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ラブコメ・恋愛

恥ずかしながら異世界帰りというやつです 精神年齢が27歳で高校生するのが辛い


 はじめまして、(ともえ)奈緒(なお)です。

 今どきのJKを、10年前ぐらいにやっていました。

 異世界に行ってました。そして帰ってきちゃいました。おまけで年齢も戻してもらって。若さって大事だよね。若さに囚われて何が悪い。正直なので。

 特に、魔法とか特殊能力とかは受け継げなかったけど、病弱だった身体を治してくれる程度はしてくれました。神様は少しケチでした。

 


「おい、待てって。お前、身体弱いんだから」


 こうね、幼馴染のハルキが私を心配してくれるんです。

 うん、以前の私、なんかいいなぁ、と思ってました。でも、今は恥ずかしいんです。

 幼馴染に心配されるヒロイン的な感覚に酔っていたようなフシがあって…………。ああっ、しかも今は身体が元気ですし。


「心配いらないよ。元気になった。健康健康」


「とか言って、無理したら、また倒れるぞ」


 はいはい、どうぞ。私の隣はいつだって空いてまーす。

 向こうに10年間いても、カレシもできませんでした。自分の容姿のレベルが完全に理解できました。

 17歳の自分よ、あなたの容姿は傾国の美少女ではないと警告しておく。

 よくて中の中の上。悪ければ中の下の下ぐらい。

 ええ、下のランクまでは行きたくないんです。精神衛生のために。

 見向きもされない空気のような容姿、ザ・量産系女子。マンガの中の空気に溶け込む女子。


「宿題やった?」


「やってるよ。俺はいつも終わらせてるぞ」


 まー、そうなんだけど。もう10年前の宿題がむずくてむずくて。おばちゃん、忘れちゃったなー、ほとんど。sincostanとか異世界で見なかったし。古文とか、完全に抜け切った。自動翻訳魔法だけでも恩恵くださいよ、神様。語学の天才で食っていくので。


「そういえば、成績落ちてたな」


「今度のテストは頑張る」


 おばちゃん、いやいやお姉さん、もっといい点数目指せるから。前回のは異世界から帰ってきて早すぎたせい。地頭はいいんです。やればできる大人の女。アラサー舐めんな。1人で、なんでもできます。健康にしてもらってるし。

 二人で歩く。歩く速度に気を遣われないように、わたしは早く歩いた。もうね、気にしなくていいからね。病弱系ガリガリ女子から離れて、若さ溌剌笑顔はじけるコミュ強女子にアタックして、陽キャパリピウェイウェイしていいからね。


「俺さ、今度、スタメンなんだ。応援来てくれるか」


「もうスタメンなんだ。すごい」


 サッカー部のハルキ。2年生でさっそくレギュラー。

 え、わたし……マネージャーでもないし文化系の部活動もしていない、帰宅して引きこもることに特化した生徒でした。

 いや、風邪をよくひくし、入っても迷惑だっただろうし。


「行くよ。応援」


「見てるだけでいいから。声とか出すと疲れるだろう」


「ううん、大丈夫。応援ぐらい問題ないよ。最近、血色もいいでしょ」


「まぁ、肉はついたけど」


 さっとハルキに前腕を掴まれる。

 肉がついたなんて、なんか贅肉で太ってるみたいな表現しないでほしい。わたしが17歳の乙女だったら、拒食症になるよ。ならないか、さすがに。

 神様、この健康体、太りやすくなってませんよね。そろそろ骨と皮に十分な肉がついた頃です。乙女の健康体は、体重の意識を忘れてないで。BMIは22まで行かなくていいからね。19ぐらいが女子の理論値ですから。健康とスタイルは両立させて。年老いて骨粗鬆症とか嫌だし。


「おーい、どうした?」


 ぷにぷにとわたしの前腕をもまれる。


「ハルキ。肉がついたじゃなくて、別の言い方ないかな」


「恰幅が良くなったとか」


「それで丁寧に言ってるつもり……あはは」


 まぁ、ハルキが浮いた言葉を使う方が不自然で、さては彼女でもできたな、と疑いたくなるけど。

 でも幼馴染として、ハルキが百年の恋も冷めるようなことを言わないように矯正しておいた方がいいのだろうか、失敗で学んだ方がいいかな。


「デリカシーのない言葉に傷つきました。先に行くね」


 少年よ、乙女心を理解するのだ。

 わたしは、その参考書にしていいよ。


「って、待てよ」


 はい。追いつかれますね。さすがに。

 早足早足。





 ハルキと別れて自分のクラスへ向かって、午前の三限目まで受け終わった。

 はてさて、ノートを借りたりしなくて良くなって、体調が良くなったのはいいけど。

 

