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MASK 〜黒衣の薬売り〜  作者: 天瀬純
34/63

ミント

「…しまった」


 職場からほど近いイタリア料理店で昼食を終えた私は、ひとり項垂れていた。普段持ち歩いている口臭対策のタブレットを切らしていたのだ。


(まいったな…。午後から打ち合わせがあるのに。やっぱ、空腹に負けてペペロンチーノの大盛りにするんじゃなかった…)


なぜピザセットにしなかったのかと悔やみながら、食後のコーヒーを急いで飲み干し、会計をしようと伝票を持って立ち上がると、


「よろしければ、私の使いますか?」


声を掛けてきたのは、私が座っていたカウンター席から左隣りに1つ空けた場所でパスタを食べていた男性であった。


(知り合い……ではなさそうだな)


男は持っていたフォークを置き、紙ナプキンで口元を拭くと、スーツの上着のポケットから透明なケースを取り出した。手のひらサイズのそのケースには、やや大きめのビーズに似た物が無数に入っていた。


「それは?」


「口臭ケアのタブレットです」


(初めて見るタイプだな…)


ちょっと気になった私は、先程まで自分が座っていたカウンター席に座り直した。まだ昼休憩が終わるまでには余裕がある。


カタッ。


男はケースを私との間に置き、落ち着いた様子で説明を始めた。


「こちらは『清涼ミント矯正(がん)』という口臭対策グッズになります。従来のタブレットは香りで口臭をカバーしますが、臭いそのものを消すことができません。しかし、『清涼ミント矯正丸』は口腔内の臭いをまず最初に吸収します」


「吸収…?」


「はい。やがて臭いの吸収を終えますと、タブレットは徐々に溶解を始め、清涼感溢れる香りを口腔内に拡げていきます。個人差はありますが、食後に1つ服用されれば5時間ほど効果が続きます」


(ん〜。聞いた限りでは画期的な商品だが、なんだかファンタジーっぽいな…)


普段ならバカバカしい勧誘の類いだと一蹴するところだが、人当たりの良さそうな彼の微笑みと説明に、私は聴き入っていた。


「おひとつ試されますか?」


「えっ」


突然の彼からの申し出に戸惑ったが、とりあえず試してみることにした。ケースから1つ取り出し、口の中に入れてみたところ、


「⁉︎」


口に含んだ瞬間、口腔内で何やら渦のような物が生じた。まるで小さな竜巻でもいるかのように。


「ん゛ん゛⁉︎」


「タブレットが口臭を吸収し始めたようですね」


いたずら好きの少年のように男は微笑む。しばらくすると、口の中が静かになった。それと同時に爽やかなミントの香りが拡がり始めた。歯磨き粉を連想させる人工的な香りではなく、摘みたての新鮮なミントを鼻の近くに当てているかのような心地良さを感じる。


「…すごいですね」


「はい。自慢の商品なんですよ」


(自慢の商品?…見かけたことはないなぁ。どこかで売っているのか?)


「このタブレットは、ネット通販でも購入できるんですか?」


「ええ、可能ですよ。今は手持ち意外に実物がないので、購入をご希望される際はこちらに記載されているホームページにアクセスしてみてください」


そう言って、彼は自分の鞄からパンフレットのような物を取り出し、私に差し出してきた。


「『株式会社MASK製薬』…」


「私の職場です。小さな会社ですが、営業を担当しております」


「へ~」


(この辺りでは見かけないなぁ…)


 その後、通販でタブレットを購入することを彼と約束し、ランチの会計を済ませた私は店を後にした。


……………


………



 その日の仕事を終えて帰宅した私は、彼から貰ったパンフレットに目を通してみた。傷薬や栄養ドリンク、胃薬といったドラッグストアでよく売られている商品が幾つか紹介されているなか、昼間に私が服用したであろうタブレットが記載されていた。


(…これかな?)


冊子の裏にQRコードがあったので、早速注文してみることにした。


(“あの感覚”は忘れられそうにないな…)


 それから2、3日経った週末に商品であるタブレットが届いた。そして何気なく同封されていたパンフレットを見て、あることに気付いた。


(ん?…この会社の住所がどこにも記載されてない……)

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