16話 各種アプリ
1週間後には迎賓施設で「ヴァルータ公開式典」が挙行される。
街のあちこちに設置してあるモニターや、スタジアムの巨大モニターなどで、公開式典の映像が流される。
公開式典の招待状を出すのは、原則として自国ベクレラ王国の人のみだ。
王族・貴族、その他については姉ソフィアが家族(父・母・兄)に相談して決めた。
他国からの招待客は、世界5大商会の会頭たち、ジラルデ商業大臣、「アルベルト・オークション」を2回開催してくれた世界2大オークションハウスであるクリザビーザとパーキンズのぞれぞれの代表者たち、オークション2回目の開催地だった自由都市連盟の中核的都市タシュの代表者のみだ。
都市ヴァルータがいきなり現れたことが、自国の他貴族領地や周辺国の遠視魔法師たちに認識された。
遠視魔法師たちは、馬鹿げた魔力量の持ち主が1人存在していることも確認した。
(事前にミカエルだけは魔力制御は不要でいいと伝えておいた。撒き餌として他国の反応・対応を知りたかったからだ)
そして、数日以内に世界中に噂が流れた。
「かのアルベルト氏が今度は先端的な都市を造っていたことが判明した。 その都市はベクレラ王国エング辺境伯領の南部にあり、『ヴァルータ』と呼ばれ、突然その全容を現した。 測定不能な巨大魔力反応が1つ存在することも確認された。 1週間後には来賓を迎えての公開式典が挙行され、翌日には外交・商業関係者に対する会見が行われるとのこと」と。
(最も面食らったのが、ヴァルータの南に位置するテフヌト教国だったことは言うまでもない)
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都市ヴァルータへの入都には、(南側の山脈地帯を除いて)全方位において複数の入口が設置されており、それらの入口以外からの入都は結界により不可能である。
入口は、前世における高速道路の一部インターチェンジのように、(場所によって異なるが)馬車3台〜10台が同時に通過できるように、横幅の広いものとした。
徒歩での入都も、前世でのテーマパークの入口のように、(馬車用入口の横に)多くの人が同時に入都できるようにした。
いずれも待ち時間をできるだけ少なくするためだ。
入都に際しての入都税などは、現時点では不要としている。今はできるだけ多くの人に来都して欲しいという理由からだ。
ただ、1年後には、スマポがないと入都すらできないようにし(そのことは今回予定されている会見でも告知する)、スマポに対応した端末を設置して、接触させるだけで自動的に入都税を徴収できるようにする。もっとも、他国に比べると徴収コストがかなり低いため、税も安くなる。
入都審査はない。ただ、入口に張られた特殊結界が自動的に諜報員・暗殺者などの危険人物を探知し、少し泳がせてから情報庁の特殊部隊員によって身柄確保されて尋問が行われる。
(情報庁には入口の全ての鑑定・監視映像が集約されて保存される)
ヴァルータ出現の噂が流れて数時間後には、わらわらと密入都(転移を含む)しようとする者たちが結界に弾かれていた。
その場合、「二度はない。次は身柄確保する」との警告音声が自動的に流れ、それでも再び密入都を試みた者たちは、瞬時に転移した特殊部隊員によって実際に身柄確保された。
身柄拘束された者たちは、特殊部隊員によってさらに離れた場所に転移で連行され、訊問された。
訊問の結果、国境を接しているテフヌト教国から14人(ドワーフ1,000人を連れ去ったのがヴァルータだと確信したのだろう)、サイデル皇国から5人、ゲデック帝国から7人だった。
3大国勢揃いといったところだが、警告音声を聞いて諦めた者たちが70人いたことを考えると、身柄確保された26人は任務に忠実だった者たちだとも言えるだろう。
後に情報庁のウリヤーナから思念伝達で「さすがにしぶとかったけど、みんなええ声で哭きよったでー、ちゅーのは冗談で、魔法『真実の口』を使ったから、楽にぎょーさん情報もろたわ。もっといろんな国から来てくれへんかなー」と、得た情報を伝えてくれた。
(訊問後は、記憶改変魔法で「結界を突破できず、そのまま誰にも見つからずに退散した」ことにし、情報送信術式を体内に埋め込んで、そっと送り返した。情報送信術式によって、その後の3大国の重要情報は筒抜け状態となった‥‥)
テフヌト教国は、教皇を含めた重臣たちが激怒して送り込んできたようで、アルベルトを含めた重要人物たちの殺害まで命じたそうだ。
ゲデック帝国とサイデル皇国は、マーキュリー商業国にある複合娯楽施設で使われた各種技術の入手(産業スパイ)、強大な魔力反応の確認、都市状況の偵察が任務だったそうだ。
少なくともテフヌト教国は「殺害命令」という、ヴァルータに対する明確な敵対行為を行ったわけであるが、すぐ反撃するわけにはいかない。戦争になりかねない反撃行為を、一地方都市が勝手に行うわけにはいかないのだ。
得られた情報は、直ちにエング辺境伯に伝え、そこからベクレラ王国上層部に伝えられた。
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ヴァルータの結界変更から少し落ち着いた後(予想通りだった危険人物たちの送り込み騒動は重視せず)、スマポとアプリの作製に関する進捗状況について、産業庁長官テュポンからアルフォンスに報告がなされたが、万全であった。
産業庁スマポ・タプレ局の作製工場では、角が尖っていない縦型長方形の魔導具『スマポ』が100万個以上も作製されていた。
