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9・ネコ仮面現る!

 今3人は地下深くに作られた広場にいる。

 周りには背の丈ほどの岩が立ち並んでおり、刺さったら痛そうだとアトリスはずっと震えていた。


 ここに住む魔王が良からぬ動きをしているらしい、世界征服を企んでいる魔王と手を組んだらしい、とそういう噂が流れていたのだ。

 しゅりるりは世界征服をたくらむ魔王を倒しに行くという当初の目的をすっかり忘れかけていたのだが、ここに来て久しぶりに思い出した。


 しゅりるりは、なにやらポップな柄の本を読んでいた。

「今年の『ザ・全国魔王録』によると、ここにいる魔王はなかなからしいよ」

 そんな本があるんだと、そっちの方が驚きだ。しかし、しゅりるりが何を持っていようが誰も突っ込まない、それが日常。


 襲い来る魔物や罠を掻い潜り、魔王の元にたどり着く。

 そこには黒い影の形をしたものがいた。猫を模した仮面で顔は隠していたが、影が揺らめいているだけのよくある正体不明の魔王の造形だ。

「猫仮面だ、猫仮面」

 しゅりるりは見た目でこっそりあだ名をつける。


「ほぅ、早かったな。なかなか、骨はあるということか」

 猫仮面は何かを撫でながら、偉そうにしている。というか、猫仮面がなでているのは悪魔飴だった。悪魔飴は頭をなでなでしてもらっている。まるで猫だ。魔王も猫の仮面をしているから猫っぽい。だから、どっちも猫だ。


「あ、コイツラ、コイツラ。イツモ邪魔してくるヤツら」

 そう言う悪魔飴は、大人しくなでられたままだ。


「なんで、ここにいるの?」

 アトリスは言う。

「ふっふっふ、世界征服のためには他の魔王のチカラも借りる必要がある! で、その条件としてココにいるのだ~」

 世界征服の手伝いをする代わりに、時々、悪魔飴を好きなだけなでるという交換条件らしい。意味が分からないが、そういうことらしい。悪魔飴も撫でられるのは満更でもないご様子。


 猫仮面は撫でるのをやめ立ち上がる。

「さて悪魔飴。さびしいけれど危ないから、もうお家に帰ろうね~」

 ものすごく甘やかしている。また撫で始めたよ。そんなに撫でるのが好きなのか。

「うん、いい結果、キタイしているヨ~」

 悪魔飴はいつものように「ちゃららん」と消え去った。


 なんなんだろう、この空間に漂っているこのほのぼの感。戦意がかなり削がれる。


「さて、話は聞いているぞ『私の』悪魔飴をいじめていたのもお前だな」


「私の???」

 ありすは思わずつっこんだ。


「あぁ、自分のものにしちゃったよ。仮にも違う魔王の手下なのに。これだから魔王は。人並みはずれた、所有欲と独占欲だね」

 しゅりるりは猫仮面をからかった。


 猫仮面はごまかすように咳払いする。

「さて、行くぞ!」


 猫仮面の姿が、徐々にぶれていく。分身し、姿が増えた!

「うわぁ、なんだかやっかいだね」

 しかし、なぜか嬉しそうなしゅりるり。


「ふははははは。果たして、このたくさんの分身から、見つけ出すことはできるかな?」

(人間どもは増えていく姿を見て慌てふためいているぞ、ふははははは)


