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MASK 〜黒衣の薬売り〜  作者: 天瀬純
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コンビニ帰り

 月曜日から金曜日にかけて、その週の激務を終えた私は仕事終わりに職場近くのチェーン店のハンバーガーショップで軽く夕食を済ませて帰宅した。疲労が溜まっていたためか、玄関に入るなり睡魔に襲われてしまった。すぐにメイクを落として、シャワーを浴びて寝に入ったが、空腹で変な時間に起きてしまった。


(深夜2時か……)


あんまり出掛けたくなかったけど、冷蔵庫に食料があまりなかったので、近くのコンビニに行くことにした。外に出ても恥ずかしくない簡単な服装に着替えて上着を羽織った私は近所のコンビニへと続く坂道を下っていった。


「いらっしゃいませ〜」


コンビニに着くと、菓子パンやフルーツゼリーに炭酸飲料をいくつか選んだ。会計を済ませて店を出ると、車が一台も止まっていない広い駐車場が視界に入った。さっさと帰ろうと思い、駐車場を横切ってアパートに続く坂道へ進もうとした瞬間、


ザッ、ザッ、ザッ…。


「ん?」


なにやら背後のほうから、複数の人間が歩いてくる気配を感じる。


(え、なに?)


昼間だったら、そのまま気にせずに歩いて行くはずなのに、遠くにある街灯よりさらに奥の暗闇から目が離せられなかった。


(なんかいる…?)


生き物特有の本能だろうか。自分の身に迫るものが危険な存在かどうか確かめたくなってしまうのは。


ザッ、ザッ、ザッ…。


やがて、“それ”は街灯の下に到達した。


「っ⁉︎」


一瞬だったけど、“それ”が街灯に照らされたことで姿を見れた。


(……武士?しかも…1人じゃない?)


徐々に“それら”が近づいてくると、足音だけでなく、武具の金具同士がぶつかるような音もはっきりと聞こえてきた。


(ここから離れないと)


頭の中での行動選択肢には『この場から離れる』の一択だったけど、金縛りにあったかのように動くことができなかった。


ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ…。


ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ…。


ついに“それら”が目の前にまで近づいてきた。さっき、武士のように見えた“それら”の姿は前にテレビの再放送かなにかで見た源平合戦のドラマで武士が着ていた鎧そのものであった。顔には、能面のような形であるけど2本の細い角が生えている以外はただの白いお面を掛けていた。そしてデカい。とにかく大きい。3mはあるのではないだろうか。その大きな武士たちは前に2人、後ろに2人といった配置で御輿のような物を担いでいる。それはまるで平安時代の貴族が乗っていた牛車のようであった。私が“それら”の前で動けずにいると、武士たちは目の前で立ち止まった。


「どうかしましたか?」


武士たちが担いでいる籠の中から声がした。


『申し訳ありません。我らを“視える”人間がいたものでして』

「なるほど…。初めて見る貴方たちに思わず恐れを抱いてしまい、動けなくなっているようですね」

『はい…。結界を張って、我らの姿を認知できないようにしていたのですが…』


武士たちと籠の中の人物で何やら話し合っている。


「問題ありません。そういった特異体質の方なのでしょう。降ろしてください」


声の主が指示すると、武士たちはしゃがみ込んで御輿をその場に降ろし、籠の御簾を上げた。そこには、1人の若い男性が座っているのが見えた。てっきり武士たちと同様に古風な着物を身にまとった人がいるのかと思ったが、その男性は上下黒い細身のスーツにドラッグストアなどでよく見かける黒い布マスクを着けていた。彼は御輿から降りて、私のほうへと近づいてきた。


「驚かしてしまい申し訳ありません。」


そう言って、私の顔の前に右手を掲げて左右にはらうように動かすと、先ほどから感じていた金縛りが一瞬にして解けた。


「これで身体が動けるようになると思いますよ」


何が起こっているのか、全く理解できない。


「“彼ら”が張ってくれた結界とあなたの精神が共鳴してしまったようですね。稀なことですが、どうやらあなたは特異体質のようだ」


彼が私に話しかけていると、御輿を担いでいた武士の1人が黒いアタッシュケースを彼のもとに運んできて、その場に跪いた。


「ご迷惑をおかけしたお詫びにこちらをお渡しします」


彼はアタッシュケースを開くと、薬局で貰えるような白い紙袋を私に差し出してきた。


「これには私が調合した薬を染み込ませてある特別のお守りが入っています。名は【精神防御の当世具足(とうせいぐそく)】。身に付ければ、今回のような特殊な結界と共鳴して金縛りにあったり、邪悪な霊や妖たちを遠ざけてくれたりします。カバンなどに付けてみてください」


そう言って、彼は私の手に紙袋を持たせると、御輿に乗って去っていった。


(不思議な光景……)


その後、しばらく御輿を担いだ一行が去っていった方向をぼんやりと眺めた。しかし、気がつくと自宅であるアパートの玄関前に立っていた。何が起きたのか理解できなかった私は、コンビニで買った商品が入っているビニール袋のほかに、彼から貰った紙袋を持っていることを確認すると夢ではなかったと実感した。


 後日、袋に入っていたお守りを通勤用のカバンに付けたところ、時折外出時に感じていた変な視線を感じることがなくなった。

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