第1話 死んだはずだった
ー神歴723年5月1日 ラーマーウルト西部を流れる川ー
ヒトラーは死んだはずだった。
ヒトラー「なんだここは……?」
清流のせせらぎが耳をくすぐる。目の前には広大な森と澄んだ空。ヒトラーは額の汗をぬぐいながら周囲を見渡した。
ヒトラー「私は死んだはずではなかったのか……」
生きている。心臓は確かに鼓動している。
しかし、ここは自分が知るどの場所でもない――
未知の世界だった。
腹の底が鳴る音が現実を突きつける。
「腹も減った。喉も渇いている……」
目の前の川は透き通るほどに澄んでいる。ヒトラーは警戒しつつも、水を掬って飲んだ。
「つぎは食料が必要だ。」
ヒトラーは水を飲み終えると、ゆっくりと川辺を見渡した。
青々と茂る木々、鳥のさえずり、透き通った川の流れ――
それは彼が知るどの風景とも異なっていた。
「ここはドイツでもなければ、地獄でも天国でもない。どこだ?」
彼は頭を振り、状況を整理しようとしたが、思考を邪魔するように空腹が襲ってきた。
「とにかく食べ物を見つけなければならない)」
そう決意すると、ヒトラーは森の中へと足を踏み入れた。
木々の間を彷徨ううちに、小さな赤い実がたわわに実っている木を見つけた。
「これは…食べられるのか?」
彼は慎重にひとつ摘み、匂いを嗅ぎ、恐る恐る口に運んだ。甘酸っぱい味が広がる。
「…悪くない。」
次々に木の実を摘み取りながら、彼は森の奥へと進んでいった。
どれくらい彷徨ったのか分からない。やがて遠くから人々の声が聞こえてきた。
笑い声や話し声、どこか賑やかな雰囲気に満ちている。
「人がいる…!」
彼は声の方向へと歩みを進めた。木々の隙間から視界が開け、目の前には小さな集落が広がっていた。
粗末な木造の家々、煙突から上がる薄い煙、集落を行き交う人々――。
その光景を見つめながら、ヒトラーは思わず足を止めた。
第1話 終




