紅朱同赤 陸 その1
大阪駅から御堂筋で南へ下ると、大江橋が出てくる。
中之島に続く橋だ。
その橋を渡ると、ハッキリ空気が変わった。
――結界?
まゆらは周囲を見渡した。
少し霧が掛かっているのか、視界に白い靄が薄っすらと感じられる。
この独特の雰囲気は、ここの主を表現している。
ねっとりと纏わりつく湿気を含んだ外気は、水分だけでなく怪しい妖気も含んでいた。
「まゆらちゃん、これ、結界やんね?」
「う~ん。多分、そう、、、やけど」
通常、結界は外から入られないようにするタイプと、内側に引き入れて逃がさないタイプがある。
前者はハッキリと“ここから結界です”と分かりやすく札、おおぬさ、紙垂などをこれ見よがしに立てたり柵であからさまに囲いを作り、それぞれに術者の念を込めて外向きのエネルギーを付与する。
これにより外敵に、闘う前からプレッシャーを与える。
もっと高等な術者になると、そもそも結界自体が無いモノとして外敵に素通りさせ、気付くことすら出来ないようにする。
後者は結界を結界と見せず、知らずに入った外敵の行動に制限を掛けたり、強いモノでは動けなくしたりして、術者本人が有利になるような特殊な条件下でしか闘えなくしてしまう。
更にはその結界から、出れなくしてしまう。
というのがセオリーなのだが、
この結界らしきものは、、、?
“らしき”とまゆらが思ったのは、エネルギーが外向きでもなく、中に入っても違和感は有るが、何ら侵入者を対象とする術が発動されてないからだ。
これは、まゆらと左掌は同意見。
なので先ほどのふたりの会話は、互いに伺いながらとなった。
「なんやろ、、、?」
「コレに似たようなもんを、昔に感じたような気がしますねんけど、、、何やったやろか、、、」
惚、忽、笏、、、。
中之島に、革靴がアスファルトを叩く音が響く。
視線を送るとこの時間にしては早い、夜の漆黒がそこには出来上がっていた。
「ど~ゆ~ことでっしゃろか?」
近付く革靴の仕業だ。
早くも、視界の一部に呪を掛けられた。
「糸」
「なんでっしゃろか?」
「探して」
「あいあいさー!」
それだけの短い言葉で『糸』と呼ばれた左掌は、まゆらが何を要求しているのかを理解した。
その間にも、漆黒から音が近づいて来る。
まず、しっかり磨きこまれた革靴の先が見えた。
とんがっている。
やたらとんがっている。
「、、、ダサ」
まゆらの、嫌いな形の靴だった。




