06話 アルベルト・オークション
アルベルトは、その後も盗賊・山賊などを討伐し続け、世界中で短期間に500箇所の隠れ家を壊滅させた。金品財宝を奪い取り、賞金首は冒険者ギルドに差し出した。
賞金首でない犯罪者たちは、いつも例の村長さんにお金を渡して働かせるようにした。
村は開拓が進み、賑わいを見せていた。元盗賊たちも充実しているようで、犯罪は起きていないようだった。
盗賊討伐の過程で救出した人質などは家族の元などに送り返した。
それらの過程で、金品財宝や賞金がけっこう貯まった。人質の中には要人も少しいて、少なくない謝礼金も手に入った。
また、ダンジョン探索や、依頼を受けていない魔物討伐も積極的に行った結果、自動最適解体によって完璧に解体された各種素材やドロップアイテムなどが多く集まった。
(魔石は全てマジックボックスに入れて魔力供給に利用している)
アルベルトはBランクまで史上最速で昇格し、彼は多くのギルドや冒険者に知られるようになっていた。
冒険者ギルドからはAランクどころかSランクへの昇格の要請もあったが、そうなると様々な義務が伴うため、アルベルトは固辞し続けた。
アルベルト(アルフォンス)は、魔石と貨幣を除いて、特に必要ではない財宝・魔物素材・ドロップアイテムなどを売却することを検討していたが、品数・種類が多すぎ、国宝級のものなど価値が高額なものも多かったために難航していた。
その噂を聞きつけ、世界2大オークションハウスであるクリザビーザとパーキンズから是非にと声がかかり、「アルベルト・オークション」と銘打たれた大々的な合同オークションが、ベクレラ王国の西に位置するマーキュリー商業国にて開催されることになった。
あの有名なアルベルトが保有する数々の秘蔵品のオークションが開催されるという情報は瞬く間に世界に広がった。
(2大オークションハウスが噂を広げたのだが)
実質的にはS級ソロ冒険者と位置づけられているアルベルトの他に、世界にはS級ソロ冒険者は5人存在するのだが、アルベルトとは異なって、5人とも王家や上級貴族との親交が深かったがゆえに、国宝級の品々は個人的に売買や献上がなされ、オークションで出品されることがなかったのである。
アルベルトから2大オークションハウスに対する唯一の要請は、落札者からオークションハウスに対する支払いはどの国の貨幣でも構わないが、オークションハウスからアルベルトへの支払いは(適切な貨幣交換比率に対応した)ベクレラ王国と3大国(ゲデック帝国・ザイデル皇国・テフヌト教国)の4国の貨幣に限る、というものであった。この4国の貨幣は貨幣価値が高い。
(この件に関するオークションハウスの関係者には、慎重を期して、全員に『血の契約(改)』の内容を説明したうえで、交わしてもらうことを承諾してもらった。貨幣限定は秘匿したいことだった)
先の「4国の貨幣に限る」というアルベルトからの要請は、もうすぐ6歳を迎えようとしていたアルフォンスによる壮大な計画の第一歩にすぎない。
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2大オークションハウスは、アルベルトの出品カタログ(バイヤー用)を作成するために従業員を総動員していた。
広大な場所に全ての出品予定物を広げて1つ1つの出品物を確認し、査定のスペシャリスト達が、彼らより遥かに高度な鑑定魔術を使える出品者アルベルトと合意した最低落札希望価格を決定していく。これらの作業に1ヶ月の期間を要した。
そして、いよいよマーキュリー商業国において「アルベルト・オークション」が10日間かけて開催されることになった。
世界中から各国の王族・貴族・大商会・富裕層・各種ギルド・大学・様々な研究機関など、10日間で延べ10万人が参加することになる。
次々と珍しいものが出品され、続々と入札され、落札されていく。入札価格・落札価格は多くの主要貨幣別に表示され、為替レートが明確になる。
(為替レートは、為替市場において異なる通貨が交換(売買)される際の交換比率を意味する。変動相場制において、為替レートは、特定の国家や中央銀行などが恣意的に決めるわけではなく、為替市場における需要と供給のバランスによって決まる)
国宝級の剣・槍・弓・盾・鎧・兜・籠手、貴金属宝飾品、アーティファクト、A級やS級魔物100頭近い数の皮・羽・角・爪・牙・甲羅・尾・目玉・肝・各部位の肉、各種希少金属、各種希少薬草など挙げれば切りがないが、全て高値で落札されていく。
そして、「アルベルト・オークション」の目玉商品は、脳内の一部だけが損壊されただけで外観には一つの傷もない巨大な邪竜の躍動感溢れる剥製で、術式により内蔵なども永遠に腐敗することがないという珠玉の逸品であった。
