紅朱同赤 陸 その4
話し掛けたのに全く隙を見せてくれないまゆらに、呆れ気味になった三木が素直に言う。
「いい加減、その指を下ろしてくれないか?」
ピストルのように伸ばした、まゆらの右手の指だ。
人差し指と中指。
三木が指摘した、トリガー。
「こ、この結界は、、、ななんしとう?」
男性と話すのが苦手なまゆら、ちょっと噛んでしまい、テレる。
、、、戦闘中なのに。
それが可笑しくて、糸は笑いを堪えるのに必死だ。
むぎゅぅぅぅ。
握られた。
笑いを堪えてるのがまゆらにバレた。
「もう何やのんさぁ! 勝手に噛んで勝手に赤ぅなっとんのはまゆらちゃんやろ! そんでいちいち“むぎゅっ”てされたら、あてもたまりまへんわ!」
「うううううっさいねん!」
二人のやり取りに、三木が真面目な顔で聞いてきた。
「仲、、、悪いの?」
「うっさいねん!」×2
「あ、あぁ。良いんだね、、、」
しばし無言。
気まずい空気。
まゆらが、おずおずと左腕を前に出す。
指を全部開いて、掌の正面を三木に向けた。
三木が見ている目の前で、手のひらの肉がざわざわと動き出す。
「!」
動き出したらまゆらのその手のひらに、肉が盛り上がり立体的な顔が浮かび上がった。
デスマスクのように浮かんだ顔は、この異様な状態にあっても美しいと認識できてしまうほどの美貌。
ただ、その額から右眼を通って顎まである傷、それと両眼が針金のような堅い材質で縫い付けられているのを除けば、、、。
「暦糸姫、、、史上最高位の“唱える者”が、、、」
唱える者。
呪言系の術師で、この名を知らない者は居ない。
居ればモグリ。
時の権力者や帝を妖しい、怪しいモノから庇護するためだけに選ばれた優秀な術者。
三人一組で、あらゆる呪詛、怨念、妖気を弾き返す役目を担った。
三人頌歌とも呼ばれる。
また、主に高貴な者たちの傍に仕える為、間違いが起こらないよう両の眼を縫い付けられ、顔には傷を付けられる。
歴代の三人頌歌。
その中でも特に優秀だったと語り継がれている唱える者が、この晩霜院暦糸姫。
「もうしゃーないな! 代わりに聞くから“むぎゅっ”てしなや!」
語り継がれているイメージとはまったく結びつかない、半ギレの声が響いていた。




