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3・名古屋弁もどきの魔物は、弓使いだぎゃ。

 その村に立ち寄る者たちは、おおむね二つに分けられる。大半の者は隣の大陸に渡るための施設「転送装置」の利用をするために訪れる。

 そして、少数ながら一定の数、目的を同じくした者たちが訪れる。それは村の東にある湖に浮かんでいる火山へ行く者たちだ。その火口付近には「世界征服をする」と大々的に宣伝している魔王の城がある。強力な魔物たちもその魔王の元に集まり、四天王として各地で働き始めていた。

 そのため人々は恐怖におののき、世界を救う勇者が現れるのを待っていた。腕に自信がある者たちは、勇者の名声を求めてこの村に集う。そして、おのおのの方法で魔王城へ向かい、二度と村には帰らなかった。


「ぼ、ぼくたちも、そ、そのうち、あそこへいくんだよね?」

 誰も村へ戻ってこないと言う部分にすっかりおびえているアトリス。

「何怯えているのさ? ただ単に魔王に負けちゃって、この村に帰る顔ないだけ。この村に寄らずに逃げるように故郷に戻っていくだけの事だよ」

 しゅりるりはあくまで楽観的だ。


「向こうへはどうやって渡るの? やっぱり船で?」

 湖は魔物が住み着き、まともに船さえ出せなかった。船で湖に出ようものなら、魔物たちに囲まれ大変なことになってしまうのだ。

「それなら大丈夫。任せて」

 しゅりるりの友人には飛べる者がいるので、火山まで行く手段の心配は要らないのである。

「場所が分かっているし、交通手段もばっちりなのだから、本当はさっさと行きたいんだけれどね」

 さっさとその魔王を倒せば良いのかもしれないが、物事には順番と言う物がある。まずその魔王に勝てるように、強くなること。これ重要。最も重要。

「もっと経験つまなくちゃ、ね」

 しゅりるりはアトリスの額をつついた。


 まだそうとう先のことになりそうだが、いつの日かその時はやってくる。

「その時は逃げられないってことね」

 たちが悪い、ことに。ありすはしゅりるりの性格を知っていたので、あきらめていた。

「魔王よりも酷いかもしれない」

 アトリスはもう運命からは逃げられないと知った。


「まぁ、あと、ついでに四天王も懲らしめておくことも、忘れないようにしないとね」

 筆記用具を指の上でまわしながら、しゅりるりは何やら今後の予定のようなものを書いている。メモ帳やら筆記用具やら、色々な道具が出てくるその小さめな鞄は、魔法の鞄。思ったよりも物が入るらしい。



「さて、村に来たら、まずは情報収集だね」

 村の中にある公園は村人達の憩いの場となっている。日向ぼっこをしている老夫婦や、婦人、子供、猫に、様々な生き物達が集まっている。

「適当に、かいさ~ん」

 その掛け声と共に、各自、情報収集に向かう。


 アトリスは、真っ先にプリプルした生き物に近寄った。アトリスはこの生き物が大好きなのだ。

(彼の荷物カバンは、この生物を模した形をしている)

 勇者はいつまでも戯れていて、情報収集などする気配はなかった。


 一方ありすは、この公園の池の前で子供と話している。というよりも、子供の会話につきあわされていた。この子供、カメに973回も話し掛けたと言う伝説を持っているが、カメについての話が長いことでも有名である。ありすはこの少年につかまってしまったのだ。

 少年の話は、抜粋するとこんな感じである。

「君は公園にいるかめさんに見た? ボクなんかカメさんに973回は会いに行っているよ。またカメさんのところに行こうかなぁ。でもね家にいるカメさんのほうがかわいいんだよ。実は家のベッドの下にはかわいいカメさんがいるんだよ。おかぁさんにはないしょだけどね」 

