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02話 術式を構築

 藤木康光は、ベクレラ王国エング辺境伯家の次男として生まれ、アルフォンスと命名された。


 父はカールハインツ・エング(31歳)、母はミシュリーヌ(27歳)、兄はヴィルフリート(7歳)、姉はソフィア(5歳)、次男アルフォンス(0歳)。

(そして2年後には次女マイヤが産まれることになる)


 辺境伯とは、田舎の貴族のことではなく、中央から離れて小さくない権限を認められた者である。

(爵位としては、上から公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、騎士)


 辺境伯領は、他国からの防衛の任を負う。エング辺境伯家も、大国のテフヌト教国と国境を接している。


 3歳になる誕生日の深夜に目を覚ましたアルフォンスは、突然すべてを思い出した。

 前世のこと、そして女神ペルーサーとのやりとり。


 朝になり、父・母・兄・姉が、「アル、何か誕生日プレゼントに欲しいものはあるか?」と、銀髪で黒い瞳の、少女のような顔立ちをしたアルフォンスに希望を訊いた。


「少し大きな魔石が欲しいかな」


 貴族は魔力量が多いの通常で、その中でも圧倒的な魔力量持ちの家系として有名なエング家の4人は、アルフォンスの魔力量が極めて少ないことが原因でこれから彼が経験するであろう辛い人生を憂い(もちろんそれをあからさまに表情に出すことはなかったが)、家族も使用人も皆が存分にアルフォンスを甘やかした。


「よし、できるだけ大きな魔石を贈ろう」


「ありがとう、父さん」


 その日はとても楽しい誕生日パーティーが催された。


(但し、残念なことに、こちらの世界の料理は種類が多くなく、おまけに味がやたら薄過ぎたり濃過ぎたりしたのにはちょっと辟易したのだけれど‥‥)


 そして同時にこの日は、アルフォンスの魔術能力によって、この世界が著しく変化していく歴史的な日にもなる。

 女神を含めて誰一人として予想できなかった方法によって。



---



 その日から、3歳のアルフォンスは膨大な数の「必要になるだろうもの」をイメージして、その術式を構築していった。


 術式構築そのものには魔力は必要なかったが、発動と展開(常時発動)には魔力が必要であった。魔力量が少ないために魔石の魔力を借りることになる。


 まず最初に、術式の発動と展開に必要な魔力量を1,000分の1で済む術式を構築した。

 10,000分の1から始めて様々な数値を試してみた結果、1,000分の1が最高値であると判明した。これだけでも十分であった。

 実質的には魔力量が1,000倍になるようなものである。


 しかし、だからといって、極大魔術などを使えるわけではない。

 大きな魔力量を有する者は、いわば直径が巨大なパイプで魔力を放出させることができるが、アルフォンスのそれはストローほどのものであるからだ。



 次に、極大容量のマジックボックスの術式を構築した。

 先日の誕生日に母からプレゼントしてもらったミスリル製のブレスレットに、その術式を1ミリまで圧縮してから付与し、念じるだけで何でも出し入れ可能にした。


 内容物については自分だけが見えるパネル(光学魔術)で整理整頓された形式で一目瞭然となるようにした。実験として部屋にあるものを出し入れしてみて成功した。

 このマジックボックスに大きな魔石を入れて、すぐに魔力が枯渇することがないよう、常に自身に魔力が流れるようにした。


 術式の発動は短時間のみなのでまだよいとして、マジックボックスのような時間停止魔術と空間拡張魔術の展開(常時発動)はできるだけ避けるべきであった。


 しかし、魔力量の少ないアルフォンスにとって、魔石、および予定している膨大な量の物を入れておくためには、マジックボックスは命綱ともいえるものであったのだ。



 そのように、2年ほどを費やして、アルフォンスは数千もの術式を構築しつつ、母に辺境伯領内の図書館や街への買い物に連れ出してもらったりした。


 図書館では超速読魔術で全冊を読了し、マジックボックス内にある『再現』した紙に術式で転写した。

 商業街では様々な商品の種類や物価や貨幣価値などを学んだ。


 また、この期間に、女神ペルーサーから許された自分の所有物であるパソコン・スマートフォン・タブレットなど、およびそれらの予備バッテリー(完全充電済み)を念じて手元に出現させ、マジックボックスに入れた。


 ふと思いついて、試しに予備バッテリーを『複製』してみたら、驚くべきことに成功してしまった。しかも『複製』の数に制限がなかった‥‥


(なぜ?)


 さらに、前世のインターネットを閲覧して『再現』してみたカツカレーやスプーン、果汁100%のリンゴジュース、各種調味料までも『複製』できた‥‥

 自分の所有物だけでなく『再現』したものまで『複製』が可能‥‥ いいのだろうか‥‥


 調子に乗ってこちらの世界のもの、例えば本や枕やベッドを『複製』しようとしてみたが、さすがに不可能であった。


(まあそうだろうな。前世のものだけでも『複製』できたことは、「実り多き者」たる女神ペルーサーさんの加護か恩寵だったと思うことにしよう。ペルーサーさんの単なるミスである確率がすごく高そうだけど‥‥)


 ひとまず前世の食べ物と調味料、その他必要そうなものは、できるだけ多く『再現』して、マジックボックスに入れておいた。


(実は、最も『再現』したいものは、ある銘柄のタバコだったのだが、5歳児の肉体に喫煙させるのはさすがに‥‥ ヘビースモーカーだった自分は今後成長してもタバコをやめられる自信はないのだが、それはまた数年後の課題だ‥‥)



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