モブカップルたちが目撃したインパクト婚約破棄騒動
どうかお楽しみいただければ幸いです。
二曲目のダンスが終わり、パーティは平和に進行していた。
「ふぅ、やっぱり本番は緊張するな」
「本当ですわね。でも、カッコ良かったですわよ。地味なりに」
「君もキレイだよ。地味なりに」
互いにそんなことを言って、笑い出す。
ローズベルガンス学園において地味モブ背景カップルと名高き、マリーベス・サンジャン伯爵令嬢とその婚約者であるジビエール・ロックハット伯爵子息。
あまり特徴のない顔、特徴のない体格、特徴のない性格、と自他共に認める二人であったが、今日は彼らなりに懸命に化粧や衣装を工夫し、確かに互いの褒め言葉通りとなっていた。
「化粧は綺麗な人間に対抗するために、凡人が生み出した技術の結晶ですものね。まあ、その分の苦労はありますが」
「うーん、確かに毎回この大騒ぎは辛いものがあるな」
衣装を決めるのも、化粧にも、髪形にも、つける香水に至るまで。二人でどれもこれも厳選したものである。
「あら。結婚したら手を抜くつもりかしら?」
「……そんなことはないぞぅ?」
笑い出す。さすがにこれを毎日は、やっていられない。とはいえ手を抜いてしまえば、良くないということも理解している。
そういう意味で、二人は良い関係を築き上げている。二人は幼馴染みでもクラスメイトでもなく、家族からの推薦がきっかけだったが相性は良い、と感じていた。
「三曲目は、俺は従姉妹と踊らなくちゃならなくてね」
「でしたら、わたしは友達と歓談させていただきますね」
ふと、周囲のざわめきが増した。
「王太子、マルセイ・ダットリンク殿下のご入場!」
そんな声が飛ぶ。
「少し遅かったですわね。何かあったのかしら」
マリーベスが首を傾げた時、つかつかとダンスホールの中央に歩み寄ったマルセイは声高らかに叫んだ。
「この私、マルセイ・ダットリンクはここに宣言する! 公爵令嬢レムレイムとの婚約破棄を!」
エスカーレン王国、ローズベルガンス学園の卒業記念ダンスパーティにて、マルセイ・ダットリンクはそう叫んだ。倒置法で。
マルセイは王族特有の緑の瞳と、輝かんばかりの黄金の髪が目を惹く、この国の王太子である。
だがかなりの美形と女子生徒たちに支持を受けていたその顔は、険しい目線で婚約者であるレムレイムを睨み付けている。
「――どういうことでしょうか? マルセイ様」
そして彼に対峙するように佇むは、色鮮やかなロイヤルブルーのドレスを身に纏った、白銀の髪の少女。
名前をレムレイム・プラットコード。このエスカーレン王国において並ぶ者なきプラットコード大公爵の一人娘であり、マルセイの婚約者である。
「あら、あら、あら。え、何が起きてますの?」
「王子が婚約破棄を宣言したみたいだぞ、倒置法で」
そして何だ何だ何が起きたと遠巻きに眺めている二人、マリーベスとジビエール。
互いに「マズくないかコレ?」と顔を見合わせた。
エスカーレン王国は、周辺国に比較すると歴史は浅くもなく古くもなく、先進的かというとそうでもないが後進的かというとそうでもない、文化面でも軍事面でも何となく平凡な王国であった。
そんな王国にもローズベルガンス学園という、貴族子女たちが通う学園があり、本日はその卒業記念のダンスパーティ。
つまり学生にとって一世一代の晴れ舞台であり、貴族としての最初の一歩を踏み出す大切な行事だ。
大切な行事、なのだが。
よりによって生徒会会長にして王太子、マルセイ・ダットリンクが滅茶苦茶台無しにしていた。
「しかしまさか婚約破棄とは……」
「前々から噂があったことは確かですけれども」
呆れるジビエールと噂を思い出すマリーベス。確かに、その兆候はあった。
婚約者でありながら二人が一緒にいるところを見ていない、というような。
「え、まさか可憐な男爵令嬢が王太子と接触したとか? そんな平民の小説に出てきそうな展開ある?」