 ありすは仕方が無いので、聞いているふりをしつつやりすごした。なんだかいつも疲れる役回りである。


 そんな賑やかな公園の片隅で、奥様方が会議を開いているのをしゅりるりは見逃さなかった。

「きいたぁ? 転送装置の施設が四天王を名乗る魔物に襲われて使えないらしいわよ。他の島に行けないって、うちの主人が言ってたわ。困ったものねぇ」


 それを聞いたしゅりるりは勇者のところへ行き、揺さぶった。

「勇者、勇者、聞いた? 聞いた? 四天王だって! その魔物を倒して 役に立とう~」

「お、おう!」

「こんなメンバーで、本当に大丈夫なのかしら」



 そういった事情で、彼らはその四天王とやらがいる場所へやってきた。

「魔王四天王と名乗る魔物が! わたわたた~」

 入り口でわたわたしている職員の情報によると、どうやら転送に必要な動力源のスイッチの前に魔物がいるようだ。そのせいで今は転送の機能が停止しているらしい。


「大丈夫まかせて。だからもう、わたわたしなくてもいいんだよ」

 しゅりるりは、わたわたしている職員に言って聞かせる。

「は、はい! がんばってください!」

 先ほどまで、わたわたしていた職員は落ち着きを取り戻したようだ。

「じゃあ、行ってくるね」

 3人は、わたわたしていた職員と別れた。


「でも、僕らで大丈夫なのかな? 魔王四天王って言っていたよ」

「大丈夫だよ、きっとたいしたこと無いから」

 しゅりるりのその自信はどこから来るのか分からない。

「うぅ、いやだなぁ」


 そんなわけで魔物が出ると言う場所まで来た。動力源スイッチの前には、二つの影があった。彼らが人間ではないことは一目で分かる。一人は赤髪で二足歩行のトカゲ型の魔物で巨大な弓を持っている。もう一人は完全に人に見えるのだが、着ている鴉色の服が完全に魔物の好みそうな形なのだ。

