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11-2・森羅に全てを有し、万象の数多を消す封印の魔法。

 玉座の後ろの赤い幕、その奥に隠された部屋に黒幕がいる。

「赤い幕なのに黒幕とは」

 しゅりるりは、くすくすと笑う。

「はいはい、さっさと行くわよ」

 ありすは、適当にしゅりるりを受け流す。慣れたものである。


 赤い幕を開く。奥の部屋にいたのは、見慣れた黒いシルエット。なんとそれは悪魔飴であった。

「セッカク強そうなヤツ魔物たちをスカウトしたのに、役立たずばかりダナー。その中でもジャグにはうるとらすーぱなすぺしゃるびーむで、闇の力を与えて一番強いはずナノに……」

 黒幕には見えない威厳のなさ、口調。しかし悪魔飴が裏で支配する者だったのだ。

「ヤッパ、インスタントな魔王では、本物の勇者には勝てないのカー」

 悪魔飴はため息をついた。

「そうインスタントな魔王じゃ、勇者に勝てないよ♪」


「こっちも、インスタントな勇者なんだけれどね」

 ありすも、ため息をつく。

「あの、一応、ボク、勇者の血は引いているんですけど」

 しかし、アトリスの言葉は誰にも届いていない。

「うぅ、どうでもいいけどさ」


「こーなったら~、魔王を超える大魔王の力、見せてアゲルよー」

 悪魔飴が軽く一回跳躍をすると、悪魔飴の体が黒い霧に包まれる。

 魔力の集約する所。闇の底。


  (それは、)  (はじまりの合図)


 黒い霧をまとった悪魔飴は赤い絨毯の上に音もなく舞い降りる。その動きは普段と異なり滑らかであった。悪魔飴の着地すると、風が巻き起こり絨毯が燃え上がる。悪魔飴の身体は今、高濃度の魔力を帯びているのだ。悪魔飴の発する魔力は床に魔方陣を描き出す。


  (それは、闇。) (それは、影)

  (それは、) (深淵の底にある。) (光の影、光の形)


 銀の炎の魔法陣が煌いた。悪魔飴の体が闇に溶けていく。重々しい鼓動が響く。静寂の空間を破らぬように、赤い瞳が現れた。

 姿が実態になっていく。

 闇色の蜥蜴(トカゲ)になる。一点の斑もない濡鴉色の鱗は、闇に良く馴染む。煌く雷光を微かに反射させ、その存在を明らかにする。


「道化の姿に変装し、演じるのも疲れるものよ」

 今までのあの動作・口調は偽りだったということなのか。変身前の行動がすごくあれだったので、この姿、口調の変貌はなかなかギャップがある。

 これが世界征服をたくらみ、世間を騒がせている者(ある意味そうとう騒がしかったが)の真の姿。


  (それは、)  (闇の底にいる存在)

  (それは、恐怖。) (それは、畏怖)


「恐怖に色どられた畏怖、これは、これは、噂の闇蜥蜴だぁ」

 しゅりるりは、なぜか知っている。

「上級の魔王になると、何かに変身できるんだよね」

 しゅりるりは言う。魔王が変身する最終形態というやつだ。


「ほほぅ、我のことを知っておるとは、なかなか博識よの」

 悪魔飴は感心している。

「ふっふっふ、常識は良く知らないけれど、雑学ならまかせて♪」

 魔王の正体、雑学扱い。

「いいのかしら。それで」


「クックックククククク……。ふざけていられるのも今のうち、この身体であれば、人の子など、虫ケラも同然。お主等を闇の底へ葬ってやろう」

 神鳴りが都合良く悪魔飴の言動に合わせ、光と共に音を轟かせる。邪悪なる者を貫くという神鳴りも、こういう時だけは悪役の味方なのである。


「我は破壊の神なり」

 光でさえも飲み込むような黒い微笑を浮かべながら悪魔飴は、一歩踏み出した。


  (それは破壊。) (それは破滅。) (闇の存在の) (在り方の言葉)