「あら、最近は平民ではなく貴族間でも親しまれていますわよ。婚約破棄物」
「そうだったのか……」
この頃、平民の識字率をもっと高めようとエスカーレン王国は読書を推奨していた。読書キャンペーン、春から冬まで年がら年中50%オフの大盤振る舞いである。
そしてそんな中、突然売れ出したのが「貴族令嬢の婚約破棄物」。
平民の間のブームかと思いきや、貴族間でも流行が起き始めているらしい。
「ははは、でもまあ婚約破棄がブームになった訳ではないか」
「当たり前ですわ。現実と空想の区別くらい、貴族でも平民でもつき――」
ますわ、と言おうとしてマリーベスは王太子が抱えている本に目を留めた。
タイトル『あくらつな公爵令嬢に対してバシンと言ってやりました! 婚約破棄で令嬢が大困りですけど、俺もしかして何かやっちゃいました?』である。
「バチクソ影響受けてんじゃねえか」
「バチクソ影響受けておいでですわ」
不敬なツッコミが揃った。
「あとどうでもいいけど悪辣がひらがななのがちょっと可愛い」
「本当にどうでもいいですわよ」
バチン、と音を立ててレムレイム公爵令嬢の手にあった扇が閉じられた。
「怒ってるな……」
「怒ってますわね……」
だが、その鋭い視線に臆することなくマルセイは叫ぶ。
「皆の者、聞け! レムレイムは我が友人である男爵令嬢、エリザ・アンダルシアを妬み、彼女に対する数々の迫害を行ったのだ!」
「迫害ねぇ」
「アレですわね。筆箱盗まれたとか、教科書破かれたとか、そんな類いでしょう」
「……ん?」
そこで、まずジビエールが気付いた。
「なあ、その男爵令嬢いなくない?」
「あら、そうですわね。普通なら、こういう時は王太子にべったりくっついていると相場が決まっておりますけど」
二人が揃って首を傾げていると、レムレイムが反論した。
「それで、迫害とやらの証拠はございますの?」
「ふっ、百聞は一見にしかず、だな。見よ!」
パチン、とキザったらしい仕草でマルセイが指を鳴らす。
同時に先ほどまで優雅なダンスの曲を奏でていた楽団が不吉な前兆を指し示すような曲を奏で始めた。
そしてガラガラガラ……と音を立ててやってくる、エリザ・アンダルシア男爵令嬢。
「ガラガラガラ?」
四人の兵士が、長い金属棒を手に構えていた。棒の先端は中心にいる何者かの胴体と足、そこに装着された金属製の枷に接続している。
「慎重に運べッ!」
「絶対に力を弱めるなッ!」
「大型の月熊だと思えッ!」
「帰りたいよぉ……」
四人の兵士がそう口々に言いながら、ゆっくりとマルセイの元へと彼女を運んでいく。
大人十人でも破くことはできない拘束着、顔には鉄仮面をつけていて、シュー・コー、コーホーと呼吸をする口元だけがかろうじて垣間見えた。
「エリザ・アンダルシアだ」
マルセイが言った。同時に映画の予告によく使われる『ブオーン』という効果音が周囲に響き渡った。楽団仕事しすぎ。
「扱いがもう死刑囚のソレだよ!!」
「何があったんですのエリザさんに!?」
二人は一斉にツッコんだ。このツッコミはさすがに周囲には響いたが、全員大体同じことを考えていたので注意はされなかった。
「エリザはお前に筆箱を盗まれ、教科書を破かれた怒りで変わり果ててしまったのだ……!」
「そこで戻してきますの話を!?」
怒りに震えるマルセイ、ツッコミが冴え渡るマリーベス。
泰然自若のレムレイム。
「お笑いですわね。わたくしは公爵令嬢でしてよ? そのわたくしが迫害をするとなると、筆箱や教科書程度で済みまして?」
彼女は見る者を蕩けさせるような美しい微笑みを浮かべてそう言った。
「この人、もといこの方も大概に凄いな」
「え、どうして普通に進行していますの。わたしなら、まず真っ先にアレをツッコみますけど」
だよね、と周囲は二人のツッコミに同意した。
「そうですね、わたくしならばエリザ様の後頭部を掴み、柱に叩きつけ、愛犬に全身を噛み砕かせ、その後プールに叩き込んで火炎放射してやりますわ」
