紅朱同赤 伍 その4
縦四面。
横に八面。
壮観に並んだモニターに、色んな角度で映る佳穂の姿があった。
建物、道路に設置されたカメラをハッキングして、佳穂をそのカメラの単眼で捉えている。
単眼=モノアイ。
そう呼ばれる中年の男は、高級車のロゴが入った椅子に完全に体重を預けて座る。
状況を見つめる目は、片方に黒い革のアイパッチがされていた。
――こっからは、運やな
やれる事はやった、、、と自分に言い聞かせた。
手を貸さなければ、とっくの昔に佳穂は死んでいただろう。
――佳穂が死んでも、それはオレの責任ちゃうからな、、、
自分に言い訳しながら、成り行きを見る。
モニターに映る佳穂が天神橋を渡り切ったところで、警告音が部屋に鳴り響いた。
「侵入者?」
右半分のモニターを、自分の居る建物の周囲に設置したカメラに切り替える。
警告音の音色は、第一警戒音。
結構鳴る。
それは自分の居る場所の半径50メートル四方に、誰かが入ったら反応するシステムだからだ。
ちなみに、半径30メートル以内で反応するのが第二警戒。
半径10メートル以内での反応が、最終警告音だ。
早いうちに侵入者の行動を把握しておかないと、対処する時間も無くなる。
それにはこれ位の距離を保っておかないと何もできない。
モニターに映し出されたのは、三人の男女。
ガタイの良い男と、長髪の女。
、、、の後ろにもう一人、女が居た。
スマホの画面を確認しながら歩いているのが見て取れた。
そうなると、目的地は此処だろう。
この時間にうろつけるヤツは、間違いなくEG使い。
地図を見ながら歩く姿は、きっと結界内の観光マップに載ってるソフマップなんば店跡地を見に来たのだろう。
そこは例の巨大ミノタウロスが破壊した場所で、エレクトリック・ゴーストが常に現れる場所として有名。
――クソ忙しい時に、、、!
別に忙しくはない。
モニターを片目で見てるだけの男だ。
ただ佳穂の状況を見届けたい思考で頭がいっぱいだったので、このセリフが出た。
スマホを取ってまた連絡のつく別のEG使いを探そうとしたら、そのタイミングで着信音が鳴った。
「うわっ、、、」
驚く。
画面に映る発信者の名前は、、、“珈琲”。
このタイミング、ベストな相手だった。
「ども。なんやさっき電話くれてたみたいですね。出れんでスンマセン。なんか用事っすか?」
「そやねん、ちょっとお願い事が出来てな、、、」
「え~、モノアイさんのお願いって、なんか怖いっスわ~」
声の主が放つ雰囲気が、スマホ越しにもヘラヘラ伝わってくる。
「こわない怖ない。珈琲、今ヒマか? ひとりか?」
「ヒマっちゅうたらヒマです。りんご姉さんと一緒ですわ」
「ナイスな取り合わせやな。ここまで何分で来れる?」
「モノアイさんとこっスか? 今近くですよ。そやね、五分くらいで行けます」
「そらええわ。スグ来て」
一瞬の間。
が、取り繕ったようなヘラヘラ感を維持した珈琲の声。
「え~、返事する前に先、その『お願い事』って何なんか教えてくださいよ」
「しゃーないな、教えたるわ。ちょっとこっちに怪しい三人組が向かっとんねん。そいつら追っ払って欲しいねん」
「え~~、そんくらいモノアイさんやったらヨユーでしょ?」
「それがな、今ちょっと手ぇが離せんでな。頼むわ~」
「どうしよっかな~。ちょっとりんご姉さんにも聞きますね」
このアホ! 勿体ぶりやがってと思っても決して声に出してはイケナイ。
モノアイ、今は頼む側なんだから。
「あ、もしもし? オーケーです。りんご姉さんが『良えよ』って言うたんで行きますわ」
「マジか~! 助かるわ~」
「あ、でもこれは“貸し”なんで忘れなやってりんご姉さんが言ってます」
「モチのロンや! ほな頼むな! りんごちゃんにもよろしゅう!」
これでモノアイは、腰を据えてモニターを見ることに集中できた。




