天才のおかげ。
普通なら一週間ぐらい経てば環境に慣れるものだ。
春もそこは常人と同じだった。
しかし、今回が違っていた。
防衛省から寮に毎日迎えが来て、高級車で美味な朝食を終えて一日のスケジュールを頭に叩き込んで、防衛省に着いたらひたすらアイデアをノートに書いて提出して、指示されたものを作る生活にまだ慣れていなかった。
天才について、考えて出すと何も手につかなくなってしまう。
春は矛盾と戦争が大嫌いだ。
だが、今そんな大嫌いな矛盾と戦争に板挟みにされている。
他の科学者達もこうして精神を病んでいったのだろう。
春は、動画のメッセージの意味をようやく理解した。
他の科学者達は戦争や、平和に対する理念について悩んでいたのだ。
つまり「何も考えずに働け、」ということだ。
しかし考えずにはいられなかった。
だから、がむしゃらに働いた。
ただひたすらに、プログラミングや溶接を繰り返した。
しかし春の精神状態は上記ほど軽視できる状態ではなかった。
心の底から這い上がってくる渦巻きは着々と春の精神に刃を突き立てていた。
休憩時間には相変わらずディポーターを作る。
足りないものはないはずだ。
電気を小型のバッテリーに収めることにも成功した。
歓喜だ。
だが、それだけで完成するわけではない。
次は、物質の調和がまっているのだ。
部品と部品、物質と物質同士の相性が良くなければいけない。
下手すればこの世界が滅亡することだってあり得る。
この作業だけは慎重にしなければならない。
と、考えていると休憩時間が終わりほとんど手をつけられないまま仕事に引き戻される。
次の日に戦況に異変が起こり始める。
なんと被害国の一つが降伏したのだった。
この報道は世間を大きく賑わした。
当然このニュースは春の耳にも入ってきた。
春は驚愕した。
ニュースには米国から支給された兵器を鹵獲し、戦況をひっくり返したとも書いていた。
つまり春が作った兵器が敵国に利用され、謝罪不可能病のおっさんの妄想に付き合わされた国が謝っているのだ。
春は激怒した。
その怒りを兵器開発に向けた。
今度は鹵獲されないように、GPSや位置情報システムを搭載した。
糞大統領め、天才である石原春の顰蹙を買ってタダで済むと思うなよ。
二日後、春が作った兵器をつかった被害国が戦争に勝利した。
春は世間から絶賛を受けた。
元々素晴らしい性能を持つ兵器に鹵獲防止システムを搭載した天才科学者石原春に様々な賞が授与された。
しかし、これだけで核戦争大戦が終結するわけではない。
ここからが本当の戦いだ。
被害国が勝利したことで戦争をふっかけた国家は大きな焦りを感じているはずだ。
ここで肝になってくるのは、いかにして国家のメンタルに揺さぶりをかけ下手な戦略を取らせるか、いかにしてメンタルを揺さぶるような報道をするかだ。
”戦争の英雄石原春”は様々な記者から取材を受けた。
その中で適当な記者に、これこれこういう報道をしてくれと頼んでおいた。
春は俄然やる気だった。
ネガティブ思考すぎたが、今はしっかりと前向きに物事を考えている。
現に世界情勢も良化を始めている。
ポジティブな気持ちに包まれた春だが、渦巻きはとうとう春の精神にひびを入れてしまった。