レムレイムの力強い反論。
「畜生この方もボケ型だった!」
「結構憧れていましたのに!!」
「何だと……貴様、よくもそんな酷いことを考えられるものだな!」
「シュー・コー」
マルセイとエリザが揃って抗議の意を示す。
「いや抗議の意を示してますのエリザさん?」
「ではお伺いしますがマルセイ様。筆箱を盗まれたのはいつのことでしょう?」
マルセイはエリザに顔を向けた。
「どうなんだ?」「シュー・コー」
「水星月の十三日、放課後十七時のことだそうだ」
「えっ、今ので通じたの?」
「それなら、わたくしには鉄壁のアリバイがありますわ」
「何だと……!?」
「水星月の十三日、わたくしにはお昼休みに王城への召喚命令が下りました。わたくしは先生に早退の許可を頂いて、十二時十三分発の馬車『黄金鷹』号に乗り、十三時二十五分に王城へ到着。十四時に王妃様に面会、十六時までお茶を飲みながら歓談。十六時十一分発の馬車『巨人』号で我が家に直帰いたしましてよ。到着は十七時三十五分でしたわ。こちらが馬車の発着時間の証明書です」
「どんだけ細かいの!? そこまで覚えてる時点で滅茶苦茶怪しくない!?」
「ジャンルがいきなり馬車道ミステリに移行しましたわ!? 確かに最近、平民の間では隠れて流行と聞きますが!」
そして流れ出すサスペンスフルな曲。
「な、何だとぅ……! で、では教科書が破かれた時はどこにいた! 泥炎月十五日、七時三十五分! 日直ということで早めにやってきたエリザの前で、素手で教科書を破いたそうじゃないか! これがその教科書だ!」
分厚い教科書が、中央から真っ二つに引き裂かれていた。
「滅茶苦茶力つよない?」
「トランプをカステラみたいに千切っちゃう系の公爵令嬢でしたの?」
「……確かにその時間帯、わたくしも日直であるため、早めに登校していましたわね」
マルセイの顔が勝利の輝きに満ちる。
「ですが。わたくしとエリザ様では教室が違います。わたくしたちの教室『みかん』組は東北の端、エリザ様の教室『りんご』組は南西の端。どれほど急いでも十分は掛かりますわ。そしてわたくしは七時二十分に登校して四十分に自分の教室へ到着。五分の差がありますわね」
「うちの学園の教室、そんな名称あったの?」
「可愛いですわ。可愛いですけど、それ幼稚園」
「くっ……」
「そしてついでにもう一つ言っておくけど、なんでそこまで詳細に記憶してるのレムレイム公爵令嬢?」
「五分の差って、そんな絶対不可能って勝ち誇れるほど? マルセイ様も何か納得していますし……」
「罪状はそれで全てですの? では、わたくしからも告発したいことがございましてよ」
レムレイム公爵令嬢の宣言に、周囲がどよめく。
「な、何だとぅ……!」
狼狽するマルセイ。
ジャジャーン、と楽団の演奏が激しいものになる。
なんか、裁判とかギャンブルの趨勢が逆転したときに流れ出すいい感じのアレだ。楽団はだいぶ調子に乗っていると二人は思った。
「お二人の不貞行為について! 風熊月七日、時間は十五時二十七分。わたくしが王妃教育のため王城に登城した際、マルセイ様とエリザ様が睦み合っている姿を目撃いたしました!」
「な……何だと、証拠があるのか!?」
「ございますわ。イブ、例の物を持ってきて」
進み出たメイドが、レムレイム公爵令嬢に小ぶりの水晶玉を手渡した。
「こちらは隣国で研究が進んでいる、過去の情景を映像として記録する魔法道具でございます」
「な……そんなものが!?」
「大丈夫? 俺たち全然知らないんだけど、それ隣国の国家機密とかじゃない?」
「大丈夫ですわよね? ……いや大丈夫じゃない気がしますわ……」
地味コンビは揃って体を震わせた。周囲も若干伝播した。
「では映像を流しますね。再生、と……」
以下は映像の描写及びジビエールとマリーベスのコメンタリーである。
ガチャガチャ! ガタン!
