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この世界では生きていける気がしないんだ。

この本に出会ったことは君だけの秘密にしてもらいたい。恐らくこの世界に一つだけの本であり、物語だろう。


物語は全て実話だが、君達の住む世界とは違う世界で起こっていることだ。


私はそこまで文章が上手くないから所々分かりづらいかもしれないが、了承願いたい。


この本の内容は人に話してはいけない。


恐らく誰も理解を示してくれないだろう。


君だって理解できるかわからない。


もしかしたらこの世界、正確には君達の世界に存在している誰も理解できないかもしれない。


しかしこの本を読み終わった後に一つ考えてほしい。


もし自分に同じ状況が降りかかったらどうだろうか。


君はそんな状況でも逃げることを選ばずに、皆と平等な立場で辛い思いや後悔や沢山の死体や瓦礫を見た記憶を背負いながら生きていけるだろうか。


因みに私は逃げた。


この本から学んでほしいこととか、今後の人生に活かしてほしいこととかは特にない。


しかしこういう世界もある、こういう人もいる、ということを心の何処かに留めておいてほしいと切に願うだけだ。


逃げることは恥でもなんでもない。自分が逃げることを正しいと思えば、将来逃げなかったことを後悔しないと自信を持って言えるのならば逃げることは一つの救われる手段だ。


では、本編を読んでもらうとしよう。


東の独裁国家の大馬鹿大統領が、隣国に領有権を主張して他国に侵攻を開始してしまった。


西の国は平和的解決を幾度も幾度も促したが、紛争当事国は受け入れず老人の大統領はかくかくしかじかを主張し、侵攻を止めようとしなかった。


そんな当事国に業を煮やした西側諸国は結託し、被害者の国に軍事的支援を行った。


最先端の技術が応用された兵器の前に歯が立たなくなった謝罪不可能病の大統領は引くに引けなくなり、戦争が終わることはなかった。


こうして加害者が有利になったり被害者が有利になったり、泥沼な状況が一年も続くと、加害者が勝つのか負けるのかわからなくなり他の独裁国家による有事を誘発しかねない。


それが世界中の懸念だった。


が、その懸念は現実のものとなってしまい、同じく東の独裁国家が隣国に領有権などを主張し侵攻を開始した。


そして今回も同じように西側諸国は被害者に援助をし、当事国を窮地に追い込んだ。


この老人大統領もご多分に漏れず謝罪不可能病に侵されていたから引くに引けない状況になり、泥沼化してしまった。


世界で二つの国家が戦争を始めたことで世界情勢は悪化の一途を辿っていると戦争が始まって三年が経っていた。


しかし、世界を巻き込んでの戦争ではないために第三国の国民は他人ことだと思って毎日を暮らしていた。


今考えればそんな安易な考えも平和的だった。


戦争を終結させようとした西側諸国は「今すぐ停戦しなければ軍事的な措置を取らざるを得なくなる。」との声明を発表した。


それを挑発と解釈した紛争当事国達は所有する核ミサイルを近辺の国に発射した。


こうして現在まで続いている「第一次世界核戦争大戦」が幕を開けたのだった。


流石に西の国に戦争は仕掛けていないが時間の問題だろう。


最初に核戦争で犠牲になった国は日本だった。


兵庫や京都と言った近畿地方が爆心地となり、日本人口の17.2%が核爆弾の餌食となってしまった。


近畿地方に住んでいた日本国民全員が犠牲となったわけではない。


例えば海外に留学していた石原春は家族や故郷を失ったが命は助かった。


石原春は日本有数の中学校をトップの成績で卒業し、去年の四月からアメリカの高校の科学技術系の高校へ留学した。


そこで春は高い科学技術を学び応用し、常に生活に役立てられないか試行錯誤していた。


春は幼き頃から科学に関心を示し、特に宇宙についての、多次元宇宙説を自らの手で証明したいと考えていた。


多次元宇宙、俗にいうマルチバースや別次元の俗称を持つ一種のSFだ。


春は多次元宇宙(以下別次元)の存在を証明するには自分が別次元に移動するのが一番手っ取り早いと考えていた。


だから小学生の頃から次元移動を可能にする次元移動銃「ディポーター」についての研究を進めている。


ディポーターは春の造語で、ディメンション・テレポーターを一つにしたものだ。


春の脳内のイメージでは、ディスプレイに次元の座標を書き出し、デバイス内でかつてないほど強力な電力を生み出して発射口でレーザーエネルギーに変換し、窒素に触れさせることで次元の切れ口を生成する。というのが次元移動の流れだった。


