稽古場2
最初は何をどうしていいのか、まるでわからなかった。心の中で何度も自分に問いかけていた。
「私、本当にここで役に立てるの?」
舞台の華やかさを支える裏方の仕事は、思っていた以上に複雑だった。音響の調整、小道具の配置、俳優たちが舞台に出る直前の細かなケア……ひとつひとつが舞台全体の流れを作り上げる重要な作業だった。それを知れば知るほど、美咲は自分の未熟さに焦りを感じた。
しかし、彼女がそんな思いに押しつぶされそうになっているとき、周りのスタッフたちが優しく彼女を支えてくれた。
「最初はみんなそうだよ。焦らず、一つずつ覚えていけばいいさ。」
舞台監督の佐藤さんが、柔らかな笑みを浮かべながら彼女に声をかけてくれた。美咲が失敗して落ち込んでいるときも、佐藤さんは決して責めることなく、ただ冷静に次のステップを教えてくれた。音響スタッフの三浦さんは、美咲が間違えて音を早く出してしまった時も、笑って「こういうこともあるよ」と軽く肩を叩いてくれた。
「大事なのは、その失敗をどう次に活かすかだよ。」
少しずつ、失敗を重ねながらも、美咲は舞台裏での自分の役割を理解し始めた。何度も手順を確認し、次に何が起こるかを頭に入れ、俳優たちの動きを常に意識して行動する。それができるようになってきたのは、周りのスタッフの支えと、彼女自身の舞台に対する強い情熱があったからだ。
舞台好きの情熱。それは、美咲の心の奥に根付いていたものであり、舞台を愛するスタッフたちにも自然と伝わっていった。美咲が台本を何度も読み込んで、俳優たちがどう動くかを予測しながら小道具の配置を考えたり、次のシーンでどんな音響が求められるのかを真剣に考える姿勢が、次第に周りの人々に認められるようになっていった。
「美咲ちゃん、あのシーンの小道具、もう少しこっちに置いたほうが俳優が取りやすいかもね。」
ある日、佐藤さんが何気なく言った言葉に、美咲はすぐに反応した。
「はい、すぐに直します!」
彼女が動く速さと、次第に的確な判断力を身につけているのを見て、スタッフたちは彼女を「頼りになる」と感じ始めた。音響の三浦さんは、美咲がいつも俳優の動きに敏感で、次に何が必要かを先読みして行動することを称賛した。
「君、ほんとに舞台が好きなんだな。そういうのが自然と伝わるんだよ。俺たちも、もっと一緒に仕事しやすいって感じるよ。」
最初は舞台の大きさに圧倒されていた美咲だったが、今では周りの人々の中で、その情熱を認められ、一つのチームの一員として動けるようになっていた。そして、彼女自身も、自分が舞台の一部として息づいていることを感じ始めていた。
舞台が完成していくその過程の中で、美咲は自分がただの観客ではなく、物語を支える一人になっているという実感を抱くようになった。そして、それは何よりも美咲にとって、舞台を愛する気持ちをさらに強くする原動力となっていった。
翔太がステージに立つたびに、美咲は自分もその一部だと感じる。その思いが、彼女を舞台裏でさらに動かし続けるエネルギーとなっていた。