(なんか毒づく声)
「あー、アーアーアー。テストテスト。あ、大丈夫? 録画できてますかしら?」
「オッケーですお嬢様」
「よろしい。ただ今、風熊月七日、時間は十五時二十五分ですわね。今、わたくしは王城に来ていまーす。王妃教育、もうちょっとで始まりまーす」
「がんばりましょう、お嬢様」
「えへへー、ありがとイブー♪」
(マリーベス:ものすっごい日常感溢れるスタート)
(ジビエール:くっ、不覚にも可愛いと思ってしまった……ホント不覚だよ!)
「王城の小道を散歩中でーす」
「のどかですねー」
ガタガタ、ガタ! ブオー!
(マリーベス:めっちゃ画面が揺れるし、なんかめっちゃ雑音が入りまくりますわ)
(ジビエール:いかん、ちょっと酔ってきた)
「ああっ、あれはー」
「お嬢様、どうなさいましたー」
レムレイムが指し示した方向を映すカメラ。遠くで睦み合うマルセイとエリザが映る。
(マリーベス:ここにきての棒読み)
(ジビエール:小芝居味)
マルセイとエリザ、抱き締め合ったり手を握って見つめ合ったり。
「これは浮気現場ですわー。証拠として保全しなければー」
「バッチリ録画中です、お嬢様ー」
マルセイとエリザ、一際長い口づけ。
やがてどちらからともなく服に手を掛け――
映像が途切れる。
「ここから先は有料ですわ」
レムレイムの非情なる宣告だった。
「ビジネスモデル! ビジネスモデルですわ!」
「おい周辺の男女、揃って財布を取り出そうとするな。楽団もかよ」
マリーベスとジビエールは頭を抱えた。
「くっ、こんなものが……」
片手を無意識にポケットへと動かすマルセイ。
「財布探してますのね? ますのね?」
「何で自分の映像にお金出すんだよ!」
「いやあまりに私が美しくて……」
そしてとうとう二人のツッコミに応じるマルセイだった。
◇
「くっ……ええい、どいつもこいつもままならない! もういい! お前とは婚約破棄、絶縁、絶交、バーリアだ!」
「はいバリア返しー。バリア返しはバリアを張った奴より強いですわー」
「小等部」
「婚約破棄よりバリア強いんですの?」
「一体何の騒ぎであるか!」
そして騒然とする周囲を一喝する者が現れた。さすがにマルセイやレムレイム、ツッコミの二人も厳粛な表情と共に、床に跪く。
エスカーレン王国第十七代国王、バストロイ・ダットリンクである。
「マルセイ、何の騒ぎだ」
「婚約破棄です、父上。私は真実の愛を見つけました! 故にレムレイム・プラットコードとの婚約を破棄するつもりです! あとバーリアしてやりました!」
「何だと……! 貴様、狂ったか! 婚約を破棄して、一体どうするつもりだ! しかもバーリア、だと!」
「……」
「……」
「……」
「……おい、マルセイ」
「……どうすればよいのでしょう……」
「考えてなかったのかよ!」
「普通そこはエリザ様と添い遂げるとか言い出すところではございませんの!?」
「え、いや。エリザはただの友達ですし」
「友達と睦み合ってましたの、マルセイ様は!? おふざけにならないでくださいませ!!」
激怒するレムレイム。頷く女性陣。あまりに奔放だと嫌悪を露わにする真面目な男性陣。そして『友達と王城で睦み合う』というシチュエーションに若干興奮の色を隠せない一部好色貴族。
「お滅びなさいませ今すぐ」
これはマリーベスのツッコミである。
