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異世界タダヤス  作者: 多田 康史
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出会い、そして異世界へ。

体調が良ければどんどん書いていきます。

 出会いそして異世界へ


 2022年7月18日、月曜日、海の日、祝日である。


 梅雨も明けた。快晴の日の出来事であった。


 俺は、タダヤス。本名、多田康史は山道をお気に入りのマッドブラックのMTBマウンテンバイクで登っていた。


 MTBというものは良いもので己の鬱屈とした精神を自然の中で解放させてくれた。


 今日なら雨に降るれることもないだろう久しぶりの小旅行だ。

 

 全く長雨というものは嫌なものでどんどんできる泥道に辟易(へきえき)としていた。


 長距離を移動する旅行などは専ら輪行なので体中が泥だらけになる本格的な泥道にはあまり挑戦できないでいた。


「ハァハァハァ」息を切らしながら峠を登るやっと峠の頂上さぞ景色もよかろう。


 MTBを手ごろな場所に停めこの真夏日を避けるために木陰に入る日差しが和らぎ心地よい風が吹く。


 ここで少し休憩する。


 汗びっしょりになりながら峠を登ってきたご褒美とばかりに喉を鳴らし水を飲む、どうやら大変なことにこれで水のボトルが空になってしまったようだ。


 悩みの種があるがここは、息を整え景色を見やる梅雨のジメジメとした空気を感じさせない夏の高い空、遠く幾千もの宝石のように輝く海、すべてを沸騰させるかのような()だる様な暑さの町、いよいよ夏本番という感じだった。


(あまり好みではないが海に行くのもよかったかなと思う、人が多すぎるか。俺はコミュ障なのだ。)


 そんな景色を見ながら悩みの種である、予備のボトルを手にする。途中無理な自動車の追い抜きに会い。


 その時、ボトルケージが緩くなっていたのか落として割ってしまっていたのだ。


「まさか自販機すらないとは困ったものだ」


 今日は真夏日だ。


 旅の道程を考えると水分がとてもではないが足りない、あと30kmほどあるだろうか。水分不足は死活問題だ。


 ボトルを落とした時引き返すべきだったか?


 そう頭を抱えていると、この辺りのことを思い出す。


 そうだ確か湧水があったはずだ。


 山道を抜け林道に入り少し進むと湧水があったはず。


 さぞ身に染みる事だろう。

 

 そう(ひらめ)きながら周りを見渡すと木陰の脇にMTBでも走れそうな林道があることに気が付く、この道を進もう、そう決めるがそれが()()()()()()()()()()()()()()


(さっきから暑さのせいか正常な判断ができてないような気がする)

 

 林道を走る、夏の日差しを遮る木々たち、森の匂い。

 蝉の声、MTBの走行音、枝を踏む音、砂利を(すく)う音。


 そんな音の中で、林道の先で女性の悲鳴が聞こえた気がした!

「なんだ今の声」幻聴だろうか?そんなの構わない、

 急ぎペダルを踏むなぜだか体が軽い。


 幻聴なんかじゃない、悲鳴の主が向こうにいる気がする。


 必死にペダルを踏みながら考える怪我か事故はたまた事件悲鳴の主は無事だろうかそんな中500mほど走っただろうか少し開けた場所に出る。


 そこには木漏れ日に照らされ。苔むした小さな湧水の滝があった。


(記憶にある湧水とは違う気がする。)


「お~い誰かいるのか。大丈夫か!」


 何かを感じ取り小さな滝に近づく。


 すると乾いた木の葉を踏むような感触と音そして足元から、悲鳴が聞こえた。


「キャァー」


 慌てて足をどけ足元を見る。


 苔に胴体着陸したような跡とタダヤスの足跡それと、小さな羽の生えた人形のような少女。


 物語に登場するような妖精だ。


 どうやら彼女を踏んでしまったようだ。


 タダヤスは困惑するが、すまないとすかさず謝る。


 そうすると妖精は「はははあなたが折ったのは一枚だけ」と皮肉めいた口調で言う。


 だが傷だらけの体に二対の羽は一枚は折れ一枚は(ひしゃ)げているようだ。


「全く困ったものねこんなことになるなんて」


 吹き飛ばされて気絶していたのだと言う彼女に。


「手当をしよう」そう提案する。


「有難いは困っていたところだったの。力を使いすぎてしまって」


「そんな様子じゃほっとけないよ俺にできることをするよ」


「そう有難いわねでも奴が私のことを狙っていたのでなければいいのだけれど」そう言い眉をひそめる


 手当といっても特別なことができるわけでもない。まずエネルギー補給に持っていた甘いお菓子をあげてみる。


「これで力とやらが沸いてくればいいのだが」


(妖精は甘いものが好きと聞いたことがある。あくまでおとぎ話の中での話だが)