「この光で満ちた世界を闇の波動で満たし我の支配下にゅグホッ……ケホッ」

 悪魔飴は息が喉につまり、身体を震わせている。

「ち、ちょっとむせた……」

 どうやら長い台詞のせいで呼吸をするところを見失ったらしい。

「そ、そんなメで、みるなよー。よし! もう一度だ。クックッククククククク、愚かなる虫ケラどもよ。わ、我が……毒牙で、はらわたを食いちぎり……耳を……いや、耳から……ミミを……くすぐるぞー!! コチョコチョとな~」

 悪魔飴は威嚇するために両腕をあげた。途中までは格好良いと思ったが姿が変わったとはいえ、いつもの悪魔飴がそこにはいた。


「……うぐーやっぱり、なれないセリフはイヤだー。もうキミらのせいで、ナニもカモが……丸、三角、四角、星、渦巻、温泉、音符、疑問符、感嘆符~」

 もはや言葉が意味不明を表す記号と化している。さすが悪魔飴である。


 しゅりるりは、おかしさのあまり笑い出す。


「うくくく、あはははは、さすが、悪魔飴。いや、Μεση φωνηのομαι! さすが、中動相の名を持つだけある。その名の通り、自分自身が何かするのは苦手なんだね♪」

 しゅりるりは聞きなれない言語をいう。

「確かこれは君の正体なはずなんだけれどな。違っていたかなぁ……」

「むむむ。なぜ、それを……」

 たしかに悪魔飴は他人に力を与え(くっつき)、他人を利用して楽しむタイプの魔王である。自らは道化を演じ裏で操る、それが格好いいと思っていた。


「君の正体を知っているんだから、名の由来(ほんみょう)くらい少し知っていてもおかしくないでしょ♪」

 魔王や魔物の名は大抵意味があり、それはその者の性質も現している。


『動詞がομαιの語尾を持つと中動相ってのになって、受動っぽくなるらしい』

 しゅりるりは、そんな程度しか知識として持ち合わせていないが、雑学だからその程度でもいいだろう。それに今は『中動相』なんて、まったく関係ない場なのだし。


「とっくに気がついているものだと思っていたけれど。自分もまだまだ有名じゃないのかぁ。まぁ、むしろ有名になっちゃいけない存在だからね。そういう意味では表立って活動してきた割に、この程度の知名度なのは成功というべきかな」