 四限。

 体育、どうしよう……。


 活発に動きたい。身体が運動を所望している。

 若さの衝動が身体を動かすことを。

 でも、いつも、休んだり、少し参加するぐらい。まともに体育を受けることは少なかった。


「トモエ、今日はどうするの。体育できそう?」


「うん、最近、調子いいから」


 クラスメイトの葵に声をかけられて、とっさに答えてしまう。

 参加しまーす。

 まぁ、やりたかったわけだし、無問題だよね。

 

「トモエ、血色良くなってきたよね」


「でも、このままだと太っちゃうかも」


「そんなに痩せてて何いってんの。もっと太れ〜、もっと太れ〜」


 変な念を送りながら近づいてきて抱きつかれた。


「きゃっ、ちょっと、抱き付かないでよ」


「うんうん、あったかいぞー。これは、厚い脂肪のおかげかな」


「全然ッ、厚くないから。そっちの方があったか……ちょっ、更衣室で、更衣室でぇ!!??」


 葵の手が、するりと服の中に入っていこうとしていた。

 教室で、そんなことされたら男子の視線が。いや、みんな外しているけど。思春期の男子だから。


「じゃあ、更衣室で続き、しよ」


「しないから」


 せめて更衣室なら、まだ許容できるだけで、更衣室なら好きにしていいってわけじゃないから。

 ほんと、外見は少女でも、中身はおじさんなんだから。

 さっさと行って、早く着替えてしまおう。

 


 体育はバレーボールだった。

 異世界から帰ってから、体育の授業は何回か受けていた。でも、そんなに思いっきり動いたりはしなかった。身体は細い状態だったし、いきなり活発に動いたら、変な人に思われそう。最悪、病弱は仮病と認識されて、ハブになるかもだった。

 まぁ、もう精神年齢的には、除け者にされても辛くないのだけど。


「アオイ、いくよー」


「ちょっと、トモエさん。そのサーブは、想定がーーいっ」


 ジャンピングサーブを華麗に決めていた。

 うん、なんて気持ちいいのだろう。身体が軽すぎる。

 サーブ練習で、バレー部に混じって、ジャンピングサーブをしていた。


「トモエ、運動神経良かったんだー」


 向こうから、ボールを下から打ってサーブしながらアオイが叫ぶ。

 ネットを超えて、バウンドした球を受け取る。そして、またサーブを返した。

 何度か繰り返した後、班に分かれて、ワンセットの試合となる。


「トモエさーん、やっちゃってくださいよ」


「アオイ、なんでさん付け。まぁ、うってこうか」


 サーブで10点近くまで入った。その後、サーブをミスしてしまったけど。


「スーパーハイパートルネードトモエサーブ、凄かったよ」


「わたしのサーブ名、ダサすぎない」


「トモエがダークホースすぎて、この班余裕で勝てそう」


 和気あいあいと班員と話しながら、試合をしていたけど、結果は、10点差以上つけて勝ってしまっていた。

 別に向こうでママさんバレーしてたわけでもないんだけど。

 わたし、運動神経良かったんだ、と自覚できた。まぁ、でも、所詮高校生の体育。井の中の蛙というやつだ。運動部でもないし、プロ相手に無双してチートなんてできやしないと分かっているけど。