「勇者、勇者、心眼とか使えないの?」

 しゅりるりは、わくわく、きらきらした目を向けている。

「使えるわけ無いよ」

 何を期待しているのだろうかと、アトリスはため息をつく。

「君のお祖父さんは使えたんだけれどなぁ。やってみなよ」


「……えぇっ」

 ここにきて突然の無理難題。

「うぅ……」

 やらなきゃいけないんだろうな。

「そこかな?」

 アトリスは目をつぶり集中し、何か感じたところを攻撃してみた。

 何か手ごたえのようなものを感じた。


「あ、あたっちゃった……」

 攻撃は本体に見事に当たったが、致命傷では無いようだ。目をつぶって全く見えない状態での攻撃だ、どこか恐怖があったらしく普段の半分の力も出せないのだ。

「む~要練習だね、でも、さっすが勇者♪」

 勇者の血ってやつは意外と便利なのかもしれないと、アトリスは思った。


「ふふふ、もうおしまいか?」

 見た目に反し、心眼といった比較的高度な技を使うことには、正直驚いたがまだまだ未完成。将来が楽しみな逸材ではある。

「久しぶりに楽しめそうだ」

 猫仮面はまだ余裕の表情だ。


「次は……面倒だから、全部、攻撃してみよう♪ ありすまかせた!」

「あなたがすればいいじゃない?」

「ありすの方が、まともな攻撃系の魔法、得意だと思うよ?」

「まぁ、そうかもしれないけれど」

 自分で思うのもなんだが、確かにしゅりるりよりは攻撃系の魔法は得意だとは思っていた。


「そういえば、しゅりるりがまともな魔法使っているところ、見たことないわ」

「使えなくは無いだろうけど、基本的な火の魔法でさえ結構カスタマイズしちゃったからなぁ」

 しゅりるりは「ほむらほむろ」と火の魔法を短く唱え火をだすが、ころっと出てきたのは燃え盛る松明。

「本来はアルコール度数高めの水も一緒に召還するんだけれどね。その水を口に含んで、フォーと松明に向かって勢いよく水を吹きかければ、火炎を口から擬似的に吹けるんだよ。それが結構爽快なんだよね♪」

 しゅりるりは松明を振り回している。どんな宴会芸だ。

「『あわあわ』は泡だらけに、『きらきら』って唱えると星が頭の周りを回って、『どくどくろ』と唱えれば……」

 まるでおもちゃ箱をひっくり返したような使えなさそうな魔法たち。


「魔法はイメージと想いの強さとは言うけれど、あんまりだわ」

 予想通りまともな魔法は何一つとしてなかった。


 仕方ないので、ありすは全体攻撃魔法となえる。

「owet ebususu kuti kay a hakuog on ”arumoh=oonoh”」

 高度な魔法になれば、それなりに長い呪文を唱えなくてはならない。

「 a hutenu kays on ”orumoh=oonoh”」

 ここまで唱え終えると、巨大な炎が現れ渦を巻く。


「そうそう、そんな呪文だったね。さっすが、ありす」

 先ほどしゅりるりが使った火の魔法もおかしなことをしていなければ、本来この魔法が発動するはずなのだ。


「ひとつの魔法について、どういう仕組みか、考えるのは無駄。理解するのは『ひとつ』ではなく、『全て』でなくてはいけない。それが魔法あり方。だから長い時間と経験、ひらめきが必要なのだ」

 これはアリスの師匠の言葉である。

 詠唱短縮や魔法改造は、かなりの危険を伴う。魔法を深く理解していないと難しい。それをなんなくやってのけるしゅりるりは、ありすよりも魔法について理解しているはずなのである。


「u ohami kegu oki at nez on ”orumoh=arumoh”」


 呪文を唱え終えると炎は、たくさんの猫仮面に向かって飛びかかる。魔法は本体にも当たったが致命傷では無いようだ。

「やっぱり拡散する魔法は、 決め手に欠けるわねぇ」

 まだまだ自分は修行が足りない。ありすはそう思った。


「なかなかやるなぁ」

 この魔術師もそうとうなモノだ。猫仮面はそう思う。

(それにしても、あの白い服の人物は何だろう)

 行動がまったく読めない。自分が出した松明を振り回しているだけだし。戦う気はあるのだろうか。


「しゅりるり、遊んでないで、ちゃんとしてよ」

 一応、絶対絶命なのだ。多分。

「はーい、まじめに戦いまぁす」

 しゅりるりは、ふぅと息を吹きかけ松明の火を消す。


「魔力の消費が激しいから、あんまり使いたくないけれど」

 しゅりるりは、何を言っているのか判別がつかない程、ものすごい速さで呪文を唱える。周りに魔力の霧が集い始める。

「こっちも対抗してやる~。増えろ、自分!」

 あっという間に、しゅりるりもたくさん増えた! 猫仮面と同じ数だけ。

「あはははは♪」

 そして、賑やかさも倍増!


