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カ・ル・マ! ~天王寺の変~(改訂版)  作者: 后 陸
天王寺の変 四の章
105/192

紅朱同赤 肆 その3

 カギの()く音がした。

 入って来た錦戸。


 「で、出来た、かな、?」


 当たり前のように、()()()()()()()()を、()()()()()()()が見下ろした。


 「できたできた似てる似てるえへえへえへ」


 吐き出された錦戸が、ゆっくり立ち上がった。

 頭を振る。

 頭痛を追い払う仕草だ。

 そして前を見ると、自分をここに閉じ込めた錦戸が立っている。


 「てめぇ錦戸コラぁあ!」


 怒鳴った瞬間、錦戸が孝哉になった、、、?

 服、パンツ、靴も孝哉だ。

 言うなら背丈や体形も孝哉だ。


 ()、が孝哉なのだ。


 それなのに、全体を見ると錦戸だ。

 だがその合間を()うように、孝哉にも見える。

 瞬間瞬間で、錦戸と孝哉が入れ替わる。


 レンチキュラーのように、見る角度で二人が幾度となく入れ替わる。

 床から立ち上がった錦戸が、扉の前に立つ錦戸の胸倉を掴む。


 「オレに、何した?!」


 そう叫んだ瞬間、孝哉だった。


 「はい、、、バンザ~イィィィィィ」


 胸倉を掴まれたまま、錦戸が言った。

 言われた錦戸の思考が、混濁(こんだく)していく。


 ――バンザイ? 何言(なんゆ)うとんねん! ナメてバンザイんのか錦戸バンザイのクセに! バンザイやと錦バンザ戸イ??? バンザイって、、、両手を、上げるんやな、、、


 一度幻を追い払うように、両目をギュッと閉じ、再び開ける。


 ――目の前の錦戸が、脳の中に居る錦戸を通じてオレにバンザイを、、、あれ? なんか、、、気持ち良さそう。バンザイって、気持ち良さそう。ちゃうねんちゃうねん、錦戸の言う事を聞くと、気持ち良さそうや、、、


 「バ、、、バン、ザ~~、、イ、、、」


 錦戸の胸倉を掴んでいた手を離し、両手を上に上げる錦戸。


 ――ほら、錦戸の言う事を聞くと、こんなに気持ちイイ!!


 元、孝哉である錦戸の、錦戸()が濃くなった。


 「よくで、、で、で、できまし、、、た!」


 錦戸が褒めた。

 褒められた錦戸は、喜んだ。




 誰にも知られず、そんなことが倉庫の中で起こったのが一週間前。

 今また、その倉庫の前に、錦戸の姿があった。


 「えへへ、へへ、へへへ」


 笑ってる。

 錦戸お決まりの、下卑た笑い。


 「なんやねんオマエ、気持ち悪いのぉ、、、」

 「こここのの中にぃ、えええええええもんがあるうぅぅう」

 「気持ち悪っ! なんや知らんけど、中見たらええんか?」

 「見て見て見て見て」

 「解った分かった」


 一週間前と同じく、この場に呼び出されて付いてきた蛇骨会のメンバー。

 こいつは新人ではない。

 それなりに知られたヤツだ。


 扉を開ける。

 覗く。

 何も無いと怒る。

 背中を押された。

 カギを閉められた扉を背に、目の前にEGの貝が現れた。


 「これは、、、?!」


 繰り返す、錦戸の作業。


 「え、、、、っと、これで、、、」


 折った指を伸ばしながら、数をかぞえ始めた。

 右手の指が全部開いた。

 左手に移る。

 三本伸ばした所で、倉庫を見た。


 見ながら、指をもう一本伸ばした。

 下卑た笑いが起こる。


 このまま此処に居て、誰かに見られるのは得策ではない。

 錦戸はその場から離れる。

 40分後、この扉を開けるのが待ち遠しかった。



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