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MASK 〜黒衣の薬売り〜  作者: 天瀬純
36/63

看護師とスクリュー

カチカチカチ、カチ。


カチカチ…、カチ。


ガチャッ。


(今年もちゃんと届いてる…)


  職場から帰ってきた私が、マンションのエントランスにある住人用郵便受けから“それ”を受け取るのは、今年で5回目になる。  


 地元の高校からの付き合いで、大学卒業後に同棲を始めた彼氏が私にはいた。けれど看護師として私が多忙を極めると、あの(くず)は他所の女と親睦を深めていった。


 浮気が発覚してからは同棲を解消したのだが、ゴミ同士が自分達の世間体を守るために拡めた“嘘”によって、それまで住んでいた地元を離れることに…。


 共通の友人たちは、馬鹿どもの言うことを信じたり、ゴシックネタとして楽しんだりしたために、大半の者たちと縁を切る羽目になった。


  (まったく……)



 結婚を意識していた相手の裏切り、親しい者達との絶縁、不慣れな土地でのストレス、仕事での疲労などが祟り、私は体調を崩した。


肌荒れ、下痢、冷え性など。特に困ったのが、生理痛。


 もともと症状は軽いほうではあったが、精神的負担が大きすぎたせいもあってなのか、ベッドから起き上がれないほど苦しむことが増えていった。


 それが1年ほど続き、休職することも考え始めた頃、実家の近所にかつて住んでいた友人から連絡がきた。破局騒動後も私を信じてくれた数少ない人物だ。


 実家の親を通じて私の体調不良を気にかけたその友人は、交流のある薬売りを私に紹介してきた。もちろん、最初は怪しんだ。けれど自宅に送られてきたサンプルを服用したところ、翌朝には肌に潤いとハリが戻っていた。まるで荒れていたのが嘘かのように。しかも、身体が異様に軽く感じたのを今でも覚えている。生理痛が質量を持った存在として、ごっそりと抜け落ちたかのようであった。


 薬売りを紹介してくれた友人にはすぐに電話で感謝の気持ちを伝えた。そして、サンプルと一緒に届いたパンフレットのQRコードから薬を定期購入する手続きを行い、今に至る。  


 シャワーを浴びて、部屋着に着替えた私は、郵便受けに届いていた茶封筒を開けた。A4サイズの封筒の中には、破損防止用の緩衝材とともに薄い小さな四角い箱と冊子が1つ入っていた。


『婦人用体内循環改善カプセル剤 スクリューβ』


この数年お世話になっている薬の名前が、冊子の表紙に記載されている。1つのカプセルで効果が1年間継続する。驚異的な薬効と桁外れなその持続時間を思えば、カプセル1つで6万円は破格の安さだろう。


(そういえば……)


 2、3ヶ月前の連休中に地元から少し離れたところで、幼い頃からの友人たちと久しぶりに会ったときのことをふと思い出した。彼女たちは、あの(くず)達の嘘の情報によって私が地元を追い出されたときに、最後まで味方であり続けた貴重な存在だ。薬売りを紹介してくれた友人と同様に、私にとって宝そのものだ。


『『っ⁉︎』』


2人とも、私に会うなり、ひどく驚いていた。というのも、例の薬を服用し始めて、体内の余分な水分が肌や毛髪といったあらゆる組織に潤い・ハリ・艶を存分に与えるようになった。


 さらに、血液やリンパ液の滞りが一気に解消され、老廃物を排泄しまくっているので、肌荒れ・むくみ・便秘・下痢・冷え性・生理痛とは長らく無縁となっている。肉体への負荷がなくなったことで、実年齢がアラサーであるのに、女子高生の頃より“潤い”と“きめ細かさ”に富んだ身体を私は手に入れた。  


 薬売りの件は言っても信じてもらえそうになかったので、友人たちには適当に誤魔化しておいた。

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