「お互い納得ずくの関係だ! なあエリザ!」
「シュー・コー」
「ほらエリザもそう言ってます」
「何で分かるの今ので?」
「ついに国王陛下もツッコんだ……」
「ですがエリザさん、否定はしてないっぽいのでどうも本当にそう仰っているのですよね……」
「ともかく! 私はレムレイムと婚約破棄をします!」
「そうか。で、あれば」
「で、あれば?」
国王はにっこり笑うと、服の左袖をまくり上げ、肘のサポーターの位置を調整した。
「エスカーレン・ラリアットーーー! お前は廃嫡じゃああああああああ!!」
豪腕が炸裂。
吹き飛んだマルセイは失神、ノックアウト。楽団によるゴングの音が鳴り、拍手と歓声が轟いた。
「国王強い」
「我が国も安泰ですわね。……いや、そうでもないかな……」
「本当にすまなかった、レムレイム」
国王はレムレイムに歩み寄り、真摯な態度で謝罪した。
「いいえ、とんでもございません陛下。ただ、こうなってしまっては婚姻はさすがに難しいかと」
「無論だ。だが、王家としてはプラットコード家との縁は繋いでおきたい。そこで提案なのだが、」
「第二王子ですわ、第二王子の出番ですわ!」
「まあ妥当だよな。我が国の第二王子、生徒会長でありながら成績万年下位の王太子より優秀と評判だし。王太子より美形だって評判だし。王太子より性格が良いと評判だし。側妃の子供という訳でもないし……何でアイツが王太子だったんだ……?」
「根本からの疑問が生じましたわね……」
「第二王子との婚姻を」
「お断りいたします」
「断るの!?」
国王が、マリーベスが、そしてジビエールとその場にいた全員がツッコミを入れた。楽団も入れた。そして密かに待機して屈伸していた第二王子はコケていた。
「あまりに顔が良すぎて、隣に立ちたくなくて……」
「あー……」
あー……と納得のため息が漏れる。「え、皆そう思ってたの!? もしかして私、マズくない!?」と狼狽する第二王子。
「ですので、わたくしの弟ベルフと王女であるプランドリム様の婚姻が望ましいかと……」
「ではそれで手を打とう」
「心得ました」
ガッチリと握手。それを見て拍手する一同。一方その頃、リングドクターはマルセイ王太子の診断をしていた。
「そこは宮廷医師とかの出番ではありませんの?」
「なんか聴診器を心臓に当てて、首を横に振ってるんだけどリングドクター。大丈夫?」
「卒業する皆の者、この度は我が息子が宴を台無しにしてすまなかったな。日を改めて、宴を開こう。もちろん、我が王家が費用の一切を負担する!」
わっ、とこの日一番の歓声が轟いた。
侯爵令嬢も、伯爵子息も、男爵令嬢も、子爵令嬢も、騎士団も、ラグビー部も、楽団も、その場にいた全ての人間の顔が喜びに満ち溢れていた。
「楽団いい加減にしろよ」
楽団が良い感じに卒業っぽい曲の演奏を始める。どこからともなく、スタッフロールも流れ出した。
「シュー・コー」
「どなたかエリザ様を何とかして差し上げては」
かくして、卒業パーティは台無しになったが……誰もの記憶に刻まれるものとなったのだった。
「良い感じに締めようとするな」
「割と一大事ですからね?」
◇
……その後の話について語ろう。
まず、マルセイ・ダットリンク元王太子。リングドクターの手で息を吹き返した彼は廃嫡され、やむなく絵画モデルに転身。
