紅朱同赤 伍 その1
浪速日本橋郵便局の中、管理者はもうとっくに居ない。
けれども、腕が痛くて動けなかった。
管理者に貰った救急箱の中に入っていた包帯でグルグル捲きにした腕が、やっと血を流すのに飽きたようだ。
それでもその左腕は、震えが止まらない。
「すまない。オレのせいだ」
もう何回聞いたか、、、。
責任を感じるのは解るが、しつこいのは嫌われるよ、と教えてあげたかった。
「謝らなくて良い。オマエを止めるのも私の役目のひとつだ」
李楠は駱嘉の顔を見ながら、何度も謝る大柄な部下を窘めた。
改めて、見る。
真正面から恥ずかしげもなく、自分を見つめる駱嘉のすまなそうな顔がカワイイ。
――と思ってしまう私は、やはり駱嘉がタイプ、、、なのか?
自問自答。
李楠は顔が赤くなるのを察知し、話題を振った。
「え、え~と、どうしよっか」
「何がですか?」
聞き返したのは、范蘇円。
「管理者との契約は、まぁ、上手くいったわ。二人に感謝ね」
「私は何も、、、」
――してねぇよな。確かに
と、相変わらず范蘇円へのツッコミは厳しい。
「管理者に貰ったスマホ、使ってみないか?」
駱嘉と范蘇円が、互いに見合った。
そして呼吸を合わせたように、李楠を見る。
貰ったスマホは、管理者が創った賞金ポスシステムがインストールされている端末で、特殊なコーティングされてるとのこと。
李楠のように術者やEG使いで無くても、結界内で問題なく使えるようになってるらしい。
本来は、結界内に入ったEG使いが参加することで作動するのだが、管理者特権でこのスマホを使えば部外者の李楠も問題なく使える。
范蘇円が羨ましそうに『私も欲しい』と言っていたが、彼女はEG使いなんだから自分でソフトをダウンロードすれば良い。
そう言ってやったら、狙われるから嫌だと拒否された。
――何しに来たんだよ!
「今、、、やりますか?」
スマホを見つめて、また李楠の顔を見て、范蘇円も確かに興味津々だ。
「日本の有名な諺を知らないのか?」
「ことわざ? どんなのですか?」
「いつやるの? 今でしょ!」
間違った知識だが、使いどころは合っている。
「なるほど良い言葉だ」
駱嘉もノって来たので、スマホに入れてもらってるソフトを立ち上げた。
初期設定の場面が最初に来るが、それは管理者の教えてくれたパスワードを入れるとどんどん回避できる。
そのまま最後に登録終了のボタンを押せば、賞金ポスシステムを参加しなくとも使えるようになるとのこと、、、。
李楠はその直前の、システムの説明画面で止まった。
内容に、興味が湧いたのだ。
長ったらしい文言を得意の速読で読もうとしたら、横から聞かれた。
「何してるんですか?」
画面を見たまま一瞬動かなくなった李楠に、范蘇円が聞いて来たのだ。
「いや、このシステムの内容を理解すると、どういった心理で結界内のEG使いたちが行動してるのかちょっとでも解らないかなぁ~とね」
范蘇円は、素直に感心した。
さすが上司と。
「何かそう言われると、上司っぽいですね」
これはまったく悪気の無い、范蘇円の人を小バカにする誉め言葉。
――上司だよ!
本人は完全に褒めてるつもりなので、本国でも『范蘇円はそう言うヤツだ』と認識されている。
注意しても直らないし、、、。
「こういった細かい事を気にするのも、上司の役目なんだよ」
二人の会話に駱嘉が興味を示し、李楠の指摘を『もっともだ』と言ってスマホの画面を見ようと顔を近付けて来た。
「ぅおいおいおい!」
テレて後退り。
――無自覚な二枚目!
「?」
――キョトンとすんじゃないわよ!
「ち、ちょっと、今私が見てんだから、、、あなたまで覗き込んだら、余計に見にくいでしょ!」
駱嘉と范蘇円が一度顔を見合わせ、『確かに』と頷く。
サラッと出た言い訳に、二人とも納得してくれたようだ。
「二人は後で見なさい」
そう言うと、再び視線をスマホの画面へ。
李楠は得意の速読で画面をスクロールし始めた。




