10-1・布団からの手紙は、いい匂い。
「手紙をもらったんだ♪」
伝書鴉(鳩ではなく、鴉だよ)で運ばれてきたしゅりるり宛ての手紙。早速、封を開け読み出した。
「かぼちゃは うひひと嗤う季節です。いかがおすごしですか?」
そんな書き出しで始まっている。こんなステキな手紙が秋の口に届いた。カボチャ色の風と匂いをともなって。しゅりるりの友人なのだろうか、やたらフレンドリーな文体だった。
「誰からの手紙?」
ありすは魔術の本を読んだまま、話を聞いている。
「布団だよ」
「ぬのだん?」
聞き慣れない名前に本から目を離す。
「そう、『ふとん』とかいて、『ぬのだん』と読む」
これまた、なんだかいやな予感な名前。またおかしなことに巻き込まれるのか。ありすは、ため息をついた。
「その布団って?」
「魔王アネーハ率いる布団だよ。ちなみにアネーハの趣味は城建築。たくさん手がけているんだよ。なんか、また城を建てたみたいで、素晴らしい出来だから、攻略しに来いだってさ」
「また、魔王なの」
嫌な予感を予想していたとはいえ、やはり気が滅入る。しゅりるりは、あとどれくらいの魔王と馴れ合……いや、退治すれば気が済むのだろう。
「彼は中級クラスの『本物』の魔王だから今までのとは、比べ物にならないくらい強い……いや大丈夫か。アネーハだし」
魔王アネーハは城を作ることを生きがいにしているもで、戦闘向きの魔王ではないのだ。
「彼の城はある意味でなかなかスリリングだから、行ってみようか? 魔王アネーハの城は仕掛け満載、お手ごろ価格、出来上がりも数日でと早い。魔王城の大部分は彼の作品といって良い。今後行くであろう魔王城攻略に慣れておくためにも役に立ちそうだしね♪」
しゅりるりは手紙を鞄にしまう。
「そうと決まったらアトリスを起こさなきゃ。勇者出動!」
しゅりるりは部屋で寝ているであろうアトリスの元へ行く。
「見かけないと思ったら、また寝ているのね」
何もしていない時は、とにかく寝ているアトリスなのでした。
立派な城が建っている。ここは布団のアジト。魔王アネーハの居城。高く見えるが、実際は見た目ほどに高さは無い。城の石垣が上に行くにつれ小さくなっているので遠近感が狂い、目の錯覚で実際よりも高さがあるように見えるだけなのだ。城の外見は重要、見栄は大切なのである。
その城の門には門番がいる。白いシーツを頭から被っている門番がいる。その白い布は布団の制服なのか、違うのか。
「……布団ねぇ」
ありすの第一声。また変な人たちのような気がしているのでした。
こちらに全く気がついていない布団の門番の独り言が聞こえてくる。
「一日中見張っているのも疲れるなぁ。この城に尋ねてくる人など、 ほとんどいないのに……と、これは禁句禁句。だれかうちのボスを倒しに、侵入してくんないかなぁ。曲者! と言って襲い掛かってみたい」
布を揺らしながら、そんな独り言を言っている。
しゅりるりは、ここぞとばかりに門番の前に立ちふさがる。
「たのもう、君たちのボスを倒しにきたよ♪ 君のお望みどおり、グッとなタイミング?」
しゅりるりは親指を立てる。布団の門番の布の間から見えている目が輝きだした。
(きたきた! 待っていたんだよこの瞬間)
「この門番を倒さない限り、通れないぞ。準備はいいか? 」
(準備の時間を与える。オレ、なんて格好いいんだろう)
「準備はいいよ! いくよ?」
「いくぞ!」
門番との熱い戦闘が始まった。
門番は善戦した。3対1にもかかわらず。
「なかなかやるなぁ。約束だ。通るがいい」
良い戦いだった。と門番は思う。
「いやぁ、楽しかったよ。あっさり負けるのも門番の務めさ。ふっ」
「門番も大変だね♪ さぁ行こうか」
門をくぐり、城の中へと入るのでした。
廊下を進むと広い部屋に出た。
「数々の罠、仕掛け、設備の数々を前にして、君たちは生きて帰ることができるかな?」
なぜか後ろからついてくる門番。
「あなた門番でしょう? 門はいいのかしら?」
後ろをついてくるだけで特に害は無いので、気にしすぎても仕方ないのだが、ありすはつい門番に突っ込んでしまう。
「う、気にするな」
客人が珍しいので、どうしても解説したくなってしまう門番であった。
「この部屋の仕掛けをとかないと、先に進めないぞ」
門番は仕掛けを解く邪魔をしないように、部屋の出入り口付近に立っている。出入り口に待機、ある意味で門番の鏡。
「さてアネーハの自信作とやらを、体験しよう♪」
魔力で出来た半透明な床に、仕掛けのスイッチがキラリと光っている。どうやらスイッチを押すと床が現れたり、消えたりするらしい。うまくスイッチを押さないと行けないような離れた場所に、ご丁寧に宝箱まで配置してある。本格的だ。
宝箱をあけるのが好きなしゅりるりは、すべての宝箱の元へと行こうとしている。
「よし、また爆破草を手に入れたよ」
宝箱の中身はすべて爆破草であった。しかも5、6束まとめて入っている。
爆破草、名前のとおり、爆発する物騒な草。かなり強い衝撃を与えるか、火種が無いと爆発しないので、比較的安全に持ち運びができる道具。弱点はすぐに湿気にやられてしまうことだ。
「やっぱり、何か入っている箱はいいねぇ」
宝箱をあける行為が好きなだけなので、中身はなんであろうと問題はなかった。
「この箱、開かないや」
ひとつ鍵がかかっている宝箱があったが、振ってみた感じだとかさかさ音がして、爆破草だろうと思った。もうたくさん持っていて、鍵を探してまで欲しいとは思わないので、ほったらかしにしておく。
「これで最後かな?」
少し違った色を放つスイッチを押すと、天井から階段が現れた。
「無事にあの仕掛けをクリアしたみたいだな。この先に我らがボスがいらっしゃるのだ!」
対岸の入り口で門番は叫んでいる。
「さ、行こう♪」
この階段の先に魔王アネーハがいるのだ。
★おまけ★
しゅりるり「ひとつ宝箱が、あかなかったんだけど」
布団の門番「う……(あの宝箱の鍵をなくしたとは、 口が裂けてもいえない……)」
しゅりるり「まぁ、どうでもいいんだけどね♪」