 苦悶の表情が少しほころぶ気に入ってくれたようだ。


「このお菓子いいわね少しは力、マナが回復するわ」


 そしてけがをしている2枚の羽根をどうにかしようとする。


「羽を伸ばした状態で留めることができればいいのだけれど。」


「提案があるのだが」そう言いつつ小物入れからガムテープを取り出す。


「なんでもいいはほかの羽で飛ぶのに邪魔にならなければ。うんおいしい」と怪我などして、いないかの様な上機嫌でタダヤスの提案にのる。


 よっぽどお菓子たちが気に入ったのであろう。


 折れた羽を留める時と拉げた羽を伸ばした時に苦悶の表情を浮かべたが、治療?には協力的だったので、残る傷に消毒液を掛ける。


 消毒液を掛けられ目を丸くしていたが。


 彼女はくるりと飛び回りあたりを一瞥(いちべつ)すると

「奴は近くにはいないようね。さっきのお菓子頂戴(ちょうだい)


 残りのお菓子をすべて渡し、話をすることにした。


「俺は多田康史、タダヤスと呼んでくれ」


「私は...私の名前は、ニア」少し考えこんだようだが、名前を教えてくれたようだ。


 タダヤスは眼鏡をクィっと上げ、ようやく疑問をぶつける。


「妖精なんておとぎ話の中だけの者だと思っていたけどなんでこんな所に?」


「まず私は此処(ここ)とは違う世界から来たの。本当はもう少し北の方に出るつもりだったんだけど転移座標がなぜだかずれてしまって。そしたらあの大イノシシが現れて此処まで吹き飛ばされたってわけ。」


 北というと都市部の方かちょうどタダヤスの旅の終わりでもある。


(それにイノシシといえば彼女から見れば皆巨大だろう。)


「異世界から来たと言えば、誰かを導きに来たのかい?」


「察しがいいわねあなた、近々復活するであろう魔王に対抗する勇者を連れに来たの!」


 胸を(おど)らすタダヤス空想好きのタダヤスにはたまらない展開だった。

もしかしたら自分も異世界へ、行く時が来るのではないかと思うと、暗い現実を、うまく生きられないでいた時もあったくらいだ。


それをMTBは変えてくれた外で遊ぶ楽しさ少年の日の様な気持ち。


「勇者候補は北へ少し行ったとこおそらく都市にいるわ」その言葉がタダヤスを現実に引き戻す。


「・・・北と言えば都市の方だな、俺の目的地でもある連れて行ってやるよ。」少し落ち込む。


「元気がないわね本当に大丈夫?」提案した割には落ち込んでいるタダヤスに少し不安な様子のニア。


「こんな出会いがあったんだ。俺が勇者になれる日が来たのかと思っただけさ。まぁ痛いのは嫌だからいいか」


「そう確かにあなたは勇者ではなさそうだけど、とっても助かっているわ。」そう言い彼女は微笑む。


 そんな彼女の微笑みに胸が晴れる。


 勇者のもとえ送り届けようそう思った。


「さあ行くか」壊れてないボトルに水を入れ腰を上げる。

「よろしく頼むわ」そう言い胸元に入る。


 来た道を振り返るそうするとあの林道は消えていた。


(妖精と出会うくらいだこんなこともあるか)


「あっちの方よ」指さす方に獣道があった。こちらを行こう。


 MTBに乗りゆっくりと走る。


 行く先には夏の太陽に照らされた。木漏れ日の道が続いていた。


「木漏れ日が綺麗だ」そうつぶやく


「確かにそうね私がいたところはもっと火の力が強かったから森は荒れ果てていたわ。それに比べてこの森は過ごしやすそうだわ」


「君は俺から見ると火の妖精に見えるのだが違うのかい」


「いいえ火の妖精よ荒れ果てた場所が嫌いなだけ」


 しばらく進むと開けた場所に出そうだ。


やっとちゃんとした道に出れそうだ。


いくらMTBだといっても獣道の木の根を越える度伝わる振動彼女は不機嫌そうであった。


 彼女が呻いたそれに気を取られ止まるタダヤス。


 真夏の光を、月を雲が覆うように隠す。


奴だ。


 その大イノシシは彼女が言っていたより大きく感じた。体高は目線をはるかに越え2mはあるだろうか。


 逃げるか。元来た道はMTBを全力で漕げるような道ではない。


 山林に生きるもの、ましてはこの世ならざる風貌(ふうぼう)をした大イノシシから逃げ切れる訳もない。


 彼女を狙ったものか?彼女を諦めるか?俺は勇者ではないんだぞ!


