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10話 妹マイヤ


 あれから4年と少しが経ち、アルフォンスは10歳になっていた。


 ソフィア(15歳)は、実家である辺境伯邸で、父カールハインツ(41歳)、母ミシュリーヌ(37歳)、長男ヴィルフリート(17歳)、次女マイヤ(8歳)に向かって、「4年前、アルベルト殿に南部開発を依頼したことは、お父様にお伝えして承諾を得ていましたが、順調に進み、このたび、一帯を都市ヴァルータと名付けました。事後報告になり申し訳ありません」と、領地に関する公式の話題だったので、丁寧に話した。


 父カールハインツは、そもそもA級・S級魔物が多く生息する南部の開発は不可能だと考えていたので、信じられない思いであったが、ソフィアが嘘をつくような娘でないことは知っていたし、何よりソフィアが楽しそうに、世界的に著名で莫大な財産も有するアルベルトとともに仕事をしているということを名誉に思った。


「それで、アルベルト殿は何をお望みなのだろうか?」

「いずれお父様にも会ってもらって、お互いに話すことになると思うけど、アルベルト商会の本店をヴァルータに置き、さらに都市ヴァルータの運営も行うことになるかな。もちろん税金も納めてくれるわよ」

「いや、そもそも南部は諦めていたし、むしろ魔物が北上してこないようにしていた傭兵団の防衛費用が今後もずっと不要になるだけでも十分なのだ。(不要になった費用分を、事実上税金として納められ続けてもらうようなものだから‥‥)」


「しかし、そもそもアルベルト殿ほどのお方にあのような辺鄙な土地を任せてしまってよいのかどうか‥‥」

「本人が希望してるんだからいいと思うけど。あと、アルベルト殿は徹底して身分を隠してるけど、仲間9人には伝えてるの。で、私も家族には伝えてよいと言われてるから絶対秘密という条件で明かすけどけど、家格はうちと対等で、その家の次男よ」

「それならますますあんな辺鄙な土地を‥‥ お会いしたときにお礼を述べないとな」


(アルフォンス分身はソフィアに思念伝達で「姉さん、嘘がうまいね」と笑いかけた)

(うるさいわね)


 アルフォンスは、まだ8歳のマイヤには難しい話題かと思っていたが、黙って聞いていた。

 常に無口なマイヤが突然「お父様、ソフィア姉さんと同じように、3年ほどで大学を飛び級で卒業してくる。その後に姉さんたちと一緒に働くことを許してほしい」と主張した。

「え‥‥ いや、マイヤ、そう簡単にいうが、ソフィアは天才だからできたのであって‥‥」

「大丈夫。可能。退屈。ヴァルータはこれからもっと面白くなる」

「ま、まあ、とりあえずやってみなさい。結果が出てから考えよう‥‥」

「ん。分かった」


 その夜、マイヤはアルフォンスを誘ってソフィアの部屋を訪れた。


「アル兄、私にも情報共有を求む」


(全て見抜いてたのか‥‥)


「ちょっと、マイヤ、あなた一体いつから気付いてたの?」

「4年前。姉さんが南部に行くようになって、アル兄がぼーっとしてることが多くなった。でも高速思考してた。そもそもアル兄の発想は根本的に何か違う」


「まいった。分かったよ‥‥」


 アルフォンスは、自身の3歳からの思考と映像の共有を行った。


「ん。異世界。転生。さすがに予想の斜め上キタコレ」

「もうそんな言葉も‥‥」

「私のアイテムボックスに、異世界の書籍と飲食物の全種類を移すことを求む」

「アイテムボックス持ちだったのか‥‥ わかったわかった。ほら。翻訳術式も。誰にも気付かれるなよ。王都でも注意しろ」

「ん。合点承知」

「‥‥」



---



 今から2年前、前回のマーキュリー商業国ではなく、(テフヌト教国の西側、ザイデル皇国の南側に位置し、50都市の連盟である)自由都市連盟の中核的都市タシュにおいて、世界2大オークションハウスによって開催された「アルベルト・オークション 2」は大盛況だった。

 

 前回の落札総額であった金貨67万枚(約6,700億円)の約3倍となる金貨200万枚(約2兆円)という途方もない記録を打ち立てた。

 これはスプレーマ7人によって提供された財宝に希少価値があるものが多かったということに起因する。


(オークションハウスは、あまりに売上げが多かったこと、また、次のオークションに対する期待あっだのたろう、手数料を10%から5%に引き下げてくれた)


(南部の開発にも多くのお金が拠出されたが、その多くはアルベルトが魔物討伐によるギルドからの報酬や素材売却代金で得た、4国以外の貨幣が優先的に使われた)



---



 現在、都市ヴァルータはほぼ完成していた。


(ヴァルータでは、スプレーマの直属の配下を除いて、住民全員がスプレーマ達によって『血の契約(改)』を交わすことになっている。ヴァルータ以外に知られてはならない情報が多すぎるからだ。そのうちに秘密でなくなる情報については、その時点で同情報部分の『血の契約(改)』は自動的に解除される仕組みにになっている)


 アルフォンスとスプレーマ達が世界中から多種多様な人材を集めた効果だったが、人材を引き抜かれた各国は、その人材がどこに行ったのか全く情報を得られなかった。


 ウリヤーナとウピオルが担当する情報庁の諜報員たちによる、対象者とその家族達との綿密な打ち合わせ、情報隠蔽、転移技術、そしてヴァルータを覆う結界が、それを可能にした。


 結界は、アルフォンスが以前にシルヴィとウリヤーナに頼んだ「結界が張ってあること自体気づかれないものであること、結界内部の魔物は殲滅中も殲滅後もまるで存在しているかのように錯覚させること、結界内部に仮に何者が存在していた場合でも結界の外に出られず、思念伝達を含む全ての情報伝達を不可能にすること」のままであった。


 しかし、複雑で大規模な結界を長期間に渡って、他の任務も担っている2人だけで維持することはあまりに負担が大きかったので、10万個の小さな魔石を周囲の地中に埋め込み、結界を維持する魔力供給源とした。


 それらの魔石には個別の小さな結界を張り、悪意ある者による結界妨害工作などを不可能にした。


 魔石自体には、数カ所の魔素溜まりとの間に転移門をつなげ、魔石の魔力が切れないように工夫したのだが、これを可能にしたのは、アルフォンスが開発した術式であった。


 従来、魔石は、いわば「一回使用のみの乾電池」のようなものだったが、これを「繰り返し充電して使用できる蓄電池バッテリー」のようなものにすることに成功したのだ。

 そして、このヴァルータ結界の魔石には、魔素から自動的に魔素を吸収して魔力に変換するという特殊術式が用いられている。


 魔素溜まりから魔素を使用することによって、定期的に起きていた魔物のスタンピード(魔物氾濫)を無くすという副次的効果も得られ、人々の生活の安全にもつながった。


 なお、都市開発も完成を控え、(近く実現が予定されている)エング辺境伯領の実力を世界に示す状況になれば、結界の役割を変更する予定である。


 もはや多くの住民が居住し、開発自体を隠蔽する必要性も薄れてきたためという理由もあるが、世界中から新たな住民や観光客を迎える時機となったからであった。


 新たな結界は、攻撃を防御すること、そして各国から送られて来るであろう諜報員や暗殺者を把握するためのものになる。



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