紅朱同赤 肆 その3
カギの開く音がした。
入って来た錦戸。
「で、出来た、かな、?」
当たり前のように、床に倒れてる錦戸を、入って来た錦戸が見下ろした。
「できたできた似てる似てるえへえへえへ」
吐き出された錦戸が、ゆっくり立ち上がった。
頭を振る。
頭痛を追い払う仕草だ。
そして前を見ると、自分をここに閉じ込めた錦戸が立っている。
「てめぇ錦戸コラぁあ!」
怒鳴った瞬間、錦戸が孝哉になった、、、?
服、パンツ、靴も孝哉だ。
言うなら背丈や体形も孝哉だ。
元、が孝哉なのだ。
それなのに、全体を見ると錦戸だ。
だがその合間を縫うように、孝哉にも見える。
瞬間瞬間で、錦戸と孝哉が入れ替わる。
レンチキュラーのように、見る角度で二人が幾度となく入れ替わる。
床から立ち上がった錦戸が、扉の前に立つ錦戸の胸倉を掴む。
「オレに、何した?!」
そう叫んだ瞬間、孝哉だった。
「はい、、、バンザ~イィィィィィ」
胸倉を掴まれたまま、錦戸が言った。
言われた錦戸の思考が、混濁していく。
――バンザイ? 何言うとんねん! ナメてバンザイんのか錦戸バンザイのクセに! バンザイやと錦バンザ戸イ??? バンザイって、、、両手を、上げるんやな、、、
一度幻を追い払うように、両目をギュッと閉じ、再び開ける。
――目の前の錦戸が、脳の中に居る錦戸を通じてオレにバンザイを、、、あれ? なんか、、、気持ち良さそう。バンザイって、気持ち良さそう。ちゃうねんちゃうねん、錦戸の言う事を聞くと、気持ち良さそうや、、、
「バ、、、バン、ザ~~、、イ、、、」
錦戸の胸倉を掴んでいた手を離し、両手を上に上げる錦戸。
――ほら、錦戸の言う事を聞くと、こんなに気持ちイイ!!
元、孝哉である錦戸の、錦戸色が濃くなった。
「よくで、、で、で、できまし、、、た!」
錦戸が褒めた。
褒められた錦戸は、喜んだ。
誰にも知られず、そんなことが倉庫の中で起こったのが一週間前。
今また、その倉庫の前に、錦戸の姿があった。
「えへへ、へへ、へへへ」
笑ってる。
錦戸お決まりの、下卑た笑い。
「なんやねんオマエ、気持ち悪いのぉ、、、」
「こここのの中にぃ、えええええええもんがあるうぅぅう」
「気持ち悪っ! なんや知らんけど、中見たらええんか?」
「見て見て見て見て」
「解った分かった」
一週間前と同じく、この場に呼び出されて付いてきた蛇骨会のメンバー。
こいつは新人ではない。
それなりに知られたヤツだ。
扉を開ける。
覗く。
何も無いと怒る。
背中を押された。
カギを閉められた扉を背に、目の前にEGの貝が現れた。
「これは、、、?!」
繰り返す、錦戸の作業。
「え、、、、っと、これで、、、」
折った指を伸ばしながら、数をかぞえ始めた。
右手の指が全部開いた。
左手に移る。
三本伸ばした所で、倉庫を見た。
見ながら、指をもう一本伸ばした。
下卑た笑いが起こる。
このまま此処に居て、誰かに見られるのは得策ではない。
錦戸はその場から離れる。
40分後、この扉を開けるのが待ち遠しかった。




