第4話 雷光降って大地創造
私が食材を買いに行く店は、毎回決まっていた。『ファイター』といって価格破壊と戦い続け、安い、美味い、種類が豊富と言う三拍子が揃った素晴らしい店だった。
店に入って20分、私は何も入っていない買い物かごを揺らしながら店内を徘徊していた。
(燻玉だな。)
((何が?))
(スモークした卵が食べたい。)
((うんうん。いいツマミになるな。けど、その答えに辿り着くまで、かなり時間かかったな。))
私にとって食事とは『究極の娯楽』であった。だからこそ、夕食を買いに行く時はどんなに品揃えが豊富でも、『自分が食べたい物は何なのか』という事を、一切の妥協なく考える癖があった。
(このスーパーなら必ずある。)
((どっから来るんだよ。その絶対的信頼は。))
(へへへ。)
((腹減ってるだろ?さっさと買って帰ろうぜ・・・って、それじゃ、納得しねーか。))
(当たり前さ。単なる空腹は食事の理由にならない。)
私にとって1日が始まる朝はともかく、1日の途中である昼にこの『究極の娯楽』をする気にはなれなかった。むしろ、頭に行くはずの血液が消化器官へ行ってしまうことは、デメリットなのではないかと考えていた。
しかし、平日は昼食を取らないと何故か注意されるので、血糖値が上がらないようにサラダ程度は摂取していた。
この日は休日。週末は概ね夕食のみであった。
プシュッ!
帰宅直後、PS4に電源を入れ、本体が立ち上がっている間に、晩酌の準備をしながらストロング酎ハイを空腹に直行させた。
「くぅ〜!うめー!!」
「生春巻き、お寿司、ガーリックトースト、酢豚。そして今回の主役、燻製卵!」
((統一感ゼロ。欲望のままに買い揃えたな。))
「そりゃそうさ。食事に妥協はしない。さて今日は・・・。」
((調査はいいのか?))
「流石に今夜は遊ぶよ。明日、信頼性のある性格診断を調べて受けてみようと思う。」
((なるほど、了解だ。))
次の日、日曜日という事もあり8:00から3度寝、4度寝を繰り返し、重い体を何とか持ち上げた時には9:50になっていた。頭の回転は完全に停止しており、どう足掻いても動かない・・・というより動かす気はなかった。私は、昨晩飲み干した酎ハイに書かれている『9%』という文字の『%の○』をボーっと見つめながら15分が経過した。
「おっと、10:00過ぎたか。そろそろ調査始めようかな。」
私はPCのスタンバイ状態を解除し、ネットで『性格診断 信頼性』と検索した。
「結構ヒットするけど、どうやら『ビッグファイブ』と『16Personalities』ってのを、取り上げてる記事が多いな。」
私は『ビッグファイブ』から診断することにした。
「なんか戦隊物みたいな名前だな。性格診断ビックリファイブ!」
((・・・さっさとやれ。))
「すんませーん。『素直な気持ちで、直感的に回答してください』か・・・よし!」
子供の頃に受けた学校のテストも、この前初めてIQテストを受けた時もそうだったが、私はよく設問や回答の選択肢が、納得出来ない場合にケチをつける。『素直で直感的』という説明文を、声に出して読み上げたにも関わらず、厳密に回答していた。とはいえ100問にも満たないアンケート形式の質問に、あまり時間はかからず20分ほどで回答を終えた。私にとっては早い方であった。
「よし。結果だ。」
外向性・・・17/30
情緒安定性・・・29/30
誠実性・・・20/30
協調性・・・11/30
開放性・・・30/30
自己ギャップ・・・7/30
私は、結果に対して感想を語り始めた。
「なるほどね。外向性、コミュニケーション能力は普通。納得だ。どちらかというと内向的だが、別に他人と接するのが苦手な訳ではないからね。情緒安定性、つまりメンタルの高さは高い。高いというよりかは立ち直りが早いかな。・・・つまり高いってことか。納得だ。誠実性、努力は普通よりちょっと高い程度か。確かに興味があると、こうして調査に調査を重ねて努力するが、どうでもいいことはねー・・・それ以上は言わないでおこう。協調性、周りとの調和低め。・・・・・・確かに。頼まれごととかされた時に、相手の意図がわかっていても断って気まずくなることがある。・・・・・・次、行きましょ。開放性、新しいことを受け入れることができる。好奇心MAX。納得というよりか、これはわかってたよ。自己ギャップ、つまり自己分析はそこそこ出来てる。これは意外だなぁ。わかってないと思ってたよ。こういう診断結果は環境とかで変わるからね。たまに繰り返し受けてもいいかもね。」