「むむむ。こいつ何者だ?」

 猫仮面は警戒している。ただ遊んでいただけの者ではない。

「できる!」


 二人は何をするでもなく、にらみ合っている。大半のしゅりるりは、ボーっとしているだけのようにも見えるのだが気のせいということにしておこう。


 しばらく二人は動かなかったのだが。


「もうそろそろ限界かな?」

 口を開いたのは、しゅりるりだ。

「……ぜぃぜぃ、なかなかやるなぁ」

 猫仮面の分身が薄くなっていく。

「この手の分身は魔力だけではなく体力消耗も激しいからね、持続にはコツがいるんだよ♪」

 しゅりるりも分身を消していく。


「しゅりるりすごい」

 アトリスは尊敬のまなざしを向けた。


「あっちが勝手に気を張って無駄に消耗していたから、こっちは基本何もしていないんだけれどね。でも、結構疲れているなぁ」

 まったく疲れていないように見えるのは錯覚だろうか。


「基本何もしていない、か」

 魔王は仮面の下で苦笑する。あんなに畏ろしい体験をしたのは久しぶりだ。

「あの瞳の光は只者ではなかった。こうなったら……」

 猫仮面は風景に溶けていく。同化していく。

「あれ?  消えちゃった……?」

 アトリスはまったく気配が感じられなくなってしまった。


「ふっふっふ、隠れても無駄だ! 」

 しゅりるりは、すかさず「てい!」と呪文を唱える。岩は砕け散った。

「……わぁ、木っ端微塵」

 しゅりるりが攻撃をした場所には、そこには何も残っていなかった。

「ばっちり手ごたえあり!……って、つい反射的に攻撃しちゃったよ、あぁもう少し暇つぶしできると思ったのに」


 なんか猫仮面が哀れに感じたアトリスとありす。

 でも、なんだか「ほっ」とする。


「ううぅ、 よくここにいると分かったな」

 どこからともなく声が聞こえる。姿を現した猫仮面は、かなりの傷を負っているらしく歩くのもやっとの様子。


「え? そっちに?  え、えええええええええええ?」

(しゅりるりが攻撃したのはあっちなのに、なんでこっちにいるの?)

 予想外の場所に猫仮面がいたので、アトリスは混乱している。


「しゅりるりが、まともな魔法で攻撃するわけ無いでしょ?」

 本当にまともな魔法は使えないのだなと、ありすは再確認する。


「どこを攻撃しているのかと思ったら。意味が分からないまま、まともに食らってしまったよ……」

 しゅりるりの攻撃で、その場所に吹っ飛ばされたわけではなく、最初からその場所に隠れていたようなのだ。

「それにしても見事な戦いであった。我が人生に悔いは無し……」

 猫仮面はその場に倒れた。その顔は満足げであった。


「こうして勇者たちは苦戦の末、とうとう魔王を倒したのだ!」

 しゅりるりは、ナレーション風に言う。


「え? ええええええ? おわりなの?」

 アトリスは、状況をまだ理解できないでいる。


「そして、世界は救われたのです~」

 しゅりるりはまたナレーションを入れ、ちょっと気取ったお辞儀をしたのでした。


「え? え?  何? 何? え ?え? ちょ、ちょっと?」






 ★おまけ★

「我が人生に悔いはない……って、台詞、格好いいよね」

 戦いに明け暮れて、失うものもたくさんあって、

 それでも自分の理想と約束のためならと、犠牲になっていく姿。

 悲しき人生、でも、すばらしき人生。

「人生に悔いは無い」いろんな意味で、泣けてくる。

「あなたが言うと……もはや何もかもがおかしいような気がしてくるわ」



挿絵(By みてみん)

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