 けど、うん、いい汗かいた。

 異世界では魔法頼りだったし、別に体調は良くしてもらってなかったし。

 まぁいいけどね。女騎士とかわたしキャラじゃないし。うん、魔法の杖を本当に杖にする虚弱魔法使いでした。ヨボヨボ。



「あんまり、無理するなよ」


 お昼ご飯。わざわざハルキがこっちのクラスに来てくれている。

 彼氏じゃないです。ただの幼馴染なんです。

 とか思いながら、少女マンガぽくていい、と思っていたかつてのわたしがいます。

 体育で全力全開で運動していたことがバレているもよう。


「わざわざ来なくてもいいんだよ」


「倒れたらすぐ運ばないといけないからな。保健室までは運んでやるよ」


 もー、別に倒れないって。

 さすがに集会中に貧血で倒れたことを引きずりすぎ。


「最近、ほんと、体調いいんだって」


「それで無理したら、逆戻りかもだろ。別にいいだろ。俺が近くにいても。好きな男子でもいるのか」


 はい、直球。

 いや、だからわたしが好かれているわけじゃないと分かるんだけど。

 いません。いませーん。

 今のところ、カレシなんて考えたこともない。

 体調悪すぎて、自分の身体の気遣いに振りすぎていて。


「いないけどさー。変な噂になるよ」


 わたしの彼氏より自分の彼女の心配をしなよ。


「いいんだよ。俺も別に好きなやついねーし。噂なんてどうでもいいし。てかさ、ナオ、運動神経あったんだな。絶対、ないと思ってた」


「だよね。自分でもビックリ」


 運動経験ほぼないのに。身体が思い通りに動いてくれるし、ボールの感覚も外れないし。

 もしかして健康って、最大限度の健康状態だったりするのかな。わたしの肉体のマックスポテンシャルまで引き上げたとか。


「ネット小説にできそうだな。病弱だったわたしが治ったら、運動神経よすぎて無双しちゃった」


「なにそれ」


「王道だよ。落ちこぼれが覚醒するっていう少年漫画の」


「キャッチコピーダサすぎない」


「いやタイトルのつもりだったんだが」


「ハルキー、文才ないよ」


「うるせっ。いらねーよ。文才なんて。ナオの方があるんじゃないか。本、よく読んでいただろう」


「あー、そうだねー」


 何読んでたっけ。

 昔のことすぎて覚えてない。甘々の恋愛小説ばっかり読んでいた気がする。恥ずかしい。恥ずか死ぬ。

 なんでわたし、あんなに乙女だったんだろう。

 シンデレラに憧れる時代は過ぎました。

 大人の階段を登りすぎました。まぁ、見事に一段飛ばしているんだけど。恋愛未経験でも大人になれますよね。想像力が豊かだから。


「忘れてそう」


「忘れたら、また読めばいいんだよ。二度美味しい」


 今度、本棚の整理をしよう。そうしよう。

 ざっと当時の読んでいた小説を思い出そう。甘すぎて砂糖をはかないように注意。本は再読が大事なんだよ、採毒かも。

 ぼんやりと本棚のことを思い出しながら、軽くハルキに相槌を打って、お昼ご飯を終えた。


「ナオ、本当に健康になったら、いつでもサッカー部のマネージャーが空いてるからな」


「そんなの迷惑でしょ。三年間の仲間で挑みなよ。唐突に入っちゃうとね」


「元気になったら、何かしたいだろう。ま、別のことでもいいけどさ。運動神経いいなら、運動部もいいけど。体力もいるからな」


 たしかに。練習についていけないかも。

 まだ同世代より筋力も肺活力もないだろうし。マラソン大会とかいつもでてなかったし。5kmでも死ぬ自信がありました。




 ハルキの試合の応援を一生懸命して、テストも乗り切って、晴れて二学期。時の経つのはなんとやら。光陰矢の如し。乙女たちよ、青春を無駄にするな。二度と戻ってこない春もあるのだよ。

 