 しゅりるりは、自分の行動を自分自身で褒め称えている。

「自分はほとんどの魔王の顔と名前くらい全部知っているのにね。新旧、現役、引退ともに。まぁ、暇つぶしの一環で、色々調べているからなんだけれどね」

 だとしても、しゅりるりの雑学の知識量は、とんでもないものらしい。

 しゅりるりは、アトリスをみる。

「ちなみに魔王だけじゃなく、勇者も大体把握してるよ♪ この本で♪」

 荷物入れから『ザ・勇者の系譜(492巻)』という本を取り出す。そんな本まであるらしい。本当に何冊の本があの小さな袋の中に入っているのだろうか。

「でも人間は寿命が短いから、結構な頻度で最新版を出さないといけないんだよね」

「よく分からないけれど……だからボクが勇者の子孫だって知ってたんだね」

 あまりいい気分ではない。


「……まさか。あなた様は」

 悪魔飴は一連の行動を見、しゅりるりの正体に気がついたようだ。急に態度が改まる。

「さすが上級魔王ともなると、違うね。知識……常識として『知っている』のだから」

 それは知識。それは英知。世界の根源になるもの。

「えらい!」

 にこりと微笑む。


「そもそも、なぜ、あなた様ともあろうお方が、邪魔を」

「暇だった~♪ ていうか今さらあなた様って、いつも通り普通でいいよ。そんな偉いつもりはないんだから」

「噂どおり、気まぐれな……つまり運がなかったということか」

 これこそ本当に運命の悪戯というヤツだ。

「あはは、そういうこと」


「二人で盛り上がっているところ悪いんだけれど、あなたって一体? 何かの魔王? それとも何かの神?」

 ありすは、今までたまっていた疑問をぶつける。

「どっちも、はずれ。どちらの勢力にも属さない。全てに属してないんだよ」

 しゅりるりは腕を組む。

「ん~正確には、創造神の次の次の次……くらいの存在……いや、そもそも何にも属してないから、階級とか序列いう概念が存在しないけれどね」

 それは、それでもあり続ける存在。

「すごく微妙すぎて、わからない……わ」

 しゅりるりが人間ではないことに、うすうす気がついていたとはいえ、住んでいる次元が違うことだけは確かだ。


「分かりやすく言うと……なんだろうなぁ。この世界には、数多の神がいて、数多の魔王がいる、そして、それを裏で操る大魔王やら大臣やら真のラスボスがいる。善とか悪とか、光と闇とか、帝国と共和国とか、それらの戦い、それらの正義」


   (それは、)    (表の物語。)   (それは、)    (中心の物語。)          (世界を作る成り立ち。)    (大切な形)


「それとは全く関係ないところに、現れるやたら強いモノ。噂や伝説でささやかれる程度で、知る人はおろか、その存在すら実在するか分からない者たちがいる。そう、ウラボスって言われたこともあるね。場合によっては、神と同格の存在。自らのその強大な力によってその気になれば『神』の真似事もできる領域の者?」

 悪魔飴に引続き、しゅりるりの正体までも発覚してしまう、最終決戦付近で起こる急激な物事の暴露は良くある事である。

「まぁ、最後だし。ネタばらしって言うことで、ちょっとだけサービスね♪」

『全てを語っていないよ』とような、すっきりしない雲をつかむような言葉。

「もしかして神も……やっぱりこんなのりなのかしら」

 ありすは、ちょっとした不安を覚えていたのでした。


「しかし、そうと分かったところで野望はとめられぬぞ」

 悪魔飴は勝つ気でいる。しゅりるり一人ならともかく、今は足手まといの人間が二人いるのだ。

「仲間を見捨てないのは、知っているからな」

 しゅりるりが、一度仲間にした者を見捨てないのは知っているからだ。

「何にも属さず、何にも囚われない。しかし、だからこそ絆というしがらみに、何かに縛られてみたくなるのだろう? 辺境に誰にも知られず、ずっと暮らさなくてはいけない孤独な者よ」


 誰よりも孤独な存在。世界でもっとも孤独な存在。


……それは、(ama dason) 長い長い (naki ziaga)時間の( niaga)定め……( nahe ros)


「孤独? そんなことはないんだけどね。現に今もあの場所から抜け出しているし。まぁ仲間を見捨てないのは、本当だけれどね♪ ”それは、(neie a )一瞬(hero )”の出会いようで、”それは、(snuys si a)永遠 (heros)”に終わらない。楽しい暇つぶしさ」


(まぁ、間違ってはいないな。孤独な存在はどこに行っても、孤独として在り続ける)と、しゅりるりは思う。



 両者はにらみ合う。

「覚悟はいいか?」

「……覚悟はできた?」

 悪魔飴としゅりるりは、同時に言い放つ。


「”森羅に(ura omi)全てを(nana hi)有し、(nokos)万象の(i an)数多を(ete busa )消す(hi nokos)封印の(u ohamo)魔法”を(n niu uh)その身に受ける、覚悟はできた?」


 しゅりるりは、すでに長い長い呪文を唱え終えようとしていた。


「な、に?」

 しかし、悪魔飴は気が付く。気が付いてしまった。……自分の負けを。

 今までそれにまったく気が付けなかったのだ。


 今までしゅりるりは、隠すように呪文を詠唱していた。

 時に自然に、そして時に不自然に。

 魔法の詠唱を。

 徐々に背後に隠さずに詠唱する。そのほうが魔力の消費も少なくてすむからだ。


「いつの間に、『その呪文』をとなえたんだ!」

 詠唱に非常に時間のかかる封印の魔法。しかし、すでに最終段階に入っていた。しゅりるりの背後に淡く潜む魔法の扉が開き始めている。

「実は君が正体(ほんしょう)を現す頃から、暇をみて少しづつ唱えていたんだよ。『   (それは、)        (はじまりの合図)』ってね。……まさか、こんなにうまくいくとは思って無かった」