「サスガだねー、テンソーのソーチをつかえなくするなんてー」

 鴉色の外套を身に付けた人型の魔物は、そう言った。

「これくらい出来なくては駄目だぎゃ。きっと今回の仕事が終われば、ご褒美たくさんだにゃ。悪魔飴(オマイ)は、魔王様のところへ早く戻らなくていいのか?」

 どこかの方言のような違うような言葉でトカゲの魔物が言う。

邪狗(ジャグ)は怖くないも~ん」

 赤いツリ目を持ち、細身長身な美男子系の外見に似合わず駄々っ子らしい。「も~ん、も~ん」と連発している。

「魔王様を、しかも名前の呼び捨てとは、相変わらず怖い者知らずだみゃ。魔王様に言いつけてやるだぎゃ」

 悪魔飴の動きが止まった。

「だ、大丈夫だも~ん。ま、まま、魔王様は、ややや、やさしいも~……ん」

 明らかに声の調子がおかしくなった。


 どうやら彼らが仕える魔王の名前は、邪狗というらしい。


「しっかり魔王様に報告たのんだぎゃ」

 魔物はしっかり念を押す。これでもかと言うほどに。

「オッケー」

 悪魔飴と呼ばれた魔物は、すかさず外套の下から桶を出した。

「これは、オケー……ぷっ……」

 神殿の空気と明らかに不調和な空気が、流れ込んだ。


 悪魔飴は、桶を床に落とした。


 木特有の軽い音が、からからとゆっくりと転がっていく。



 ――空白の時。

 空間は沈黙に支配された。


 この静寂に絶えられず勇者アトリスは思わず、笑い声を出してしまう。

 あわてて口をふさいだが、遅かった。

「あれれー? ダレかいるぞー?」

 違和感なく自然に優雅に桶を拾いつつ、悪魔飴は言う。

「ふふふ~スガタを見られたからには、イキテかえすわけにはいかないよ」

 と言いつつ、近くの窓に足をかける。逃げる準備をしているようにしか見えない。

「ここにいるラプタルは、つよいよ~。にげられないよー。そーゆーわけで、ラプタルまかせたぁ。あ、と、は、よろしくー」

 あくまで悪魔飴は戦わないらしい。

「でーは、このへんでー。チャララァーン! と、とーそー」

 ちゃらーと言う言葉と同時に悪魔飴が手をかざす。


 一瞬の閃光。


 突然巻き上がる風。


 悪魔飴の黒い外套が翻る。


 瞬きをした瞬間、そこにはすでに悪魔飴の姿はなかった。


 不覚にも「格好良い!」と、人間一同は思ってしまった。が、この考えはすぐに砕かれた。


 あの、耳につく声が聞こえてきたのだ。

「おーちーてーしまった! うわー! みーずうーみーだあー。タースーケー……」


 そして、何かが水に落ちる音がした。


 ――再び沈黙が訪れた。


 そういえば、この転送装置のある場所は、湖の近く崖の上だ。

 飛び降りれば、崖の下に落ちていく。

 あの高さの崖から落ちたら、いくら下が湖とはいえ、無傷ではないだろう。

 崖の高さを想像し、敵のはずなのに妙に心配してしまっている勇者御一行。



「何やってんだぎゃ、あいつは……ま、大丈夫みゃろう。悪魔飴だし」

 ラプタルと呼ばれる魔物はさほど心配していないようだ。

「とにかく邪魔者は排除だぎゃ」

 この言葉に現実に引き戻される。

 今、他人のことなど気にしてはいられないのだ。

 この魔物と戦かわなければならないのだ。

「まだ子供みゃか」

 3人の容姿を見て魔物は言う。

「だが容赦はしないぎゃ。四天王の一人ラプタル様が、暇つぶしに相手してやるみゃ」


 四天王と言うからには、ここら辺に生息する雑魚の魔物とは明らかに異なっている。手に持つ大きな弓からの攻撃が命中すれば、無事では済まされないであろう。

 まだ戦闘の経験もあまりないまま、四天王と戦かわなければならなくなったアトリスとありすは、息をのんだ。アトリスは家に伝わる剣を、ありすはよくある樫の杖を、しゅりるりは真っ赤なボディが鮮やかなピコピコハンマーを構えた。


「あれ? 何かおかしくない?」

 勇者はしゅりるりに言う。

「きにしなーい♪ きにしなーい♪ これで叩かれたものは、精神的にダメージを受けるのだ!」

 しゅりるりはぴこっとハンマーを鳴らした。

「のだ! じゃないわよ。相手は四天王、真面目に……」

 ありすの注意をそっちのけに、しゅりるりは張り切っていた。


「ていうかさ、思うことがあるんだけれどさ? そんな、しょぼいことするのはさ、四天王の仕事と言うより~、むしろ~、雑魚敵なしたっぱな仕事~、したっぱ~っぱ~♪ だと思わない?」

 しゅりるりは、緊迫した空気を読まない発言をぼそっとした。


「うぎぃ、うぎぃ、何か言ったかぎゃ?」

 ラプタルは聞き逃さない。いや、むしろそれはぎりぎり魔物にも、聞こえるような声の大きさだった。

「ふふふふ。創造神の次の次くらいにえらい、しゅりるりさまに勝てたら、四天王と見とめてあげよう!」

 しゅりるりは、待ってましたとばかりにさらに挑発する。

「うぎぃ、雑魚扱いしたにゃ、ゆるさんだぎゃ。四天王の力見せたやるぎゃ」

「ふっふっふ、かかってくるがいい♪」

 しゅりるりは、わっはっはと笑う。


「これじゃあ、どっちが悪者だかわからないわ……それに神の次の次くらいにえらいって、何? 微妙な偉さだねぇ」

 この流れに、すっかり取り残されたありすが言う。

「と、とにかく、た、戦おう?」

 これらのやり取りと聞いているうちに、勇者と魔術師の緊張はどこへやら消えてしまった。こうなっては雑魚の敵にしか見えてこない。この四天王の口調も変だし。


 こうして戦いの火蓋は切って落とされた。


 ラプタルはその大きな弓で、ありえない速さで矢を連射して攻撃してくる。さすが四天王と名乗ることだけの事はある。

 勇者アトリスのつたない剣さばき(弓から逃げているためにほとんど当たらない)、魔術師ありすの石を落とす魔法と小さい火を出す魔法(火の魔法で弓を燃やすので精一杯。石の魔法は多少有効だった)、そして、しゅりるりの「ぴこっ」とする猛攻撃(しゅりるりの動きは予測不可能で弓の狙いが定められない)による戦闘が繰り広げられていた。

 なんだか約1名のせいで、見ていてこっけいな風景である。


 ――数分後。


 相手の弓矢が切れてしまった。弓矢だけの攻撃では色々無理があったのだろう。それに勇者側には、3人もいる。弓のストックはあっという間になくなってしまう。


「うにゃぁ、おみゃ~ら、強いぎゃ。しかし、これで喜ぶのは早いぎゃ。いつか必ず、おみゃ~らを超えて倒してやるぎゃ~」

 肉体的よりも精神的にぼろぼろのラプタルは、よくある捨て台詞を言う。

「うん、またね~! いつでも遊びにきても良いよ♪」

 しゅりるりは、自分のうちの地図を渡そうとする。

「そ、それは、やめておこう!」

 魔術師ありすは、必死に止める。

「うぅ、(だめだ、こいつを相手にすると精神的ダメージが増えていく……) 」

 ラプタルはその場を去っていった。

「ばいば~い」

 しゅりるりは友人を見送るように手を振った。

「もうあの魔物は、しゅりるりには関わろうとしないわね」

 魔物の肩を落とし疲れ果てている後姿を見て、ありすはつぶやいた。





★今日のワンポイント★

 動力源のスイッチをON/OFFをしすぎると職員に怒られます!!

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