 答えは決まっている彼女を諦めたところで2人とも助かる保証はないのだ。通り抜けるしかない。


 大イノシシが地面を2度ほど蹴りつけ、こちらに突進してくる。


 俺は混乱し訳も分からずMTBを漕ぐ、すると木の根に乗り上げ前輪が浮く。


 襲い来るイノシシ。


 一瞬気が飛ぶ、サスペンションが効いて威力がだいぶ収まったようだが。


頭を打ったがヘルメットに救われた。


 奴の牙にMTBが絡まっている。


だが、フンと頭を振ると木に叩きつけられ、いとも容易く壊れるMTB(相棒)


 相棒(MTB)と過ごした時間砂と傷まみれになった時間。


俺に力があれば。


 奴の拳のように大きな目と、目が合う頭を打って体は擦り傷だらけすぐには動けない。


何とか立ち上がろうとするが。


 迫りくる奴の前腕のように巨大な牙これに当たれば一撃で死ぬだろう。


 奴の突進、目の前に迫る牙。


 こんなに強く求めたのはいつ以来だろう。


奴に対抗する力が欲しいだが現実は甘くない。


 奴の牙が胸元を貫こうとする、刹那、ニアが強く光る。


 吹き飛ぶ大イノシシ。タダヤスに対し、打ち付けられるニア。


その瞬間二人の心が、通じ合った気がした。


「ねえタダヤス、妖精がね名前を教えるのは特別なことなのよ」


「なっ何を言ってるんだニア。お前だけでも飛んで逃げられなかったのか?」そう言って痛みに涙をながす。


「やっと名前を呼んだ。名のったのに呼んでくれないのかと思った」


  「大丈夫なのか体は?」


「勇者は見つけれなかったけど私も無理そうだし、あなたあっちの世界に行かない?」


「どこにだって行ってやるよ。だがら」拳を握る。


「好きに生きてタダヤス」そう言うと強い光に包まれた。


 光が収まり目を開く、見知らぬ風景、草原の中だ。


「どうやら戻れたようね。もう少しで戻れなくなるところだった」ボロボロで透けたニアが言う。


 「あまり時間がないの私、ぼろぼろだった服をこちらの世界の物に替えたわ。それと壊れた眼鏡の代わりに目を弄ったわ。」


 「ほんとだ眼鏡なしで見える。そうじゃなくて大丈夫なのかニア?」


 「あまり時間がないって言ったでしょ。あなたとつながりができたから傷は直したわ。」


 「また座標がずれてしまったの西に向かってあっちの方よ、()()進めば道があるわ。そのまま進めば村があるわ。言葉は通じる。じゃあ頑張って第二の人生を送ってね。私は眠りにつくわ」


 「おいそれだけかよ」


 「ぼろぼろなの分かるでしょ。あといつ目覚めるか分からないわ。あなた次第かもね」そう言い残すと


 ニアはタダヤスの胸に消えていった。


 草原をニア言う少し行くタダヤス。ニアの尺度が自身とは違うなとと思ったタダヤスであった。


「人間イタ。殺ス」


 一瞬何を言われたのか理解できなかった。


 迫りくる亜人。


 そいつが振るう、こん棒が空を切る。


 タダヤスはようやく状況を理解した殺さないと殺される。


(全く困った世界だ。元の世界も同じような側面があったか)


 タックルをかます。


吹き飛ぶゴブリン。


(すか)さず蹴りを入れゴブリンの持っていたこん棒を奪い取り、思い切り脳天に振り下ろす。


(ゴブリンはこの程度か、だが数が増えれば話は変わってくるだろう)


 足早に西へ()()向かう


 此処はもう異世界、あの真夏日は無く心地よい風がタダヤスを撫でる裸一貫何も持たないこの身だが新しい世界に胸を躍らす前向きな男タダヤスであった。




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