想い
美咲は、待ち合わせの駅前に立ちながら、少しだけ緊張していた。翔太と正式にデートをするのはこれが初めてだった。これまで何度か仕事や舞台のことで会っていたものの、プライベートで会うのは、また別の意味を持つ。彼がそばにいるだけで心が落ち着くのを感じていたが、それでも今日は違う。心のどこかで、今日が二人の関係において新たな一歩になるのではないかと予感していた。
「お待たせ。」翔太の声が背後から聞こえてきた。振り向くと、彼が少し照れくさそうに笑いながら近づいてきた。いつもとは違う、ラフな服装がまた新鮮だった。
「いえ、私も今着いたところです。」美咲は自然に笑顔を返し、彼の隣に並んだ。
「今日は、映画だよね。久しぶりに映画館で映画を見るなんて、なんだか新鮮だな。」翔太が楽しそうに言った。舞台俳優として忙しい彼にとって、映画館でのんびり映画を観る時間はほとんどなかったのだろう。
「私も楽しみにしてました。映画も面白そうだし、翔太さんと一緒に過ごせるのが嬉しいです。」美咲の言葉に、翔太は少し照れたように目を逸らしたが、すぐに笑顔に戻った。
映画館は駅の近くだった。二人で並んで歩く道のりは、いつもの舞台裏での仕事の合間に交わす会話とは少し違って、よりリラックスした空気が漂っていた。映画館に着き、チケットを買ってポップコーンを手に席に着くと、二人は映画が始まるのを待った。
映画は、感情の深いドラマだった。登場人物たちがそれぞれの孤独や葛藤を抱えながら、次第に心を通わせていく物語。美咲は映画にすぐに引き込まれたが、隣で静かに映画を見ている翔太の横顔が、ふと彼の舞台での姿を思い起こさせた。
映画が終わり、二人は静かに席を立ち、映画館を後にした。夜の街は少し肌寒く、街灯が温かい光を放っていた。
「すごい映画だったね。なんだか、舞台と似てるところがあった気がする。」翔太が感想を述べた。
「うん、特にあの主人公の孤独と葛藤が、翔太さんの演技を見ているときと同じような気持ちになったかも。」美咲は素直に言葉を返した。彼の演技が、映画のキャラクターと重なる瞬間が何度もあった。
「そうかもね。僕もあの主人公には共感した部分が多かったな。でも、演技って、やっぱり難しいよね。自分をどれだけ投影するかで、役が全く違うものになる。」翔太は、どこか遠くを見るような目で語った。
「でも、翔太さんは自分をしっかり保って演じてる。それがすごいと思う。」美咲は彼を見上げながら言った。彼が抱える孤独や苦しみを知っているからこそ、その演技がどれほどの重圧と戦いながら生まれているかが理解できる。
二人はしばらく静かに夜道を歩き続けた。言葉は少なくても、互いに感じる安心感がそこにはあった。
やがて、駅前の広場に戻ってきたとき、翔太がふと立ち止まり、美咲を見つめた。彼の目には、何か言いたそうな気持ちが宿っていた。
「美咲…今日はありがとう。君と一緒に過ごせて、本当に楽しかったよ。」翔太の声は優しく、でもどこか真剣だった。
「私も、すごく楽しかったです。翔太さんと一緒にいると、なんだか安心できて…。」美咲は微笑んで答えたが、心の中で高鳴る鼓動を抑えることができなかった。
その瞬間、翔太がそっと近づいてきた。彼の手が美咲の肩に優しく触れ、次の瞬間、彼の唇がそっと美咲の唇に触れた。
キスは短く、優しかったが、その一瞬で二人の心がさらに深く繋がったことを美咲は感じた。翔太の温もりが、美咲の心をさらに温かく包んでいく。
「ごめん、急に…」翔太が照れくさそうに言ったが、その目には確かな思いが宿っていた。
「大丈夫です、私も嬉しかったです。」美咲は微笑んで答えた。その夜、二人の関係は一歩進み、夜の静けさが二人を優しく包み込んでいた。