しかし、モデルとして動かずじっと立っているだけなのに我慢ならなかったため、あっさりと見限られてしまった。
宮廷へ戻って慈悲を乞うたものの、あっさりと蹴り出される。その後、哀れに思った庭師が引き取った。彼の養子となったマルセイは王宮の庭の隅っこで、ひっそりと暮らしている。
レムレイム・プラットコード。
宴から帰宅して早々に隣国の国家機密を悪用していたことがバレ、「レムレイムのバカはどこだ!!!」と修羅の形相となった父親に鬼詰めされ、ぎゃん泣きしながら関係者方面に謝罪行脚するハメになった。
隣国的にも「まあもうすぐ発表予定でしたから……」と宥めつつ、彼女が婚約破棄されたことに目を付けて、自国の侯爵との婚姻を提案。
受け入れたレムレイムは隣国へ移住し、侯爵家の嫁兼映像作家へと転身。映像を記録する水晶玉で幾つかのモキュメンタリーを発表、その後も精力的に活動を続けている。
あと、それから婚約破棄騒動が新聞に暴露された際、平民探偵の投書によって、アリバイは崩された。
「わたくしの完璧なアリバイ工作が……!?」
レムレイム弟であるベルフはその後、王女プランドリムとの婚姻を発表。
「我が弟、その後王女とはいかがですの?」
「互いのアホな家族についての愚痴で盛り上がってます」
「えっ。……誰のことですの?」
「アンタや」
第二王子。「いや王太子がアイツだし多分その内、自分が王位を継承するんじゃないかな……婚約者はその時に決めればいいか……」と呑気こいていたのも例の騒動まで。
「美形過ぎてヤバい」ということに気付き、慌ててアプローチを始める。本当に不幸中の幸い、「男は中身だから。あなたは中身もいい」と断言する伯爵令嬢と巡り会って、どうにか婚姻にこぎ着けた。王太子がアレになったので王様にはなった。
エリザ・アンダルシア。
王城の地下十階の極秘牢に封じられるも、三ヶ月で脱出。「私より強い令嬢と戦いたい」という伝言を残して、姿を消した。
エスカーレン王国「冷静に考えるとアイツなんなんだランキング」の三年連続堂々一位だという。
そして楽団は、隣国へ嫁いだレムレイム元公爵令嬢のオファーに応じて、映像作品に数々の名曲を付け加えた。
サメが出てきそうな音楽とか、優雅でファーザーなマフィアがアレする感じの音楽とか、とにかく名曲を送り出したという。
そしてマリーベス・サンジャン伯爵令嬢とジビエール・ロックハット子息は無事に結婚。
結婚式には古くからの友人、家族、そしてパーティのツッコミを聞いていた周辺の貴族が集まった。
「なんでですの」
もちろん卒業パーティの際の楽団も集まって、参加者の心を震わせる音楽の数々を披露した。
「なーんーでーでーすーのー」
また、今回の婚約破棄騒動が水晶玉に記録され、周辺国に雪崩れ込んだために時ならぬ大婚約破棄時代が世界に訪れることになるのだが――円満家庭の二人には関係がないことだった。
……などと考えていたら、親交のある隣国から乞われて出席したパーティで、またも婚約破棄騒動が起き、二人はツッコミを行う羽目になったのだった。
「……もしかして俺たちの天職なのかなぁ」
「しっかりなさいませ、あなた!」
お読みいただいてありがとうございました。
書いている内に楽団が好き勝手し始めました。
面白い!と思った方、どうか☆を入れていただければ幸せです。よろしくお願いいたします。