 いくら、しゅりるりが超越した存在でも、最強クラスの攻撃から、普通の人間であるアトリスやありすを守るのは、なかなか容易ではなかったし、それを実行できなくはないが、それをするためには色々な面倒なことがたくさんあったのだ。

 悪魔飴の変身の儀式と、最終戦には欠かすことのできない演説が長そうだったので、万が一のことを考え呪文を唱え初めていたのだ。いつものように、ちょっかいを出して邪魔することをしないで、封印の魔法を唱えていた。

 仮に戦闘が始まるまで詠唱が間に合わなくとも、詠唱中断の魔法も組み込んであるので、途中に他の行動を起こしても詠唱の効果が無駄になって消えることもなく、一気に最初から最後まで唱える負担がない。

 戦闘の合間の隙を見て、続きから唱えれば良かった。

 ちからまかせの荒技中の荒業。

 詠唱中断魔法の維持に、中断したあとに行う魔力の流れの切り替えに、大量に無駄に魔力消費してしまうことと、長い時間中断はできないということだけは気をつけなくてはいけない。

 それでも魔法史上5本の指に入る長さの呪文は、この荒技を使えば戦闘の早い段階で詠唱の大部分は完成し、危機的状況になる前には発動できるようになる。

 つまり最初から悪魔飴には勝ち目はなかったのである。

「……ぐ、何から何まで」

 手のひらの上というのは、こういうことか。


「……こんなに、早く詠唱が終わるとは思わなかったけれど、ね♪」

 適度に中断して伸ばし伸ばし唱えていたのだが、まさか戦闘が始まる前に完成してしまうとは、しゅりるりも思わなかった。

「うまくいかないものだね、”物事の(otogo nom)oni rawo (おわり)a heros”って……」


”i as an i mu sayo”

「おやすみなさい、悪魔飴」

 そして、しゅりるりは最後の詠唱を終えた。


 悪魔飴の脚が凍りつきはじめる。悪魔飴は己の負けを悟った。

 しかし悪魔飴は考えていた。

 負ける時に言う言葉。大抵の魔王は似たようなことしか言わない。個人的に違う言葉を言いたいと、思っていた。しかし、すぐには気の聞いた言葉は思いつかない!


「うぐぅ」

 もう時間がない。仕方ない、使い古された言葉を使うしかなかった。悪魔飴は深呼吸する。

「これで終わったと思うな……いつの日か、また新たな闇が現れるだろう。全ては繰り返す……永遠に、な」

 決まった! と、悪魔飴は思った。


 この言葉を言い終わった後は、全てが凍りついていくのを待つだけであった。最後だけでも格好良く決まったので、悪魔飴は自己満足の笑みを浮かべていた。

 しかし、世の中は上手くいかないものである。おそらく冷気が冷たかったのだろう。氷下の静寂に吸収されつつも、微かに聞こえた悪魔飴の「くちゅん」という、小さくて愛らしいくしゃみがなければ完璧であった。


 ……こうして、世界の平和は守られたのです。




「あの封印は、いつくらいに解けるの?」

「けっこう、あっという間に解けるかな。……500年くらい?」

「あっという間に、ねぇ」

悪魔飴という言葉、なにかこじつけられないかなと思って調べてみたら、

丁度いい感じに、ギリシア語に中動相のομαιと言うのがあったので、ピンと来て、こじつけました。

初めて知りましたよ、中動相なんて。

何てぴったりなのでしょう、運命感じました。

……でも、ギリシア語の中動相は、唐突で、こじつけすぎたかなと、ちょっと反省。




呪文で使われていた言語についての設定でも言おうかな。

「魔法は、ノヒン語(nohin)で唱えるのが正式で安全である」

「魔法は、言葉の持つ概念や想像が合えば、別の言語でも代用できる。但し、安定させるのは、相当の創造力が必要」


ノヒン語、言ってしまえば、よくある作り物の、架空の言語ですね(笑)

まぁ、一応、ある法則で作っているので、でたらめというわけではないです。

くるくると、逆立ちでもしながら考えると、分かるかも♪




……呪文隠す方法を模索するために、無駄に一日かかってしまった。

でも、自己満足しました。うん、満足満足。

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