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5・妖しい美しさの秘密は、桃色ピンク。

 海の向こうから来たという人が、恐ろしい魔物について話していた。

「海を東に行くと、派手な塔がアル。そこには、美しいくもおそろしい魔物がいるらしいアル。何人もの旅人が倒しに向かったが、戻ってきた者は魂を抜かれたように、誰も何も言わないアルよ。ちょっと不気味アル」

 その話を盗み聞きしていたしゅりるりは、いつもの仲間に報告する。

「勇者、勇者! 勇者なら行くべきだよ」

「う、うん」

「やっぱり勇者は消極的だねぇ」


 例によっていつものように、こんな感じで冒険が始まったのだ。


 仲良くなったくぢらさんに乗り、海を渡って魔物がいるという塔へ向かった。

 塔はちょっとした迷路になっていたが複雑というものではなく、冒険になれた者ならば難なく進めるものだった。

 何度目かの角を曲がろうとした時、廊下の先の道から聞き覚えのある声が聞こえた。それは悪魔飴の声だ。悪魔飴は「迷ったー」と言っているようだ。

 細身・長身・冷血系のクールな顔つき、美形3拍子のような外見とは裏腹に、大変賑やかなのですぐその存在が分かる。悪魔飴に気がつかれると精神的に疲労してくるので、遠回りになるが別の道を行くことにした。


 そのようなちょっとした回り道はあったものの、罠も仕掛けもない塔で、割とすんなり魔物の場所へたどり着いた。

 搭の最上階、壁紙、天井、床がピンク色で統一された少し可愛いような不気味なような部屋に、1匹の魔物がいた。化粧台の鏡に夢中で、こちらに気づいていないようだ。


「お前が美しい魔物か?」しゅりるりは、言う。

「ん? だれ? 美しいだなんて、本当のこと言わないでぇん」

 くねくねと腰をくねらせて、奇妙な音程の声を発しながら振り向いた。声はとにかく、桃色の艶やかで滑らかな肌、さらりとした銀色の髪の毛、煌めく青い瞳、外見は非常にきらびやかで美しかった。

「確かに美しいけど」

「……おかま?」

「オカマなんて失礼ね。私はレリナ。こう見えても魔王様に仕える四天王の一人なんだから。今後ともよろしくね」

 マスカラで非常に長くなったまぶたから、大きなハートやら星が飛んできそうなウィンクが飛んできた。なんだか、ちょっと扱いづらい魔物だ。


「やっとついた!」

 と、背後から、息を切らせた声が聞こえた。

「って、またオマエラかぁ!」

 こんなタイミングで、ややこしいのが来た。

「あら、悪魔飴ちゃんじゃないの? 相変わらず方向音痴のようね、同じ道を何回も通っていたわよ」

 魔物の覗いていた鏡は魔法の鏡。塔の様子が丸わかりなのだ。


 悪魔飴は頭を抱えた。

「好きで迷っているんじゃナイもん!! それにチャン付けするなぁ! あぁ、あれも、これも忌まわしいオマエラのせいだ」

 悪魔飴は勇者たちを指差した。なんだか言われもないとばっちりを受けた。

 それにしても、一つ一つの動きが大袈裟である。こんな行動ばかりしているのに体力を消費しているように見えないのは、馴れという物なのか違うのか。

「キミたちのソンザイは、キケンすぎるー。いまのうちに消しちゃうぞー」

 悪魔飴は懐から黄色の布を取り出した。その布を慣れた手つきで左手に被せた。悪魔飴の顔にあの笑みはない。悪魔飴がどんな行動に出るのか、誰にも予測できなかい。3人は身構えた。真剣なまなざし、悪魔飴は本気だ。

