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2000年、2003年

【ラトナ・アンゴドの視点】


「協力してほしいことって何だよ?」


 放課後の音楽室に連れ込んだ、男のような口調のこの少女。蓮向テルネという名前で、今年でわたくしと同じ13歳になります。胡散臭い目でわたくしを見てくる女子は彼女ぐらいでしょうね。

 まあ、別の目線で見られているのも承知していますが。それはお互い様でしょう。


「バイオリンの練習に付き合っていただきたいのですわ。テルネさんはピアノの名手と聞きましたので、ぜひ伴奏をお願いしたくて」


 テルネさんは苦い顔をすると、彼女に後ろからひっついているヴァレリーさんに振り向きました。


「お前か」

「いいじゃん! ラトナ、練習足りなくて困ってるって言ったし」


 テルネさんがどこの教室に通っているかなど、すべて承知しています。ヴァレリーさんを誘導するのは簡単なことでした。

 もちろん近々バイオリンを披露する機会があるのは嘘ではありません。しかし言ってはなんですが趣味の範疇にしてはわたくしは結構うまいのです。今さら練習の必要はありません。

 目的はただひとつ。テルネさんの実力の把握です。ヴァレリーさんの評価はともかく、各教室の先生方の評価も高いと聞きます。しかしテルネさんはコンクールなど教室外での演奏を一切していないのです。


 つまりわたくしは思ったのです。このやたら知ったかぶってわたくしたちグループの中心にいるテルネさんは、実は金で評判を買って取り繕っているだけではないかと。


 そうだとしたらどんなに面白いことでしょう。化けの皮を剥がされたテルネさんの顔を想像したらゾクゾクします。


「何度も言っているが、私は――」

「まあまあテルネ。ちょっとぐらいいいじゃないか」


 渋るテルネさんの背中を押したのは、意外なことに彼女の双子の弟のナルトさんでした。このシスコン、最初は姉のイエスマンかと思っていましたが、『面白そうなこと』に関しては強く出てくれるのですよね。


「ぼくも聴きたい」


 ボソリと呟いたのはルーニャさん。いいですよ、よいアシストです。男性には厳しいテルネさんも、この小さくて細い女の子のような美少年には甘いのです。


「いいではないか。披露できないような腕前ではないのだろう?」


 あなたは黙っていてくださいカリーム。その手の挑発は確かにテルネさんに効きますがわたくしが不快です。


「テルネさん、あなたの力をお貸しいただきたいのです。このままではわたくし、とても不安で」


 わたくしはテルネさんの手をとって、胸元に引き寄せました。テルネさんの目が面白いぐらい泳いで、頬が赤くなります。ふふふ、分かりやすいですね。ほらほら、もっとこちらに。胸の間に手を押しつけるかどうかというところで停止。あらあら残念そう、うふふ。


「ね、ね! みんなこう言ってるしいいじゃんいいじゃん! 演奏キボンヌ!」

「……分かったからその言葉をリアルで使うのはよせ」


 そうして遊んでいると、ヴァレリーさんの発言にテルネさんの表情がスッと固くなりました。このフランス娘、余計なことを。


「ええー、面白いしいいじゃん。オマエモナー、イッテヨシ!」

「ネット掲示板は玉石混交だ。善意もあれば悪意もある。そして悪意の方が目立つというものだ。バスジャック事件のこともあっただろう、あれと同類に見られるぞ」


 ああ、ヴァレリーさんが使っている言葉は例の掲示板の流行り言葉ですか。ヴァレリーさんらしいというか。ともかく。


「それより、練習にお付き合いいただけるのですよね」

「あ、ああ……少しだけだぞ。楽譜はあるか?」

「こちらに。この曲はご存知かしら?」

「初見だな。まあ伴奏程度なら務まるだろう」

「頼もしいですわ」


 うふふ。最近練習を重ねている一番自信のある曲です。その澄まし顔がどうなるか、とても楽しみですわ。


 ◇ ◇ ◇


「すごいすごーい!」


 演奏が終わると、ヴァレリーさんが大声をあげて拍手しました。


「ふたりともすごく格好よかった!」

「感動した」

「想像以上であった。ますますオレの嫁にふさわしい」

「黙れロリコン」


 黙ってくださいロリコン。


 はっ、放心していました。


「初見を言い訳にする気はないが、荒くなってしまったな。ラトナの練習になったならいいが」

「い、いえ」


 荒かった? どこが? テルネさんの可愛らしい指から紡がれる旋律は、わたくしの雇っている教師よりも繊細で文句のつけようもなかったのですが? わたくし、ついていくだけで精一杯でしたが? つまりプロと同じ、いえそれ以上でしたが!?