早くも2日目に行われたこの入札には会場が異常なほど白熱し、最終的には自由都市連盟の大金持ちの商人が、金貨4万枚(約400億円)で落札し、会場の参加者が全員立ち上がって盛大な拍手が起こった。
(オークションでの落札価格は、「なんとなく欲しい」という入札者が10万人いる場合より、「絶対にどうしても欲しい」という入札者が2人いる場合の方がはるかに高くなる、というのは本当だ)
その日以降にほぼ毎日出品された、状態は同様でサイズのみが小さい邪竜10体は、平均で金貨1万枚(約100億円)で落札された(合計1,000億円)。
邪竜は、S級冒険者パーティが複数で協力し、ようやく討伐が可能となる。
討伐の過程で、邪竜本体に様々な傷などが付くのは当然で、今回出品された邪竜にはまったくそれがなかったため、非常に高額となった。
余談となるが、巨大邪竜の入札競争で、金貨4万枚の入札を見て諦めた某国の国王は、一生そのことを後悔し、「買わない理由が金額なら買え、買う理由が金額なら買うな」という名言を残した。後に後半の言葉は「安物買いの銭失い」と言われることになる。
10日間の「アルベルト・オークション」開催による落札総額は、4国の貨幣換算で金貨67万枚分(約6,700億円)という、前代未聞の記録を打ち立てた。
約10%の手数料などを差し引いても、アルベルトは約6,000億円を得て大金持ちとなったが、それは目的ではなく、手段にすぎなかった。
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久しぶりにアルフォンスがエング辺境伯邸に戻り、分身と合体して自室で寛いでいると、シルヴィが「若、お久しぶりです」と転移してきた。
「あ、シルヴィ、久しぶりだね」
「はい。マカロンもチョコレートもまだ半分ほど残していますよ、ふふ。ピザ、パスタ、ラーメン、カツカレー、生姜焼き、お好み焼き、寿司、餃子、フロマージュ、いちご大福、プリン、生ビール、貴腐ワイン、ああ、もうどれもこれも本当に美味しかったです‥‥」と、味の記憶を辿っているようだった。
「あれらを全てこちらの世界で作れるようにするのですよね」
「うん」
「では、領地の南部の未開地に赴くのですね」
(さっすがシルヴィ‥‥)
「ふふ、そう思って、大精霊のスプレーマを呼んでおきましたよ。さあ、南部に行きましょう」
(シルヴィの食い意地が‥‥)
エング辺境伯領は、ベクレラ王国において南東部に位置しており、南側は山脈を挟んでテフヌト教国と国境を接している。
王国での領地の広さは王都に次いで2番目であるが、領地の北部には大森林があり、そこにはエルフ自治領があるため、実質的には土地利用は不可能である。
また、領地の南部には多くのA級・S級魔物が多く生息しているため、未開地のままとなっている。
よって、エング辺境伯領では、実質的に利用可能な土地はそれほど広くない。
シルヴィにアルフォンスの記憶を探ってもらった結果、こちらの世界の大陸は1つのみで、オーストラリア大陸(約760万平方km)よりも面積は少し小さいようだ。
あとは、イタリア(約30万平方km)の面積ほどの島が2つ西の方に、1つは東にあるとのこと(東の島が魔族の住む島)。
(こちらの世界の大陸:約700万平方km)
・ベクレラ王国:約100万平方km
・エング辺境伯領:10万平方km(韓国・ハンガリーくらい)
・辺境伯領の南部:約4万平方km(スイス・オランダ・台湾くらい)
アルフォンスは分身を辺境伯邸に残し、シルヴィと南部に転移した。
「よっ、若、はじめましてやね。アタシはウリヤーナっちゅーんや。よろしゅーな」
(なんで大精霊のスプレーマが関西弁を使っとんねん‥‥)
「関西弁っちゅーんか。若の世界でも似たようなもんがあるもんやなー」
「僕は、関西の大阪っちゅーとこで18年間も住んどったから、えらい懐かしいわ」
(アルフォンスは子供姿のときは「僕」、アルベルトのときは「俺」と使い分けている。アルベルト姿の時でも内心では「僕」を使うことがある)
「ほーか、そりゃ奇遇やなー、若。ちゅーか、あのマジックボックスの食べ物と飲み物、なんやねん。めーっちゃくちゃ旨かったで、ほんま」
「ははは、その話はまたみんなで集まったときにしようよ」
「それもそやな」
「あ、若、アタシな、精霊やから姿形は決まってなくて、どんな容姿にでもなれんねん。何か希望ある?」
「じゃあ‥‥ 狐人族がいいかな、なんとなく」
「よっしゃ。じゃあ胸はどないする?」
「僕には前世からどうしても譲れないものが2つあって、それがタバコと微乳なんだ」
「はっはっは。ええで、ほな微乳の狐人族な」
(アルフォンスの背後でシルヴィも微乳にしているようだ‥‥)