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18話 辺境伯領の貨幣発行権


「ところで辺境伯、ご相談があるのですが、よろしいでしょうか」

「ええ、何でしょう」

「エング辺境伯領の発行する貨幣についてなのですが‥‥」



 多くの国では、王や国にのみ貨幣の発行権(鋳造権)があるのだが、ベクレラ王国を含めたいくつかの国では、諸侯にもその権限を認めている。特にベクレラ王国は建国以来、諸侯の力が強い。


 もっとも、ベクレラ王国は代々の宰相家が優秀であったため、貨幣価値(信用)は常に高いまま現在まで安定してきた。貨幣価値の高さは3大国(ゲデック帝国・ザイデル皇国・テフヌト教国)も同じである。


(ゆえにアルベルトはオークション後の自身への支払い貨幣を4国のものに限定した)



 鋳造権(貨幣発行権)は、諸刃の剣である。

 鋳造権のメリットは何と言っても貨幣発行益にある。

 地金(じがね、じきん/銅・銀・金)の値段よりも額面が高い貨幣を発行すれば、差額分で多大な利益を得る。

 例えば、7万円相当の地金で10万円の価値がある金貨を発行できれば、それだけで3万円の利益が出る。

 多く発行すればするほど利益が出るため、大量に貨幣を発行することになる。

 そして地金の含有量を減らせばさらに利益は大きくなる。

 そうなると改鋳のたびに悪貨が増えることになり、その貨幣に対する信用は低下し、同時に貨幣価値が下がる。悪貨鋳造である。そして、その貨幣価値は急落する。


 また、先の4国と同様に、エング辺境伯が発行してきた貨幣価値も常に高いままである。代々の辺境伯が生真面目な人柄で、暴利を貪るようなことをしてこなかったからである。



「エング辺境伯領の発行する貨幣について、私に権限を委譲して頂きたいのです。もちろん悪貨鋳造ではなく、逆に価値を高めるためです」



(辺境伯は腕を組んで俯きながら、どこを見るでもなく、じっと何かを考えている。数分が経過する。兄も静かに考えている。ソフィアやマイヤが平然としているのは計画を知っているから当然として、母まで平然としているのは不思議だった。関心がないわけではない。時に父に政策について意見するほど聡い人だ。さらに数分が経過して緊張が高まる)


「分かりました。委譲しましょう」


 アルベルトは、予想通りの回答だったが、安心した。アルベルト(アルフォンス)としては、エング辺境伯領全体で発展していくことを希望していたからだ。


 大量に生息していた強力な魔物を殲滅し、ここまでの都市を作った人間であれば、辺境伯領から独立することも、さらに辺境伯領を強引に奪うことさえも容易なのだ。

 そのことを辺境伯は十分に理解していた。だからこそ、それらをせずに貨幣発行権の委譲という要請のみとしたアルベルトの誠実さを信頼したゆえの結論なのだ。もちろん貨幣価値が上がること、アルベルトと協調関係を築くことのメリットも計算に入っているのは当然である。

 

「有り難うございます。ご期待に応えてみせます」


 その後、穏やかな雰囲気で解散し、ソフィアが家族を都市の見学へ連れて行った。



---



 5大商会の会頭らにも、家族と同じ日を来都日と連絡しておいたのだが、できるだけ早くヴァルータを見て回りたかったようで、みな一緒に3日前に入都した。


 情報庁の監視局から連絡があったので、アルベルトはウピオルに事情を説明し、案内が可能な部下を5会頭らに向かわせるよう依頼した。

 案内役の女性は、都市の見学とアルベルトとの面会のどちらを先にしたいかを確認し、アルベルトとの面会を希望したとのことだったので、研修を受けに来た各商会の10人とともに、アルベルト商会の接客室まで案内してもらった。

(ティボーデ会頭は長男も連れてきており、紹介された。後にクルー9人とも会わせたら、おそろしく緊張していた)


 お互いに再会を喜び、雑談などした後、商談に移った。

 まずは、録画済みのシルヴィによるスマポとタプレの動画をモニターで観てもらった。これによって理解がさらに深まったようだ。


 最初の会合で決めた概要は以下だった。


・アルベルト商会は、5大商会にのみ銀貨2枚(約2万円)でスマポを納品する。販売はすべて5大商会のみとする。


・アルベルト商会は、例外的に、一部の狭い地域でのみ、スマポを販売することができる。


・スマポに最初から付与されるアプリは「設定・通話・メッセ・背面色彩変化・為替レート表示・マジックボックス(最低容量2リットル分)」である。


・追加アプリはアルベルト商会が販売する。追加アプリは5大商会に限定せず、全ての商会・商人などに納品が可能である。納品価格はアルベルト商会の販売価格の8割とする。


・5大商会がアルベルト商会に支払う代金は、(支払い時点での適切な為替レートに対応した)ベクレラ王国・同国エング辺境伯領・ゲデック帝国・ザイデル皇国・テフヌト教国の発行する5つの通貨に限る。


 これらに以下を追加した。


・スマポに最初から付与されるアプリに「財布」を無償追加する。


・アルベルト商会は、タプレについて小金貨1枚(約10万円)での販売を予定しているが、5大商会にのみ銀貨5枚(約5万円)でタプレを納品する。


・タプレの追加アプリは、アルベルト商会が販売する。追加アプリは5大商会に限定せず、全ての商会・商人などに納品が可能である。納品価格はアルベルト商会の販売価格の8割とする。



 5大商会の会頭全員が同意した。シルヴィによるスマポとタプレの解説動画を観て、成功を確信したからだろう。


 そこから、研修受講者10人は別室で、シルヴィ直属の配下によって、研修を受けてもらうことになった。

 その研修内容は全て録画され、いずれ10人が購入することになるであろう動画保存機能アプリが付いたスマポのマジックボックス内にある記録術式付きガラスに保存する用に渡すことを約束した。(そして実際に滞在中にその約束は果たされた)


 会頭5人とも今後の詳細などを話し合い、5人はその場でスマポ・タプレ・それぞれのアプリを発注するというので、産業庁から担当者(テュポンの直属の配下)を呼んだ。


 各商会がスマポを10万台ずつ、タプレを5千台ずつとかなり大量だ。公開式典で「5大商店の本店と支店で同時発売する」旨を公表することにしたという理由もある。

 本日中に各本店に届けることを約束した。

(5ヶ月後には在庫が尽きてさらに大量の発注がくることになる)


 また、別室で同時に行われている研修内容を録画したものを渡すことを伝えると喜んだ。

(その動画によってスマポ担当の商会従業員たちは大いに時間を節約できることになるだろう)



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