03話 「GRIT(グリット)」
(さて、これから自分がやりたいことのために、何をおいても必要なのは、お金だ)
最も効率がよいのは盗賊や山賊などの犯罪者が貯め込んだ財宝を奪い取ることだ。微塵も心を痛めずに済む。
捕らえた犯罪者が賞金首であればギルドから賞金をもらえるし、人質を保護すれば家族などから謝礼金をもらえる可能性もあるので、一石三鳥である。さらに魔物の討伐も同時に行い、素材やドロップアイテムを売ればよい。
(お金の次に必要なのは、人材だ。)
アルフォンスは、人材を見極めるために、職業適性を含めた能力専用鑑定術式を構築していた。これには随分と時間がかかった。
街で、成功者とされる人々なども含めて数多くの鑑定を行って試行錯誤をし、ようやく完成させた。
例えば、逸材との呼び声が高い3人(名前は省略。大手商会の支店長、鍛冶師、王国軍小隊長)は以下のように表示された。最大Lv.70を超えると逸材といえる。
種族:人間/27歳/女
職業適性:商人/現在Lv.62|最大Lv.78
知性/現在Lv.70|最大Lv.75
忠誠/現在Lv.72|最大Lv.71
部下/現在Lv.100人|最大Lv.1500人
種族:ドワーフ/60歳/男
職業適性:鍛冶師/現在Lv.70|最大Lv.81
知性/現在Lv.72|最大Lv.78
忠誠/現在Lv.55|最大Lv.70
部下/現在Lv.0人|最大Lv.0人
種族:人間/19歳/男
職業適性:剣士/現在Lv.58|最大Lv.71
知性/現在Lv.65|最大Lv.71
忠誠/現在Lv.80|最大Lv.85
部下/現在Lv.20人|最大Lv.300人
「忠誠」は、裏切らないかどうかの指標である。
「部下」は、指導・育成・管理が可能な部下の人数のことだ。多ければ多いほど優秀な統率者になれる。
対して、この鍛冶師のように「0人」というのは、いわゆる「職人気質」の者であり、1人で仕事をすることで最大の能力を発揮する。
さて、3人とも逸材といえるが、この能力専用鑑定術式の構築に最も苦労したのは、「最大Lv.」の算出方法であった。
例えば、これが「潜在的最大Lv.」であるとすれば、それは必ずしも信頼できる数値とはならない。
なぜなら、アルフォンスは、前世の経験から、最初は優秀であり潜在能力についても周囲の誰しもが認めるような人間が、何かをきっかけにやる気を失い、成長がぱったりと止まってしまうという現象を何度となく見てきたからである。
そこで、「最大Lv.」の算出には、「GRIT」を組み込むことにしたのだった。
「GRIT」とは、「やり抜く力」のことで、以下の4つの頭文字を取ったものである。
・Guts:困難に立ち向かう「闘志・度胸」
・Resilience:失敗してもあきらめずに続ける「粘り強さ」
・Initiative:自らが目標を定め取り組む「自発」
・Tenacity:最後までやり遂げる「執念」
これは、前世において、世界有数のコンサルティング会社で勤務した後、大学で研究を続けた某国の某心理学者(教授)が、「成功する人に共通する特徴(成功者の共通点)は『やり抜く力(GRIT)』である」との結論に至ったもので(その書籍もベストセラーとなった)、これらの要素はアルフォンス自身の前世での経験からも十分に納得いくものであった。
(これらの要素のみで完璧であるとは思っていないが、少なくとも「潜在的最大Lv.」よりは遙かに信頼できる)
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(さて、いよいよ冒険者ギルドに登録だけど、5歳児の姿ではギルドに登録させてもらえないだろう‥‥)
アルフォンスは、まず分身魔術と分割思考魔術によって、自分の完全な分身を辺境伯邸に存在させた。誰の目にもアルフォンス本人であるとしか思えないだろう。
時々は思念伝達や映像共有を行うことにする。情報・感情も共有する。また、いつでも一体化することも可能だ。
アルフォンスの本体は、変身魔術によって、目つきが少し鋭い黒髪の20歳の男にした。
冒険者ギルドでは「アルベルト」という名で登録した。
受付嬢から定型的な説明を受けた後、薬草採取の依頼(Gランク)を受けた。
その際、盗賊などと遭遇した場合に討伐をしたら、依頼報酬ではなく賞金首の賞金などをもらえるかどうかも確認したら、受付嬢は、いやいや、あなたの魔力量だと弱い盗賊にすら瞬殺されるから、という馬鹿にするのをかろうじて抑えたような表情をされた。
さらに薬草や魔物などの特徴、魔物の解体技術について解説した本、賞金首リストの閲覧を要請したら、禁止する理由もないためだろう、結果的には許可をくれたので、全てを閲覧して、マジックボックス内にある、『再現』した紙に術式を使って転写した。
ベクレラ王国内のエング辺境伯領で目立つのはまだ早いと考えたので、アルフォンス(冒険者アルベルト)は、それ以外の領地に転移門を利用した転移によって行動することにした。
転移門は「一度行った場所でないと利用できない」というのは俗説であって、要するに場所のイメージさえ明確であればどこでも利用できた。一度行った場所でないと、というのは明確なイメージがあるかどうかの問題にすぎない。
3歳から5歳のこの2年の間に、母に街に連れ出してもらっていた際、鑑定魔術によって多くの人の場所記憶を映像共有していた。
それによって様々な場所に転移し、その転移先の場所でもさらに同様の行為を繰り返した結果、既にこちらの世界のほとんどの場所に転移できるようになっていた。
冒険者ギルドでも多くの冒険者の場所記憶を映像共有し、中には冒険者を装った盗賊や山賊などの犯罪者もいたので、それらの隠れ家や潜伏場所に行くことにした。
過去2年の間に構築した術式には、物理攻撃耐性・魔法攻撃耐性・精神干渉耐性のある結界魔術があった。さらに、身体に害のある毒物・ウィルス・細菌・寄生虫への耐性、および、それら毒などの探知・鑑定も可能だった。
ただ、それらの耐性について、魔術の展開(常時発動)は魔力量的に心許ないので、危険察知術式を構築して、攻撃の種類・威力を瞬時に判断し、それに対応して少しだけ上回る強度の結界を張るという省エネモードとし、攻撃が当たる0.1秒前に発動することにした。
(うん、便利な術式だ)
アルフォンスからの攻撃としては、睡眠魔術や拘束魔術(人ではなく物の移動に特化した物専用転移門を敵の付近でいきなり開いて、強化魔術を施した縄状の金属で拘束し、口を封じるための猿ぐつわをもかませるもの)という優しさに溢れたものである。
さらに、水魔術の「ウォータージェット」だが、これは前世の技術であるウォータージェットの応用版だ。
ウォータージェットとは、300MPa程に加圧された水を0.1mm~1mmほどの小さい穴などを通して得られる細かい水流で、その特徴は水流の速度が関係しており、多くの場合500~800m/s程で、マッハ3に達する高速なものも存在する。
高硬度のダイヤモンドでさえ容易に切断できる恐ろしい技術で、おまけに水魔術「ウォータージェット」には自動追尾機能(ホーミング機能)まで組み込まれている。
人であれ魔物であれ、大概の対象は耳から打ち込まれるだけで脳が破壊される。なんせ脳内で10回もウォータージェットを回転させることさえ可能なのだ。
(人が相手の場合には、余程のことがない限り使いたくないな‥‥)