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12話 5大商会と『スマポ』



 会合当日、アルベルトら5人はヴァルータで昼食をとってから、商業省の近くに転移した。建物まで数分歩き、受付に行くと、すぐにジラルデ商業大臣が迎えに来てくれた。


「今回はお手数をおかけしました。ありがとうございます」

「いえいえ、日時調整くらいでしたので大したことありません。では会議室にご案内します」


 5人は会議室まで案内され、室内に入ると、横長のテーブルに面と向かって5人ずつ座れるよう椅子が配置されていた。1分ほどして、予定時間の5分前に会頭5人も現れた。


 アルベルトは「本日はお忙しい中、お時間を頂戴しまして誠にありがとうございます」と挨拶すると、世界最大のティボーデ商会フランシス・ティボーデ会頭が「いえ、こちらこそアルベルト殿のようなお方とご縁ができたことを嬉しく思います。あまり堅苦しくなくお互いざっくばらんに話しましょう」と言いながら席に着いた。


(先に到着していたが、入室はあくまで自分達が後というわけね。まあ当然だけど。でも明日は逆になってるだろうな)


 アルベルト側は、左からテュポン、ソフィア、アルベルト、シルヴィ、ウピオルとの並びで、それに対面して、ゲラティ会頭、カンプラード会頭、ティボーデ会頭、ホーテン会頭、シュヴァン会頭が座っている。

 アルベルトが4人を紹介し、ティボーデ会頭が4人を紹介した。


「アルベルト殿と4人の方々のご関係を伺っても?」

「ええ。こちらの4人は友人です。仕事上の関係者から紹介されて意気投合しまして」

「そうですか。それは良縁ですね。ところで、本日は何か特別なご用件がおありですかな?」

「はい、実は商売のことでして」と言うと、会頭ら5人はきょとんとした顔をした。

「商売ですか‥‥? それはオークション関係でしょうか?」

「いえ、新商品に関することです。これが見本です」と5人に1台ずつ渡したところ、みな物珍しそうに触っていろんな角度から眺めていた。

 

 前世のスマートフォンそっくりの商品だ。


 最も若いであろうゲラティ会頭が「この道具の用途はなんでしょうか?」と訊いた。

「これは『スマポ』といいまして、多用途に活用できるものですが、まずは通話、つまり思念伝達のようなことが誰にでも可能になります」

「え‥‥。いや、たしかに思念伝達魔法が使える人は多くないですが、本当にそのようなことが可能に‥‥」

「ちょっと試してみましょう。スマポは本来、(生体認証の一種である魔力質認証で)登録した者にのみ利用可能なものですが、これは誰にでも使えるようにしてあります。では、今から私がゲラティ会頭と通話してみますね」


 アルベルトは立ち上がって後方の壁際まで3メートルほど移動して背を向けて、ゲラティ会頭が持つスマポの番号をタッチした。するとゲラティ会頭のスマポからリリリン、リリリンと音がした。


「え?え?」と驚くゲラティ会頭に、「受信という表示が出ているはずですので、指でそこを軽くタッチして、その後にスマポを耳の側に寄せてみてください」。ゲラティ会頭は言われた通りにした。


「アルベルトです、聞こえますか?」

「き、聞こえます、聞こえますよ、この導具からアルベルト殿の声が聞こえます」と驚愕していた。


「では同じ部屋にいるから聞こえるという可能性もありますので、そうですね、カンプラード会頭に付き添って頂いて、部屋の外に出て離れてこのまま話してみますね。カンプラード会頭、お手数ですがよろしいでしょうか?」

「え、ええ、もちろんです」と付き添ってもらい、部屋から出て20メートルほど離れたところまで歩きながら話し続けた。


「カンプラード会頭、ちょっと私と変わってもらって、ゲラティ会頭と話してもらえますか?」

「ええ。あー、こちらはカンプラードです。部屋から出て20メートルほど離れましたが、ゲラティ会頭、聞こえますか?」

「聞こえます。本当にそんなに離れているのですか?」

「ええ、間違いないです。お互い聞こえるのですね‥‥ ちょっとアルベルト殿と変わりますね」


(続いて「スピーカー機能」も試してみせた)


 カンプラード会頭と共に部屋に戻ると、4人が呆然としながらも、ティボーデ会頭は「これはどれくらいの距離でも可能なのですか」と訊いてきたので、「大陸の端から端まででも可能です。ただ、魔力によって通話が可能となっていまして、距離が遠ければ遠いほど魔力量が必要となります。もっとも、このスマポにはマジックボックスも付けられますので、魔石の魔力によって魔力量が少ない者でも利用可能です」