テンションが上がってきた私は、続いて『16Personalities』の診断を受けた。この診断結果が私の脳裏に深く刻まれる未来など、この時は知る由もなかった。
「元々は英語のサイトなんだろう。翻訳された日本語がおかしい。・・・・・・モヤモヤするなぁ。」
そんなことを言いながら、近い選択肢で回答を進めていった。ちなみに、私はこのようなアンケート形式で『どちらでもない』や『普通』という、どっち付かずの回答を極端に嫌った。その上、納得できない質問や選択肢にケチをつけるという非常にめんどくさい性格だった。
「終わったー。」
結果を目にした時、私の周囲は真っ白になった。
《仲介者 INFP-A》
真の理想主義者。極悪人や最悪の出来事の中にさえも、常にわずかな善を見い出し、物事をより良くするための方法を模索しています。落ち着きがあり控えめで、内気に見られますが内側に激情と情熱があり、まさに光を放つ可能性を秘めています。全人口のわずか4%で残念ながら、誤解されていると感じることが多いかもしれません。
「わかりずらい!翻訳じゃダメだ。他のサイトで調べよう。少数派なのは解ったし、言いたいことは何となく理解できるけどオレが知りたいのは、もっと具体的な内容さ。」
私は他のサイトで『仲介者(INFP-A)』に関する記事を検索した。
結果、真っ白な私の周囲が昏く静寂の空間に移り変わった後、脳裏に雷光が撃ち落とされ、私はその後、考え込む事となる。
《仲介者 INFP-A》
『ミステリアス』
『直観力がある』
『平和主義』
『洞察力がある』
『チャレンジ精神が高い』
『夢に向かって突き進む傾向がある』
『生きづらい性格』
『直感を重要視するタイプで、物事の本質を見抜くのは早いが、理想と現実のギャップに苦しむことも多い。型にはまらない考え方をして、クリエイティブを要求されるようなシーンで活躍する。』
『芸術に関心を持つことが多く、哲学や絵画、音楽など、自分の思いや感じている概念を形にすることが得意。ただし、直感に頼りすぎて、地に足がつかないことも多い。』
『自分の価値観を共有できないような人を好まず、狭く深くの人間関係になりがち。強い自身の哲学や価値観に基づいているが、そのような哲学や価値観を、わからない人がいると知っているからこそ、理解のある少数の理解者と付き合う。』
『1つの物事に集中する。』
『独特な世界観を持っている。』
『理想主義者。自身の価値観がしっかりしていて、責任感が強く、仕事も勉強も完璧主義な傾向がある。』
『個性が発揮できない環境や、周囲の圧力から萎縮してしまうような環境には弱い。』
『人間関係に強く関心を持っていることから、人の役に立ちたいと思う側面がある。』
『人の気持ちを察することに長けているので、褒めることもうまい。』
『受け身で無理しないため、積極性がないと思われてしまう。』
『一見おとなしいが、自分の理想に対して非常に頑固なため融通が効かない。』
『レッテルを貼られるのが嫌いで、貼られたレッテルに対抗する。その結果、気分屋や変わり者、急に変な行動を起こす人に見られて悪循環に陥る。』
これらの現実という雷が、脳裏を貫いた後の数分間、私は画面の下にあるリンゴマークを見つめていた。
暫くして気持ちの整理がついた私は、全て納得こそ出来ないが、その多くを受け入れた。
「周りから見たら変わった人間・・・いや、社会不適合者・・・・・・。そういうことか。」
私は立ち上がり、カーテンを全開にして叫んだ。
「かかって来いやー!!」
先週、騒音に対する苦情が来たことなど、この時の私には関心の外であった。