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episode 0 始まりの白



真っ白な空間から私は生まれた。…生まれたことにしたんだ。




ーー○○○sideーー



……ーーーーー静寂。


風の音もなく、自分の呼吸の音すら感じられない真っ白な空間。


見渡しても何かがあることも無く、ただ真っ白なここは歩く先に道があるのかすらもわからない。


今私がたっているのか、座っているのかも分からない。


わかるのは〘私〙という存在がここにある、ということだけだ。


ここにいると分かる。自分が何者か、名前も性別も…人なのかも分からない。

いや、呼吸音すらしないのだから人ではないのかもしれない。

人という存在の知識がある、なにか、なのだろうか。


分からない。分からない。なにも、分からない。





「ふむ、分からないといいつつ、随分とものを考えるものだ。この空間でそこまで意志を確立できるものも珍しいものだ。」


〘声〙がする。これが、声だ。〘人〙が話す言葉。

真っ白な空間から声だけ聴こえる。


「あぁそうだな、今人間の中でも日本という国に住むものが話す言葉だな。」


日本。…あぁ、知っている。島国だ。自然の美しい、誇るべき母国。

私の生きた、故郷。


「…うむ、これだけでそこまで思い出すか。やはり、馴染むのが早いらしいな。」


…だれ、だ?あなたは誰?


「私か、まぁ、私は何物でもない。ただこの空間をたゆたうものなのだが…そうさな、そなた達で言うところの、神とでも名乗ろうか。」


神、神様。…神様?


「そうだ、神だ。さて、久方ぶりの会話だ。ゆっくり語りたいところだがあまり時間もない。本題を語ろうか。わかる範囲でいい、聞いておくれ。」


聞く…?お話…わかった、お話を聞こう。

どこにいるかも分からない神に〘頷いて〙見せた。


「ありがとう。君は、元々日本に住む一人の人間だった。ただ君は不運な事故で死んでしまった。しかしな、おかしいのだ。そなたはここで死ぬ人間ではなかった。死ぬはず無かった君の乗る船はない。黄泉路へ旅立てなかった君は現世をさまようのではなく、この世界の狭間へ迷い込んでいるのだ。」


…よく、わからない。


「ふふ、今はわからずともいいよ。起きた時にゆっくりこの言葉を思い出し、考えておくれ。…永き時間がある。」


…起きる、の?今、起きてるのに?


「起きるさ、いまそなたは魂だけなのだから死んだ時全ての記憶は消えてしまった。残るはずだった思い出は、ここで彷徨ううちに薄れた。普通は、そうまで忘れると魂の形も忘れるのだ。忘れ、溶け、消えていく。しかし、そなたは違う。今も、この狭間でこうして存在し続けている。…忘れたことも多そうだがな。」


…消えてない、ことが、凄いことなの?


「そうさ、凄いことだよ。君は、ここに本当に長い、永い間いるんだよ。…そんな君に、お願いがあるんだ。」


お願い?


「そう。ある世界へ渡って欲しいのだ。神と呼べる管理者がいなくなって久しいある世界へ。…その世界の終わりを、見届けるために。」


終わりを、見るため?


「…幾千、幾万、数え切れぬほどある世界。その全てが管理されている訳では無い。手慰みに作られそして放棄された世界も多い。そんな世界はこの狭間で繋がる限り私が見ることが出来るのだ。作ったものでは無いから手出しは出来ぬ。ただ、外から見るしか、出来ぬのだ。それでもその世界の終わりまで、見守り続けてきた。だが、この世界は終わるようで終わらぬ。この狭間の中で、多くを忘れ、無くすこの狭間で終わりながらも始まりを作っているのだ。興味深いだろう?」


終わりが始まりを、作るの?


「うむ、もういくつ過ぎたかわからぬが永きときを進め続けておる。…そなたにそっくりであろう?ここで、たゆたい続けるそなたに。」


…私に、そっくり?その世界が?


「あぁ。そなたもここで消えるだろうと放置された魂なのだ。イレギュラーによって死んだ、人間の魂が狭間に迷い込んだ、それなら消えるだろうと放置した。だが、未だ消えていない。だから、考えたのだ。そなたなら、この世界へ馴染めるのではないかと。」


世界に、馴染む…。私が、その世界へ行って生きると言うこと?


「近いな。ただ、少し違う。そなたにはいくつか力を与える。そのうちの一つ、不死だ。」


不死。しなない、死ねないの?


「あぁ。そなたにはこの世界の終わりを見てほしいのだ。世界が進むにつれこの狭間から遠ざかり他世界に近づくならもっと永きときをその星で生きることになるだろう。もし、この狭間に飲まれ、全てが消えるならそのときそなたの役目も終わる。その世界で正しく死んだできるゆえに、そのまま黄泉路へゆけるだろう。もし終わりにそなたが望むなら私と共にここをたゆたうものとなっても良いかもしれなんな。ここに適性があるものは珍しいのだから。」


うん、わかった、わかったよ。

わたしは、その世界の終わりを見るために、そこへ行くんだね。


「…あぁ、そうだ。そうだよ。さぁ、行く世界を見せてあげよう。」


風の音が聞こえる。〘頬〙に風を感じた。

さっきまで何も感じなかったのに。


風を感じた方を〘振り向く〙とそこにはルービックキューブのような、四角い箱があった。


「それが、君の行く世界。神の作った平凡な世界。人間の作る異世界というものに興味を持った神の作った世界だ。名を、フレイヤ。本当にどこにでもあるような、日本で多い異世界ものとやらに出てくるようなそんな世界だ。作って暫くは見ていたみたいだけどなにぶん飽きっぽい神でね。また新しいものを作るためにここに放棄してしまった。放棄されてもゆっくり進化を続けるこの世界を平凡とは呼べない気もするんだがね。」


その世界をじっくりと〘見る〙。

真っ黒な箱だ。ただの箱に見えるこれが、私の行く世界だという。


「さて、見ているだけでは分からないだろう。この世界の説明を、と言いたいが私と話したことでだいぶ()()()しまったからね。時間が無くなってきている。知識は全て向こうへ行った君がわかるようにしてあげよう。あ、そうだ向こうで言うスキルも多く含めたよ。なんと言ったかな…あ、チート、と言うやつだね。死なない時点でチートと言われればそれまでなような気もするが。その、スキルも向こうへ着いたら確認しなさい。君にとって大切なことだらからね。落ちた先の土地、は元々人の立ち寄らない山奥だ。あまり人と関わらないつもりならそこに住み着くのも手だろう。たまに旅に出るならそれもいいだろう。好きなようにしていいよ。君に願うのはその世界の終わりを見て欲しいだけだ。」


…すこしだけ、微笑む顔を見た気がした。真っ白な中に、ぼんやりと浮かんだような。


「あぁ。見え始めているんだね。本当に時間が無いようだ。…きみを、この世界に送る。拒否権は、ないってことにしておくれ。…少しでも君の生に意味がもてることを祈っているよ。」



その言葉の後に黒い箱がくるりと回転した。

その瞬間、真っ白だった空間が真っ黒になって…私は〘意識〙を失ったのだった。






これが始まりの物語。

世界と私の終わりへと向かう長い、永い旅路の始まりだった。






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