「あの……テルネさん、本当にコンクールに出たことがないのですか?」

「ないぞ」

「なぜです!?」

「そこそこうまい程度じゃ、世界では話にならないだろ」

「世界は取れないだろうねえ」


 えぇ……? 世界を取れない? つまり世界一になれないから出ない? 何を言っているのでしょうかこの双子は。


「これだけで食っていく気もない」


 いえ余裕で食えるでしょうし世界で興行しているような楽団にも入れるんじゃないかと思いますが?


「まあそんなことはどうでもいい。それよりラトナ、バイオリン貸してもらっていいか」

「え? あ、はい」

「ここの部分なんだがな……」


 楽譜を示したあと、テルネさんはバイオリンを弾き始めました。え……?


「……と、こうした方がいいと思うんだ。素人考えだが」

「……テルネさん、バイオリンも弾けるのですか? え、というか、うますぎませんか?」

「これぐらいの年齢で優劣もあったものじゃないだろ。それにラトナが努力したらあっという間に抜かれるよ」


 それってプロになるぐらい努力しないといけませんよね? わたくしさすがにバイオリンで食べていく気も覚悟もありませんよ? 


「まあ私のアドバイスはあてにならないかもしれないし、後で先生に聞いてくれ。ほら、返すぞ」

「え、ええ……」


 テルネさんからバイオリンを受け取り――それにあるものを見つけて、わたくしは心を取り戻しました。


 あらあら、髪の毛がついていますね。この長さ、この色。渡す前には確かにありませんでしたし、確実にテルネさんのものですね。


 わたくしはすばやくテルネさんの髪を指に巻きつけると、制服のポケットにしまいました。


「ん? 何か?」

「何でもありませんわ」


 後で袋に入れて保管しましょう。コレクションが増えましたね。


 そう、そうです。落ち着くのです。テルネさんはヴァレリーさんの言うとおりの才媛だった。それはとても――喜ばしいことではありませんか。

 才能に満ち溢れ、美しければ美しいほど――


 汚れたときの美といったらたまりません。


 心を落ち着けましょう。そう、あの日の光景を思い出しましょう。あのぶっきらぼうなテルネさんが急におとなしくなり、わたくしを廊下の隅に連れ出して、小声で生理用品を貸してくれと要求してきたあの顔、あの声。あれが初めてだったのでしょうね震えるテルネさんは普段と違ってなんとも弱々しく嗜虐心をそそられました。あの日の記念になんとしても彼女の汚れを手に入れるべきでしたねそうしたら今以上に鮮明に思い出せたでしょうああ後悔は先に立たないものです。


「ねえねえ、テルネ、他にも弾いてよ!」

「えぇ……面倒くさい」

「ぼくも聴きたい」


 わたくしがこのような目でテルネさんを見ているのと同様に、テルネさんもわたくしを普通ではない目で見ているのを知っています。これも彼女の汚れと思えば、ああ愛おしい。いつか彼女を寝所に連れ込んですべての汚れを手中にしたいものです。もしくはルーニャさんも一緒がいいかもしれません。わたくしの腕の中で美しい二人が貪りあい、テルネさんが汚されルーニャさんの神聖さが失われることを想像すると胸が高鳴ります。


「ならばオレが場を用意しよう。テルネの演奏会と聞いて集まらない者はいない。オレも伴侶を紹介できてイッセキニチョーだ」

「誰が伴侶だ変態野郎」


 カリームは黙っていてください。クッ。シスコンとヴァレリーさんまでは自然に無視できるのに、このエジプト男は本当に妄想の邪魔ですね。


「私が演奏したのは……練習の手伝いを頼まれたからだ。それ以外でやる気はない」

「あらあら」


 わたくしのためと言ってくださってもよかったのに。でも、ふふ、そういう不器用さこそテルネさんの美しさですよ。


「それではもう少しお手伝いいただいても? 先程のアドバイスをモノにしたいのですわ」

「……少しだけだぞ」

「あたしも混ざりたい! 歌えるやつにしてくれない? ねえねえ!」

「そうですね、では……」


 それからテルネさんの用事の時間になるまで、わたくしたちは音楽室を独占して演奏会をしました。なあに、課題曲が複数あるのだと言えば、他の曲を演奏させることぐらい簡単なことですよ。



 ◇ ◇ ◇



【カリーム・ジブリール・サイード・ジャウハリーの記録】


 カリームには理解できない人間が一人いる。


 その名は蓮向テルネ。今年16歳になった少女だ。


 小学生時代に出会ってからずっと関わり合うことになったこの少女は、小学生時代の愛らしさに加えて、最近女性らしい身体つきになってきてとてもよろしい。胸が控えめということも、カリームの好みに合っていた。ラトナ・アンゴドという華僑は逆に最近ますます胸が膨らんで下品でよくない。