天性の才能を存分に活かして中学に進学する頃には、次元の座標の書き出し、エネルギー変換技術、ディポーターのフレームを完成させていた。


しかし、電力を保存する技術には苦労している。


高校二年生になった今でも、ずっとその研究を続けている。


宇宙の中で一番大きな電力を生み出すことは比較的容易だった。


それを小型のデバイスに収めることに時間がかかっているのだ。


春はできると考えていた。


昔は大型だったコンピューターだって、今や軽々と持ち上げられるぐらいに小型化されている。


だからできないとは一度も考えたことはなかった。


アメリカの学校でも優秀のため学長から学校の研究室を自由に使っていいとの許可をもらっていたから、勉強の合間を縫って、研究していた。


その矢先、核戦争が始まって春の家族は全滅してしまった。


春は研究室のテレビで核戦争の始まりを告げるニュースを見ていた。


春はインバーター発電機のコードを持ったまま、どかっと椅子に座り込んだ。


元々家族とは良い思い出はなかったし天才らしくサイコパスだったから「ふーん」と言っただけだった。


というのも、父親はなんでもかんでも強要し無駄にプライドだけ高く春が天才なのも自分の教育のおかげだと考えるような自己中心的な人物だった。


母親は音大を主席で卒業し、ピアノの教師をしていて春にもピアノを教えていた。


春は幼い頃からピアノでミスをすると怒鳴られるような環境で育ったためいつしかピアノや音楽を嫌うようになってしまい、母を困らせたいという願望を持つようになった。


ピアノでわざとミスをするのではなく、何かを言いたそうな顔をしながら言われたことをやっている方が母親の精神に罪悪感を植え付けられると考えたから表立って反抗することはなかった。


春は家族が嫌いだった。


自分が天才なのも家族のおかげでもなんでもなく神に与えられし才能だと考えていた。


だから家族が「私たちが天才に育てた」というようなことを言おうものなら、論破したくなる衝動を必死に抑えて目線で殺していた。


とにかく核戦争の始まりは春にとってはどうでも良いことだった。


直接戦況を見るわけでもないし、第一政治になんて興味もないし募金ぐらいはしておこう。ぐらいにしか思わなかった。


大体戦争なんかに関わりたくない。


「ごめんなさい」が言えないおっさんたちのことなど考えたくない。





高校から寮に帰ったら、大抵夜だから愛する彼女と電話したり飯を食ったりして寝る。


アメリカのコンビニで売っているカレーが一番美味しい。


こっちに来てからほとんどこれしか食べていない。



次の日。いつものように三時間近く早く、登校して研究室に籠る。


研究室では踵まで垂らした白衣を着る。


研究をするときはこれぐらい当たり前だ。


まず大きな発電機にこの世でもっとも大きな電力「パーセ」を起こす。


たくさんのケーブルを繋ぎ、その先に直径二センチほどのバッテリーを配置する。


昨日は直接ケーブルをバッテリーの端子に繋いで失敗したから今日は移動させるバッテリーを分散させて最終的に一つのバッテリーに移す方式を採ろう。そう考えて四本のケーブルにそれぞれ三つのバッテリーを接続して分散できるようにした。


離れたところでスイッチを押して電力をバッテリーに移動させる。


漏電などの危険はないのだが、人間の本能が働いて五十メートルほど離れたところに避難する。


扇風機のような音が研究室内を埋め尽くした。


移電が完了したらその音は自動的に止んだ。


春は胸を高鳴らせながらバッテリーに触れた。


「あち・・・・・ッッッ!!」


ピンセットで持ち上げて確認すると・・・・・・だめだ。バッテリーが電力の圧力に耐えられるずに焼けてしまっている。


「また失敗・・・・」


そう嘆いたとき研究室内に学長が入ってきた。


学長は挨拶する暇与えずに「防衛省の方がお見えだ。」と重い口調で春に話しかけた。


「え?」


これから平和な日常の崩壊が待っていることなどこのとき春は知るはずもなかった。


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