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11-1・次元の扉開き、空間を跳ぶ者、いまここに。

「勇者、勇者。そろそろ出かけるよ~」

「お、おう! って、どこへ?」

「もちろん、世界制服をたくらむ魔王のお家だよ♪」

「や、やっぱり、行くのか……」

「最後まで、いつものパターンなのね」


 3人は村を出発する。

 今一番、恐れられている「世界征服を企んでいる魔王」を倒しに行くのだ。

「大々的に世界征服を宣言する魔王って、よっぽど暇か、かまって欲しいんだろうね」

 誰にも秘密でやれば、ある程度表立って目立つようになるまで邪魔する輩など現れないのだ。


 実力のある魔王の城と言うものは、なぜか行きにくい場所にある。離れ小島の山に囲まれた盆地だったり、洞窟の地下深くだったり、特別なアイテムで橋を架けないとわたれない場所だったり、異界に存在していたり。

 これから行く魔王も普通の方法ではなかなか行くことができない場所に城を構えている。

 湖に浮かぶ火山島。ここに魔王城がある。


「あそこまでいくのかぁ」

 アトリスはあまりのり気ではない。いつものことだが。

「あそこまで行く方法、あるって言っていたけれど?」

 この湖は魔王が放った魔物のせいで船さえ出せない。出そうものなら、あっという間に沈められてしまうのだ。

「まかせて、今、友達を呼ぶから」

「友達……呼ぶ?」

 アトリスはあまり良い予感はしていない。


 しゅりるりは、さっそく地面に魔法陣を描き始める。

「何かとてつもないもの呼ぼうとしてない?」

 ちょっとしたものを呼ぶには、この魔方陣は複雑すぎるのだ。なにか、こう封印されているモノを解き放つような、そんな感じの古代魔法文字。

 そして、相変わらずしゅりるりの作業は早い。あっという間に書き上げた。

「ちょっと下がってて♪」


 しゅりるりは、『友達』を呼ぶための呪文を唱える。


「u rus na kuoys ino koka mionom ubot own aku ukika rihar ibot on negiz ”egakot=on=amazah”」


 地面に描かれた魔方陣が煌き歪み、空間が収斂する。それがだんだん形となっていく。容あるものの形、透明の空間の歪みの形をした生き物。大きく輝く紅玉のような瞳。

 霞の息。

 次元の扉が開き、それは召還された。


「わわ」

 アトリスはしりもちをつく。予想よりも大きかったのだ。

「さ、乗ろう。勇者の空飛ぶ乗り物って行ったら、やっぱり竜とか天馬とかなんかそういう神秘的な動物でしょ♪」


 目で感知することはできるが、そこにいるのかいないのか分からない生物の気配に、不気味な感じが漂っている。


「にしても、これは」

 それは、『狭間の(とかげ)』と呼ばれている。名前のとおり空間と空間の挟間に住むモノ。空間と言う概念が生まれたときからいる最古生物のひとつ。どこにでもいて、どこにもいなくて、どこでも行くことができて、どこにも行けない。

 とても人間が気軽に乗れるものではない。そもそも感知することすらできない概念のような生物なのだ。


「それにしても、もう少し普通のもの呼べなかったのかしら」

 それこそ天馬とか竜とか。

「その場所の属性、相性、魔力の種類、連鎖、そのほかいろいろ考えるのが面倒なんだよね。それに召還に使う媒体を準備するのがちょっと大変だし。『狭間の龍』はいつでも、どこでもあるというのが、移動手段として便利なんだよね」

 概念の具現化は、ある意味で究極の魔法であり、魔法の最終的に行き着く先でもあるのだ。


「やっぱり魔法を普通の考えでは使わないのね、しゅりるりは」

 だから概念を現成させることができるのかもしれない。


『狭間の龍』は3人を乗せて、まるで飛ぶように空間を泳ぐ。火山の頂に作られた漆黒の城の全景が見えてくる。

「どうやら、城はアネーハの作品だね」

 しゅりるりは『狭間の龍』の背中で『ザ・城-近代魔王城編-』という本を読んでいる。

「そんな本もあるんだ」

 あの小さな荷物袋の中に、一体、何冊の本を持っているのだろう?


「しゅりるりって、何者?」

 アトリスは疑問に思う。魔王の知り合いはいるし、攻略本のような変な本も持っているし、割と高度な魔法も知っているし、なんか色々ぶっとんでるし。

「ひ・み・つ♪」

 秘密主義は今に始まったことでは無いから、気にしたところで仕方が無い。


「それにしても、アネーハの、ねぇ」

 ……この名前、とてもいやな予感。

「初期の作品だから崩壊システムとか面倒な仕掛けはあんまり無くて、割と普通の城なんだよ。この前みたいなことにはならないと思うよ」

 ありすの不安を察してか、しゅりるりは補足説明する。


「リフォームしていなければね」

 しゅりるりは、そう付け加えてにやりと笑う。台無しである。



 城の中は特にこれといった目立ったこともなく、普通だったので省略。ただ広いだけのこれといって面白い罠もない普通の城だった。魔物もほどほどに出て、霧に覆われた視界の悪い迷路はあったもののただそれだけ。魔物は蹴散らせばいいし、迷路は壁に手をついて進んでいけば、何も見つからないまま入り口に戻ることはあっても、少なくとも迷うことはない。ただ攻略に時間だけがかかる城であった。