初期形として、設定・通話・メッセ・背面色彩変化・財布・為替レート表示・マジックボックス(2リットル)のアプリが付いている。
財布アプリについては、5大商会会頭らとの会談時の条件には意図的に入れなかった。あの時点で興味を持たれることを避けたためだが、追加することについて異議が出ることはないだろう。
また、これらを有償追加アプリではなく初期形としていれたのは、今後の計画において重要な役割を担うことになるため、普及を第一としたからだ。
わざわざお金を払ってこれらのアプリを追加してもらうのではなく、最初から存在する方が使ってもらえる確率が段違いで、後にアプリ売却代金で得られる利益とは比較にならない利益につながることになる。
製造工場では、別工場で製造された大きな無色透明ガラスを、スマポサイズの大きさと薄さ(厚さ7ミリ)に切断して製作し、それをコーナー加工で角を丸くする。そしてまず強化術式を付与したうえで、初期7術式を付与する。
これが基本型となる。
5大商会には銀貨2枚(約2万円)で購入してもらうが、全行程での原価は銀貨1枚もかからない。
術式はアルフォンスが構築し、後に公開しても(こちらの世界で)問題がないように、テュポンが調整するという手順をとっていた。
アルフォンスが構築する全ての術式には、同時に次の3つの術式が常に併用されている。
圧縮術式。どんな大きな術式でも1ミリまで圧縮できる。
省魔術式。術式の発動・展開に必要な魔力量を1,000分の1で済ませる術式。
秘匿術式。術式の解明を防ぐための術式。日本語500文字による高度な暗号が用いられるため、こちらの世界での暗号解読は絶対に不可能であり、日本語・英語の翻訳魔術を付与されている大賢者・大魔術師であるスプレーマ達全員が何度も挑戦したがやはり不可能であった。
(もちろん今はクルー全員が暗号を解読できるようにしてある)
スマポに追加で術式付与が可能なアプリの機能は、(販売価格の安い順に)次のようなものである。
・計算機能/小銀貨1枚(約1千円)
・アラーム付き時計機能/小銀貨1枚(約1千円)
・メモ記入が可能なカレンダー機能/小銀貨1枚(約1千円)
・持主が亡くなった時に財布アプリにあるお金とマジックボックス内の物の相続者を指定しておく機能/小銀貨1枚(約1千円)
・他人数で可能なメッセ機能/小銀貨2枚(約2千円)
・写真機能/小銀貨2枚(約2千円)
・声や音楽を録音・再生できる機能/小銀貨2枚(約2千円)
・ニュース閲覧機能/小銀貨2枚(約2千円)
(ニュース1つ閲覧につき小銅貨1枚(約10円)が発生し、半分はニュース提供者に配分される設定。この時代において取得情報量と取得速度は大きなメリットとなるだろう)
・業務用と個人用の切替機能/小銀貨3枚(約3千円)
(中規模以上の商会や組織は、このアプリとは別に「組織用スマポ」を購入する方が便利なこともある。「組織用スマポ」はアルフォンスが前世でのクレジットカードから着想を得たものだ。個人用のクレジットカードと異なり、ビジネスカードやコーポレートカードなどの法人用カードがある)
・他人数で可能な通話機能/銀貨1枚(約1万円)
・他種族や他国家との翻訳機能/銀貨1枚(約1万円)
・動画撮影機能/銀貨1枚(約1万円)
・写真、動画、音楽の送信機能/銀貨2枚(約2万円)
・映像付き通話機能/銀貨2枚(約2万円)
・業務用に切り替えた後の「財布アプリ」に記録された情報を自動的(毎日か週一かなど選択可能)に商会本店・支店などに送信する機能/小金貨1枚(約10万円)
(メッセ機能の応用。この機能により商会などは業務用に使用した金銭情報を集約でき、飛躍的に効率が高まる。もちろん商会は専用対応端末を購入する必要がある)
・写真、動画、音楽の保存機能/記録容量による料金体系
(保存をマジックボックス内の記録術式付きガラスで行うため。動画は高額。ただ、保存する際にスマポに当該情報を保存する場合の料金が表示されるため、イエスを押さないと保存されないので安心。記録術式付きガラスの容量が限度に達すれば何かを削除するか、新たに記録術式付きガラスを購入してマジックボックスに入れる必要あり)
・結界機能/強度・種類・時間による複合的料金体系
(アルフォンスが使用しているような、物理攻撃耐性、魔法攻撃耐性、精神干渉耐性、身体に害のある毒物・ウィルス・細菌・寄生虫への耐性を全て備えた術式の「全部乗せ」は高額ゆえVIP向け。術式の選択が可能。また、危険地帯を移動中だけ利用することなども可能)
・マジックボックス容量拡大機能/容量・時間による複合的料金体系
(商人・商会などが商品を運搬する時だけ利用したり、在庫物保管用に中長期的に利用したり、あるいは冒険者が討伐した魔物を持ち帰るときのみ利用したり、様々な用途が考えられる。そこで、容量サイズを例えば10種類などに「固定」すると、サイズ指定した後で過小だったり過大だったりする不便さが生じることを考慮して、「おまかせ機能」を搭載し、ひとまずマジックボックスに入れてみて、スマポに「この容量の場合、時間単価が***です」などと表示されるようにし、さらに何時間・何日間など期間を入力するだけで料金を自動計算してくれるようにした。ユーザーフレンドリー。サイズは最大10億リットルまである。内容物を取り出して「利用終了」を押すと、自動的に財布アプリから料金が引き落とされる。なお、勝手に他人のものをマジックボックスに入れられないような窃盗防止術式も組み込まれている)