 しかし、それにしても悪魔飴のその格好(スタイル)は奇術師そのものである。鳩が出てこようものなら、拍手してしまうかもしれなかった。


「『モンスター』があらわれた!」


 黄色の布を右手で摘み上げるとそこに、何か居た。取り出したのは、なんと二匹の白い小さな鼠であった。茶色の斑がある。二匹の鼠は鼻を小刻みに震わせ、辺りを覗っている。

「ハムスに、スター。なんでー、君たちをこんなトコロに仕込んだおぼえは、ナイぞー」

 二匹の鼠を左手に慌てている。本当は違うものを出すつもりだったらしい。


「コッチかー」

 悪魔飴はふいに右手をあげた。すると白い鳩が出てきた。

「平和の象徴、白い鳩と言うことで……こんかいも、トーソー!! チャララーン!」

 悪魔飴は残像を残し消えさった。相変わらずわけのわからない奴である。


「それにしても、ハムスと、スター……って、一体」

 ありすは、ついつい口に出していってしまう。

 今回分かったことは、悪魔飴は奇術が趣味で、鼠を二匹と鳩を1匹飼っている事だ。悪魔飴に関する資料(データ)はどうでもいい事ばかり増えていく。

「あらあら相変わらずおかしい子ね、オマイちゃんは……何しに来たのかしら」

 確かに何か用があってここに来たはずなのに、手品を披露しただけで去ってしまったのだ。

「まぁ、いいわ。あとでまた来るでしょう。また迷いながら来るのかしらん?」


 変な嵐が過ぎ去ったので、仕切りなおすことにした。


「勇者、勇者、仕切りなおしの台詞、台詞」

「と、ところでこんなところで何をしているのさ?」

 しゅりるりに促され、アトリスは思いついた台詞を言う。

「うふふ。私の美貌で世界中の男を僕にするべく頑張っているのです」

 レリナの奇妙な動きは激しさを増す。

「そして、よくみれば好みの人間がいますわ。ぽっ」

 レリナは勇者をじっと見ている。

「へ?」

「あなたは、もう私のものですわ」

 レリナは抱きつこうとする。

「あわわわ」

 アトリスは今まで見たこともないくらい俊敏な動きで、魔物を避けた。勇者の瞳が助けを求めていた。


「待った! そんなことさせるかぁ!」

 しゅりるりは嬉しそうに間に入る。

「うふふ、美しくてキュートな私の邪魔はさせません」

「勇者は渡さないぞ! 勇者は大事な仲間(おもちゃ)だ」


「……いま、何気にひどいこと言わなかった? ねぇ、しゅり? ねぇ?」

 アトリスはほんのり涙目だ。


「勇者は人気者ねぇ。焼いちゃうわ」

 ありすは感情の全くこもっていない言葉で言う。いつもどおり冷静だ。



「どちらが勇者を手に入れるか勝負しましょう。うふふ、もちろんそちらは3人できても良いわよ。人間はひとりでは弱いのを知っていますから」


 闘いは死闘を極めた。

 ある意味で。


 アトリスに剣を向けられた時には、「いや~ん、大胆」「もう、好きにして」と、それはもう恥らう乙女のように。そのたびにアトリスの動きが止まり攻撃できなかった。この戦いの攻撃面において勇者は全く役にたたなかった。

 しかし魔物の方も、「あぁ~ん、愛しのお方にこうげきなんてできなぁい」とアトリスに攻撃でいないでいたので、たまにアトリスを盾にした。この戦いの防御面において、勇者は非常に役に立った。


 そして後半になってくると何も考えないように無心で戦い続け、ついにレリナを倒した。


「あらぁん、負けてしまいましたわ。世の中には強い殿方がいるのねぇ」

 よろよろと起き上がるレリナ。もう戦う気はないらしい。

「アトリス様、私、ずっと待っていますわァ。ほほほほ。それでは、みなさん。また会いましょう」

 レリナはウィンクをしつつ、どこかへ行ってしまった。


「行っちゃった。おもしろい奴だったねぇ」

 しゅりるりは、アトリスに語りかける。

「変なのに好かれたぁ」

 アトリスには誰の言葉も耳に入っていないようだ。



 ★おまけ★

 塔に行ったときの話は触れてはいけない話題になり、美しいくも恐ろしい魔物がいる塔は、今なお不気味なまでに謎のままであった。


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