変化
その夜、美咲は歩きながら、静かな変化に気づいていた。翔太の姿が、頭の中で何度も浮かび上がる。舞台での完璧な演技も、少し前に見せてくれたあの弱さも、今はまるで一つの人間として結びついているような感覚があった。彼の演技を愛していた自分は、もはやただの「推し」としての彼を見ているわけではないことに気づいた。
「翔太さん…」
その名前を繰り返し心の中で呼んだとき、胸の奥に何かが温かく広がるのを感じた。翔太が舞台で見せる輝き、それがどれほど美しくても、今はもうその姿だけでは心が満たされることはない。あの夜、翔太が見せてくれた素顔。彼が舞台の外で語った苦しみ。美咲の中でそれらがしっかりと根を下ろし、彼への感情が変わっていった。
翔太が打ち明けた苦しみ。それを知ったことで、美咲は翔太を「推し」ではなく、彼の全てを少しでも理解したいと思うようになった。彼が完璧な役者であることには変わりないけれど、それだけではもう、彼をただの「ファン」の視点で見られなくなっていた。苦しみや孤独を抱えたままで演技をしている翔太。その人間味を知ってから、彼を愛する気持ちが、何か一歩踏み込んだものに変わったのだと感じる。
美咲は、街灯に照らされた歩道を一歩一歩進む。思い返せば、彼を最初に見た時から、ずっと舞台上で光り輝く彼を尊敬してきた。それでも、今感じるのは、その輝きだけではない。翔太の内面に触れることができたからこそ、彼を本当に理解した気がして、その感情がとても深く、強く感じられる。
翔太はもう「推し」ではない。彼をただの役者として見ることはできない。美咲はそれを自覚し、少し驚きながらも、どこかで安心したような気持ちを抱えていた。翔太を知ることができたからこそ、彼をもっと大切に思いたいと思った。演技の上で見せる完璧さだけでなく、舞台外で見せる素の部分。それが彼の全てであり、今はその全てを知りたい、支えてあげたいと強く感じている自分がいた。
「推しじゃない…」
美咲はその言葉を心の中で呟いた。もはや、彼の演技を超えて、翔太という人間そのものに魅かれ、心を動かされていることを、確かな実感として感じていた。