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幽体離脱

 この言葉を聞いて、ある双子お笑い芸人のギャグを思い出された方は私と同世代だ。


 幽体離脱。魂が体から抜け出る、というのがこの現象の一般的な解釈だろう。正式には体外離脱と言うらしいが、細かいことはこの際どうでもいい。今回は、「私が体験した」幽体離脱について書いていきたいと思う。


 前回は金縛りについて語った。今回幽体離脱を語ろうと思ったのは、この二つが感覚的にかなり近い現象だと感じたからだ。前回語ったのはかなり不思議な、『ヴィジョン』を伴った金縛りについてだったが、一般的な金縛りと幽体離脱には、何か近い関係があるのではないかと私は感じている。


 根拠となるのが高校時代の体験である。ある昼休み、私は自分の席で居眠りをしていた。ところが、いざ目覚めようという段になって、自分の体がびくともしない。周りではクラスの女子が談笑しているのが聞こえてくる。しかし彼女たちは、私がこんな窮地に立たされているなど知る由もない。金縛りだ。藁にもすがる思いで私は体を動かそうとしていた。固く閉じられたまぶたをどうにか開こうと懸命に踏ん張っていた。


 すると、私は立ち上がった。いや、実際に立ち上がったのではない。しかし確かに、立ち上がった「感覚」があったのだ。目は閉じられたままで、腕には突っ伏した机の固い感触が、尻には椅子のざらざらした感触が残っている。しかし同時に、私は「立って」いた。その場に立っている感覚と座っている感覚を、私は同時に味わっていた。立っているのだが、実際に体は動いていないし、机や椅子の感触もある。しかしそれは「感触」だけであって、太腿の筋肉を椅子に押し付けようとか、ひじで机を叩こうという行動はできない。なぜなら私は今「立って」いて、机や椅子には「触れていない」のだ。私の感覚は、そう認識していた。


 その場に「立った」私は、横の方に少し歩いてみようとした。しかし寝ぼけていて足元がおぼつかなく、後ろにすっ転んでしまった。しかし私の体は軽くて、床に倒れ込む速度はゆっくりで、最後に、背中に何かが軽く当たった。


 それは後ろの席近くの床に置かれていた男子用学生カバンだった。私の学校の学生カバンには2種類あり、男子は肩掛けタイプ、女子は手提げタイプで、男子の方が見かけ上少し大きく、表面もざらざらしていた。そのカバンの感触が背中に当たった。


 痩せ型とはいえ51kgと少しあった私の体が後ろに転べば、もっと勢いよく倒れる。カバンが背中に当たればもっと激しい痛みを感じるはずだ。しかし私の「体」には、背中に軽く何かが当たった程度の感覚しかなかった。


 そうして「転倒」したところで、私の「本来の体」が目を覚ました。思わず後ろを振り向くと、私が「転んだ」その位置には、まぎれもなく男子用のカバンが置かれていた。



 このように、私が体験した「幽体離脱」は


①まず金縛りがあって、

②その後に自分の「本来の体」とは別の「感覚のかたまり」のような体が動き出した、


というプロセスで起こった。これ以降このような現象を体験したことはない。


 この体験を経てから、私は魂の存在を信じるようになった。「霊体」という意味での魂だ。自分の身体よりも軽い「体」で私は立ち上がり、転び、背中をカバンで打ったのである。このような強烈な体験をすれば、そうした結論に至るのもおかしくはあるまい。


 論理的に魂の存在を証明できたわけではない。しかし私は実際に「体験」してしまったのだ。体験した以上、それを事実と信じる他はあるまい。人間には「霊体」が存在する。経験上、私はこれが事実だと述べるほかない。


 最後に、余談となるが、金縛りと幽体離脱の関係についても考えてみたい。私の幽体離脱は、まず金縛りを経て起きた。ということは、金縛りとは何か悪霊が引き起こすものではなく、単に身体感覚が非活性化している状態なのかもしれない。あるいは私たちの「霊体」=感覚のかたまりが、まだ自分の肉体に「入りきっていない」状態なのかもしれない。人は眠っているあいだ、どこか別の場所に「霊体」として存在していて、目覚める際にふたたび肉体に戻るのかもしれない。だとしたら私たちの「本当の体」は、肉体ではなく霊体のほうだということになる。


 真実はどうなのか? それを知る術は私には無い。それが分かるのは、私たちの命が尽きる時であろう。あまり早くにその真実を知ることにならないよう、切に祈るばかりである。

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