紅朱同赤 陸 その18
それでも次期当主の口調は変わらない。
「正直迷うよな~。此処を使えば効力を落とさず、ほぼ無尽蔵に術を使える。術師にとってこれ以上に無いEG波の磁場。正直うちが独占で欲しいくらいや」
まゆらの眼が、細くなる。
「それで、ブン捕る気ぃか?」
「えぇ~? まさか!」
わざとらしい珍晴のリアクション。
「他のEG使いを殺して、、、」
「まさかまさか。無理無理」
大袈裟に両手を振った。
「そんな考えはEGを使える人だけや。ボクはただの道具屋やで。そんな大層なこと、考えもせぇへんわ~」
「ざ~~とらしぃ」
糸の意見に、まゆらも同意。
「嘘つけ」
二人にそう言われても、にっこり珍晴。
真剣に会話を進める気があるのか、もう次の話題をフリ始める。
「そうそう、弁天町にはもう行った?」
「!」
「確かまだ履行されてないよな。継続中やろ。加茂家から御門系に依頼してる造反者の捕縛。それもえぇ加減進めて欲しいな~、、、」
嫌味な言い方。
これはまゆらでなくともハラが立つ。
珍晴はワザとらしく『あっ!』って表情をして言った。
「こう言う時は『安倍まゆら』やなく、『土御門繭ら』さんと呼んだ方がえぇんかな?」
まゆらを囲う、空気の密が上がる。
同時に、EG波も濃くなる。
「スゴイ凄い! これやから堪らんわ! やっぱボクの結婚相手は、まゆら以外考えられへん!」
ローキック。
「?!」
まゆらの足は、空振りをしていた。
あったハズの珍晴の足が、煙のように形を崩す。
瞬きをしてもう一度見ると、ソコに珍晴の足はちゃんとあった。
「!」
「そーゆーの、DVって言うんやで」
耳元で言われた。
「?!」
まゆら、ドびっくり!
一瞬で“間合い”に入られている。
思わず身を引く。
珍晴を見ると、いつもの作り笑顔。
「いや~、名残惜しいけど、今からちょっと寄らなアカンとこ有るから、ボクもう行くわ~。ほなな~~」
声を掛けるタイミングさえ残さず、珍晴はとっとと歩き出していた。
――、、、ちっ
まゆら、舌打ち。
術師では無いが、それを上回る身のこなし。
曲者と言う言葉がこれほど当て嵌まる人物を、長年生きて来た糸でもそうそう見た事が無い。
どうやら、ただの“ぼんぼん”では無いようだ。
流石は加茂家の跡取り、というところか、、、。
「ぼんめ、、、いつやりよった? 新しい道具かいな?」
憎々しく吐いた糸の言葉も、虚しく流され消えて行く。
夜の闇に消えた背中を、ふたりは暫く見つめていた、、、。




