外伝1・どんなに上手に隠れても。
ここは魔王城。
今日も平和な魔王城。
名もなき魔物は探し回る。
魔王の命により、ある者を探している。
また会議を「鯨に乗りたい」と言ってすっぽかし、そのことについて叱られるのが嫌で隠れている悪魔飴を探している。
「よりによって」
魔物は深く深く息をはいた。
魔王様の命とはいえ、何であんなやつを探さなくてはいけないのか。名も無き下っ端の魔物は、またため息をついた。
「魔王様もなんで……あんな奴より、俺のほうが絶対役に立つのに」
不機嫌にしっぽを揺らし、もう何度目になるかわからないため息をついた。
魔物は、悪魔飴が隠れていそうな場所で誘う言葉を言う。
「ほぉら、氷菓子だよ~。しかも期間限定品のさっぱりムネ肉だよ。早く出てこないと溶けちゃうぞ」
ゲテモノなお菓子の類には目がない悪魔飴のこと、何らかの反応があるに違いない。
すこし沈黙が続いた後。
「コンドこそ、ひっかからないぞ!! わぁい♪と、でてきたところをつかまえる、そういう寸胆だな! ふふふ~」
「す、すんたん……?」
魔物は思う。魂胆か寸法の間違いだな。
「ハヤク、むこうへ行け~」
小声とはいえ悪魔飴の声の波長は、いついかなるときでもよく響く。そして、悪魔飴は声が出ていることにまったく気づいていない。
(どんなに上手に隠れても~樽の中から聞こえるよ~)
魔物は樽を覗き込む。
「ほぉら、見つけた」
「!!」悪魔飴は「あ」に濁点をつけた。
「うにゃぁぁぁ、ユルシテ~」
頭を抱えて、丸くなる悪魔飴を可愛いと思っては駄目だ。ここはしっかりしなくては!
名も無き魔物は、気を引き締めた。
「どうして、こう、いつもいつも落ち着きがないんだ?」
魔物は叱り付ける。
「しょうがないよ。ちゅーいりょく、漫散なんだから!!」
「まんさん……?」
魔物は思う。それをいうなら、散漫だろう。それに注意力ではなく、集中力だ! こいつは何を言っても駄目だ。
魔物は首を振った。
今日も魔王城は平和です。