「ナオ、本当に、肉ついたな」


 やめて。痩せる予定だから。ちゃんと運動しないと。

 今までダイエットと無縁だったわたし、舐めてました。

 思春期の健康体の食欲すごい。

 病弱で勝手に食欲が抑えられていたけど。


「そーゆうこと言うとモテないよー」


「モテなくていいよ」


 この男子、達観しすぎでは。わたしが10代だった時、もっと異性にメラメラだったのに。なお、メラメラとは意識だけが過剰で真っ赤になる現象。行動は皆無。


「そんで、マネージャーするのか」


「そうだね。お手伝いしようかな」


 運動部でもいいけど、やっぱり異世界行っていた影響があるのかもしれない。それで活躍するのは、みんなの努力を否定することになる。

 マネージャーだったらそんなことはないし。マネージャーの末席で、お手伝いした方がいい。

 一年からマネージャーの人の邪魔をしないようにしないと。青春するには、わたしは遅すぎるからね。二年の夏からとか、よそ者だよね。


「いいか。基本、俺の専属だからな」


「うわー」


「ちょっと待って。なにか誤解している」


「ハルキ、束縛がすごい俺様系だったんだー。うわー」


 わたしは棒読みで言った。


「違う違うっ。無理をするな。そういうことだ。マネージャーでも俺がちゃんと気遣う。俺が判断して無理そうならやめさせるってことだ」


 それ、わたしがマネージされてない。選手に気を遣われるマネージャー。


「ハルキ。言葉選び頑張った方がいいよ。読書しようね」


「後でな。人生の晩年に取っておくよ。本はスポーツできなくなっても読めるし」


「そして、こう言うんですよ。もっと早く読んでいれば……って」


「いいさ。一度だけの人生だし。運が悪かったと思うよ」


「それで。ハルキ専属のわたしは、何すればいいのかな」


「いや、基本、他のマネージャーと同じだよ。体力いりそうなことはしなくていいぞ」


「はいはい」





「ナオ、お前、めちゃくちゃリフティング上手いな」


「そう。慣れただけだよ。空いてる時間のお手玉みたいなもんだよ」 


「お前、オジャミ感覚なのかよ」


「こんなの誰でもできるでしょ」


 健康的な肉体って素晴らしい。足が動くんですよ、思ったように。何もないところでコケたりしないだけでもいいのだけど。


「ナオ、普通、10回もできないんじゃないか」


「そっか。そうする」


 一般的な女子の運動能力ってどれくらいなのだろう。

 もっとちゃんと体育で見ておいた方がいいかな。でも、10回一回やめるの、逆にしんどい気も。


「いやいやナオ。別に、そういうことじゃなくて」


「特技リフティングって、履歴書に書こうかな」


「ナオ、俺、わかったよ」


 ん、なにがわかったんだろう。


「俺がお前の専属マネージャーになる」


 面倒見がいい幼馴染が、理解不能な言動をしている件について。


「ちょっと退部してくるわ」


 はい、ストープッ!!!

 なに考えているですか。頭は大丈夫。

 わたしはハルキの服を引っ張って止めた。

 

「俺よりお前の方が才能がある。大丈夫。練習中倒れないように俺が付きっきりで見守るから。体調の不安があるだろうし。でも、安心しろ、少しハードな練習ができなくても技術でカバーしていこう。俺はナオの中に光る原石を見ている」


 誰か、この介護好きのバカを止めて。

 わたしに、異世界から帰ってきてスポーツで無双みたいな恥ずかしいことをさせようとしないで。卑怯、ズルだから。

 最低限の文化的な生活でいいの。スポーツ選手の夢とか見たこともないから。

 

 わかった。わたしも分かりました。

 異世界帰りって言うから、精神はもうアラサーだって言うから。

 わたしを恥ずか死ぬような主人公にしないで。黒歴史はアラサーの精神で作れるものじゃないの。



「わかった。それじゃあ、競技はやめて、アイドルとか」


わたしの幼馴染がプロデューサーになろうとしている件について。アイドルの方が精神が焼き切れると思います。

というか、大丈夫か、わたしの幼馴染。

わたしの顔を見て言ってるのかな。この中レベルのどこにでもいる顔に。

幼馴染補正だよ、それ。わたしもハルキの顔とかいいなって思うけど、それは見慣れた顔が基準になるからであって、別に客観的に見れる顔というわけではない可能性が……。


「わたし、可愛くないから無理だよ」


「じゃあ、SNS見てみなよ」


「なにこれ?」


「サッカー部のアカウント」


 サッカーってこんなに、ハートがつくんだ。やっぱり人気なんだー。って、やけに偏りが……。

 わたしは、パターンに気づいて、そっとタッチして、ある写真のコメント欄を見た。


「わたしは非公式応援マネージャーじゃないから。ちゃんとマネージャーを……」


 よし、後の気持ち悪いコメントは見なかったことにしよう。人間、知らない方がいいことがある。それを理解しました。

 それにしても、まさか、美人の基準が変わったのかな。わたしは100年に一度の美少女ではないですよ。


「ねえ、ハルキ。実は急に胸が苦しく……やっぱり身体が病弱で力が出ません。ハルキ、サッカー頑張ってね」


 神様ー、しばらく病弱ヒロインに戻してー。

 

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