「なんと、大陸の端‥‥ それにマジックボックス‥‥」とティボーデ会頭も他の4人も愕然としていた。


 会頭達はしばらく呆然としたままだったので、みなさんがお持ちのスマポは、ご自身以外の4人の通話番号も入っていますので、連絡先という表示をタッチして、試しに通話してみてくださいとお勧めすると、どうやら我に返ったようで、ティボーデ会頭がホーテン会頭と通話を始め、「ちょっと離れてみようじゃないか」と言ってお互い離れながら通話をしていた。みな楽しくなってきたようでスピーカーなども試して、軽い興奮状態だった。


 5人とも「これは凄いですな‥‥ 世界が変わります‥‥」とスマポを触りながら呟いていた。



---



「では次に、文字を送る方法を試してみましょう」

「え? 文字を? 手紙のように?」

「ええ。では私からシュヴァン会頭に送りますね」と言って、文字を入力して送信した。シュヴァン会頭の持つスマポからピコーンという音がしたので、「メッセという表示に赤く①と表示されてるはずですので、メッセのところをタッチしてみてください。アルベルトです、メッセージは届きましたか? ちなみに音声入力も可能ですよ、という文字が送られているはずです」

「ほ、本当だ。その通りの文字が‥‥」


 他の4人がシュヴァン会頭のスマポを覗き込むと、そこにはその通りの文字があった。テーブルから少し離れて部屋の奥側に座っていたジラルデ商業大臣も好奇心に負けたのか、一緒になって覗き込んでいた。


 最も若いゲラティ会頭は「凄い凄い」と繰り返し、最も高齢のティボーデ会頭は「こんな魔法は見たことがないし、発想すら思い浮かばない‥‥」と複雑な表情をしていた。


 ゲラティ会頭は「ところで音声入力が可能とはどういうことなのでしょう?」と訊いてきたので、「メッセという表示をタッチすると、下半分くらいのところに文字を入力する用にキーボードと我々が呼んでいるものが出ますが、その左下に『音』という文字があります。そこを押してスマポに向かって話すと、それが自動的に文字に変換されます。文字を書けない者も多いですから便利なのですが、音声が完全に正しく文字に変換されるとは限らないのが欠点ですが」と説明した。


 5人はそれぞれ共通語でスマポに話しかけて、ほぼ正確に文字に変換されたのを確認して、再び驚いていた。


 ホーテン会頭が「これは共通語のみ可能なのですか?」と質問をしてきたので、「いえ、スマポの左上に『設定』という表示、あ、この表示のことを『アイコン』と呼んでいますが、そこで言語を選択できます。みなさんのは共通語に設定してありますが、様々な言語に対応しています。ただ、少数言語などにはまだ対応していません」と答えると、「なるほど‥‥ 言語も選択できるのですね、それは素晴らしいです」と頷いていた。


 ティボーデ会頭が「通話・メッセ・マジックボックス、この3つが全ての用途なのでしょうか?」と確認してきた。


「いえ、これらは最低限の機能です。例えば、他人数での通話機能とメッセ機能、映像付き通話機能、翻訳機能、ニュース閲覧機能、風景や人をそのまま写して保存できる写真機能、動きを数秒から数時間写して保存できる動画撮影機能、声や音楽を録音・再生できる機能、計算機能、指定した時間に音が鳴るアラーム付き時計機能、メモ記入が可能なカレンダー機能、持主が亡くなった時にマジックボックス内の物の相続者を指定しておく機能、為替レート表示機能(異なる国の貨幣の交換比率)、業務用と個人用の切替機能、背面色彩変化機能、結界機能なども追加できます。追加料金が必要ですが。あと、マジックボックスは容量も有料で拡大できます」。


(最も重要な機能のことは現時点では伝えない)


 シュヴァン会頭がティボーデ会頭に「ティボーデ会頭‥‥ どうやら我々は十分な心構えのない状態でこの場に臨んでしまったようです‥‥」と心中を吐露した。


 ティボーデ会頭は「アルベルト殿、『血の契約』が必要なようです‥‥」と深刻な表情で申し入れてきた。

「いえ、ティボーデ会頭、全く必要ありません。こちらとしましては誰に話して頂いても結構なのです。ただ、明日の条件については、双方の利益のために『血の契約』が必要となりますが」

「そうですか‥‥ 我々にも心の準備が必要ですので、申し訳ありませんが、明日の午前10時に、再びここで商談を再開させてもらえますでしょうか」

「承知しました。是非ともお願いいたします」


「ところで、この『スマポ』という魔導具ですが‥‥」

「ええ、みなさんの商会に販売をお任せしたいと考えております。こちらから商会への納品金額としては銀貨2枚(約2万円)、そして、商会での販売価格は銀貨5枚(約5万円)を想定しています。ただ、いくつか条件がありますが」

「それはそうでしょう。分かりました。では明日の商談を楽しみにしております」



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