参差錯落 陸 その4
問題は、安倍まゆらにそれが実行できるかどうか、、、。
――この女子高生、ホンマに人が殺せんのか?
まるでモノアイの考えが観えたかのように、指を伸ばした右腕はそのまま、顔の前に左の掌を向けられた。
もぞもぞと、肉が蠢く。
傷だらけの美しい顔が、その手に浮腫び上がった。
――なるほど、、、
まゆらが出来なくとも、糸姫がヤる。
史上最高位の術師なら、一切の躊躇なくヤる。
「そういうことね」
モノアイ、納得。
諦めて、素直に話すことにした。
「ドクターは、サイラーん根城に居るわ」
「天王寺でっか。遠ぅおまんな」
「今から行くんか?」
「せやがな。ドクターはんを連れて行きたい場所がありますんや、、、」
モノアイが、ちょっと意地悪い笑顔を見せた。
「何か?」
「いや~、ソレちょ~っと難しいかも知れんで」
「何でですのん?」
質問される事は、モノアイにとってご褒美。
それは相手の知らない事を、自分がこれから“教えてあげる”立場になれるから。
「ドクターの能力をサイラーが気に入ってもてな、、、ま、アレは見たら誰でも欲しぃなるわな。しゃーから無理やり“火の契約”っちゅう呪約を交わしたハズや」
「何ですのん、それ」
またも質問。
アガるモノアイ。
「身体の一部に、呪のタトゥー入れられんねん」
「たとぅ~?」
「、、、刺青の事」
「ほんならそう言いなはれや。何でいちいち横文字で言うんや?」
「文句はモノアイに言うて」
「それはファイヤーパターンのタトゥーでな、、、」
モノアイ、どんどん喋り出す。
「、、、どこに居ってもサイラーの気分次第で、タトゥーを燃やすことが出来る術式。ファイヤーパターンがホンマにファイヤーってなるっちゅうヤツや」
「子供じみてまんなぁ」
「しゃーからな、『裏切りよった!』ってサイラーが思ったら、そう思うだけで燃やせるっちゅう厄介な術式や。逃げられへんな」
自慢気に話すモノアイ。
人の知らない事を知っているってのは、気持ちの良いものだ。
しかも安倍まゆらと糸姫、このふたりを向こうに回して“教えてやる立場”なんて滅多にない。
少しだけ“上から目線”で見てやろうと思ったら、帰って来たのは思わぬ反応。
糸が、ケラケラ笑ってた。
まゆらは少し首を傾げ、『だから?』みたいな表情をしている。
モノアイ、とても不理解。
何処に居ても、念を送るだけで発動させられる術式。
そんな術はチートで、防ぎようがないと思っていたのだが、、、。
モノアイの不思議そうな表情を見て、糸が疑問に答えてくれた。
「モノアイはんは、ホンマに逃げられへんと思いはったん?w」
「、、、思うだけで術が発動すんねんで、、、?」
「そんなしょーもない呪約、破んのん簡単ですやんww」
「え? どうやって、、、??」
「いややわ~~w 掛けた本人、殺したら良えだけですやんかいさ~~www」
「!」
――、、、なるほど
言い得てみょー。
っていうか、当たり前の事だった。
術師の意思で発動する術式なら、そう思う前に殺せば術は発動しない。
「いや~~良えこと聞けたわ~。あんさん命拾いしはったなw」
言うや否や、全身に纏わりつく土蜘蛛のエレクトリック・ゴーストが突然竜巻に巻き込まれたかのよう、宙に舞い上げられた。
モノアイを中心に、モノアイの視覚を塞ぐよう、派手に土蜘蛛が舞い上がる。
「くっ!」
思わず眼を瞑る。
目尻に皺が喰い込むほど、力いっぱい。
次にモノアイが、片目で部屋を見た時には、ふたりの姿は消えていた。




