一本をピックアップ。

 ドアの下部にある、鍵穴に突っ込んだ。


 すんなり入った。

 回った。

 開いた。


 「え? ジブン店員なん?」


 佳穂が、先っちょを驚いた眼で見る。

 先っちょも驚いた。


 天満橋からここまで、先っちょは背負った佳穂に気を遣う言葉をたくさん掛けてきた。

 それに対して佳穂は痛さと怖さからか、(はっ)した言葉は『うん』と『ありがと』の単語だけ。

 先っちょが一方的に喋り、佳穂が短い返事をするって感じの会話でここまで来た。


 、、、のだが、今の的確で声の大きさも丁度良いツッコミに、先っちょの佳穂に対する好感度は爆上りした。



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