 そして魔王の間。

 ついにここまで来た。

 入り口から玉座までは赤い絨毯がしいてあり、玉座の後ろにはこれまた赤い幕がしてある。

 玉座の上に座っている人物。なんだかえらそうなアレが間違いなく魔王だろう。


 右の指で椅子の肘掛を叩き、リズムをとっている。あれは暇な者か、思い通りにならないがために落ち着いていない者がやる行為だ。

 隣には悪魔飴がいて、侵入者の存在に気が付く。


「やーッと、きたねー。こんどこそは、キミもおわりだよー、魔王様やっちゃってくださいよ」

 あくまで他人任せな悪魔飴。


 悪魔飴は「ちゃららん」とスイッチを取り出した。

「これで気分向上、意欲上々、カチッと」

 悪魔飴はスイッチを押す。

 すると左右の壁に仕込んであるスピーカーから、鎮魂歌と行進曲を足して二で割ったような不可思議で、不可解な音楽が聞こえてきた。

「この音楽は、何?」

 あまり心地いい曲とはいえない。

「このオンガクはー『魔王様の曲』! さっき、つくったのさー。くくくく」

 笑みを浮かべる悪魔飴。


 音楽に気をよくしたのか、ジャグの表情はもう既に、勝利を確信しているような表情だ。

「よく来たな、勇者よ」

 ありきたりな長い長い演説が始まる。

 時々、魔王にあわせて、都合よくタイミングばっちりに雷が鳴り響く。悪魔飴が流しているささやかな効果音だ。


「私は力を手に入れた、もはや、私は神を超えたのだ!」

 言っちゃった。自意識過剰な台詞を。

「それじゃあ、自分はその神を超えた君よりえらい!」

 しゅりるりも負けじと言い放つ。

 意味があるのか、この意地の張り合い。もはや子供の喧嘩に成り下がってしまった。

 しかし、この魔王は冷静だ。今までの魔王とは、やはり精神的に大人……いや、一味違うということだ。


「……ふ、面白い奴だ。少し遊んでやろう」

 強大な力を持つ魔王に立ち向かう、小さな人間たち。これらと戦うことは、所詮、戯れにすぎないのだ。

「遊びでいいの? 本気でこないと後悔するよ?」

 しゅりるりは、本当に『遊び』で戦う気でいる。

「……確かに、本気じゃないと後悔するわね……魔王が」

 ありすは、そう小さくつぶやいた。『遊びで』なんていったら、いろいろな意味で危険、必ずや後悔するにちがいない。

 そんなことは知らない魔王は戦いのスタートの言葉を言う。


「さぁ、かかってくるがいい。勇者どもよ!」


 こうして戦いが始まった。


 勇者と魔術師は人間にしては、なかなかな部類に入るのだが、それでもまだ本気を出すまでもない相手。魔王はそう思っている。

 しかし、この白い服の少年は……人間のような気配を身にまとい、人間のようにに振舞ってはいるのだが、明らかに次元が異なる存在。何もかもが規格外で別格。魔王はそう感じていた。


 魔王はしゅりるりが言った「遊びでいいの? 本気でこないと、後悔するよ?」という言葉の意味が判ったような気がした。『遊び』『戯れ』で戦ってやっているのは自分ではなく、あのしゅりるりという名前の者なのだ。

「ぐっ」

 このおもちゃ箱をひっくり返したような……いや、実際におもちゃ箱をひっくり返した攻撃は、精神的にも耐え難い。しかし、歴然とした力の差を感じている。


「こんなこともあろうかと、準備していたものがあるんだ」

 しゅりるりは、どこからともなく複線もなしに、何の前触れもなく壷を取り出す。脈絡のない攻撃が再び来る。魔王は身構える。

 しゅりるりは、それを魔王の頭にかぶせる。なんとそれはぴったり。


「あ……抜けない!た……たすけて……」

 それは魔法でできたつぼ。魔力をどんどん吸い取る凶悪なつぼ。失われていく魔力。このままでは全て失ってしまう。

「あう~、世界征服の野望が~」

 つぼの中に声が響く。

「うぐぐ。私に最強の力を与えたと言うのはうそだったのか!!」

 壺が取れない魔王は叫ぶ。


「まさか裏で操る者がいたのか!」

 しゅりるりはわざとらしく驚き、待ってましたとばかりに、とてもうれしそうに言う。


「ありきたりね……」

 魔術師は言う。


「えぇ~まだ続くのぉ」

 勇者はすでにやる気がない。


 何者かに操られていただけの傀儡な魔王にもう用はない。

「おまえなんて、飛んでいっちゃえ~」

 しゅりるりは爆破草を使う。さすが魔王というか、盛大に吹っ飛びはしなかったが転がってどっかに行ってしまった。多分もう戻ってこないだろう。恥ずかしくて。

 そして、これが魔王ジャグの非常に物足りなく情けない最後(?)であった。



 その時、この時を待っていたかのように、赤い幕の奥から不気味な声が響いてくる。

「ふっふっふ。さすが、というべきか……」

 幕で隠されているが、奥にも部屋があるらしい。そこから笑い声が聞こえる。


 そこにジャグに力を与えた、本当の黒幕がいるのだろうか。

「おまえも片付けて、ゴミ箱にぽいしてやる~」

 しゅりるりはよく漫画かなんかで、集中線バリバリで指差してバーンとやるような感じのテンションだ。




 ★おまけ★

「今回の魔王は、正統派魔王だったね♪」

「いや、あれは違うんじゃ……」

 壷を被せられたの姿を思い出すと、どうしても頷けない。

「でも、正統派のシリアス魔王だったとしても、しゅりるりにかかれば、お笑い系に変えられてしまうような気がするわ……あ、あと悪魔飴もいるとねぇ……二人は兄弟なんじゃないかしら」

 それは無いと思いつつも、なんだか、ありえなくは無いような気がしているありすなのでした。


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