 とにかく、カリームにはテルネが理解できなかった。

 体は女っぽくなってきたのにいつまで経っても(日本語に拙い間はよくわからなかったのだが)男口調だし、自分がいくら求婚しても首を縦に振らない。

 カリームには自身が日本人の平均より金持ちだという自覚も、容姿に優れているという自覚もある。同学年どころか学内でも自分を知らない女子はいないだろうし、人気もあると自負している。


 だがテルネは自分にさっぱり興味がないようだった。むしろ上流階級の息女が通うこの学校でもいくらか出てきてしまう落ちこぼれの、オタクの男子と話すことの方を好むらしい。

 あんな知性もウィットの欠片もない会話に、どうして数カ国語を操り芸術に秀でた美姫が夢中になるのだろうか。


「テルネよ」


 わからない。だからカリームは方針を転換した。運良く二人きり――いつもくっついているシスコンの金魚のフンを無視すれば二人だ――になったとき、カリームは声をかける。

 嫌そうな顔で振り向くのも愛おしいとカリームは褒めそうになったが、それをすると逃げ出されるのでこらえる。


「今日の放課後は空いているな?」

「お前らはどうして私のスケジュールを把握しているんだ」


 情報は間違いないらしい。カリームは緩む頬に気合を入れ直した。


「では今日の放課後はオレと一緒になれ」

「は?」

「一緒に来い」


 うっかり一足飛びに求婚してしまったが、カリームは言い直して取り繕う。


「イヤだ」


 テルネにデートの誘いを断られるのは一度や二度のことではない。その原因をカリームは突き止めていた。どうやらテルネは本当に、一般的な女性が行きたがるような場所に興味がないらしい。流行りのカフェに誘っても、女性人気の高い歌手のコンサートに誘っても、彼女のために宝石を散りばめたドレスを仕立てようと誘っても駄目だった。だが。


「オレは反省したのだ」


 今日のカリームの戦略は違う。

 己のことは知っている。

 ならば敵のことをより詳しく知るべきだ。


「テルネ、秋葉原を案内してくれないか? キサマのいうオタクカルチャーに興味が出てきたのだ」


 ◇ ◇ ◇


 今までの苦労がなんだったのだという勢いでテルネが釣れ、カリームは上機嫌だった。例え横に金魚のフンがいたところで、視界と聴覚に入らなければいないのと同じことだと割り切っている。


 そしてテルネも上機嫌だった。あたりをキョロキョロ見回して、ぶつぶつ呟いている。


「この町はどんどん懐かしい形になっていくなあ。あれ、あそこって……そうか、もうUDXの建設が始まっているのか」

「懐かしい?」

「言葉の綾だ。どんどん変わっていくなと言いたかったんだ」


 テルネに多少怪しい言動があったが、カリームは気にしない。デートに際しては些事というものだ。二人にしか分からないアラビア語での会話というのも久しぶりで楽しい。


「で、カリームはオタクカルチャーを知りたいんだったな」

「ああ」


 実際はテルネが何を好むかを知りたいというところであった。


「付き合わせた礼だ、金はすべてオレが出そう。いくらでも好きなモノを買うといい」

「ふうん……まあいいか」

「しかし、人が多いな。歩き辛いぞ」

「ああ、今日は平日だからな。日曜ならホコ天を……まだやってるよな……ホコ天があるから移動しやすいぞ」

「ほう。それでは次回は日曜に来ようじゃないか」

「一人で行けよ? ……で、さ」


 テルネが自分から話しかけてくる。その顔が楽しそうで、カリームは心を躍らせた。


「オタクカルチャーを学びたいって話だけど、きっかけはなんだ? マンガ? アニメ? ゲーム? 何の作品だ? やっぱり似たようなところから間口を広げていくのが王道だからな、恥ずかしがらずに言ってみろよ」

「恥ずかしいことなどキサマの前では何もない」

「そういうのはいい」

「ふむ」


 カリームは辺りを見渡す。大通りには大作ゲームの巨大な看板、美少女アニメのキャラクターのイラスト。様々なものがあふれているが、目的のものは見当たらなかった。


「何を探しているんだ?」

「うむ。セカンドライフだ」

「セカンドライフ……?」

「知らないのか。今経済界で話題だぞ。インターネット上に仮想の経済圏を作るとな。すでに何社か参入して、テレビでも報道されているはずだが?」


 カリームはエジプトの富裕層である。親族は観光事業を主に営んでおり、はっきり言って金には全く困っていない。しかし事業の維持だけを続けるような生き方を一族は良しとせず、カリームらの世代は新しい事業を見つけるため海外に留学させられていた。カリームのホームステイ先は日本でも有数の資産家であり、さまざまな話がカリームの耳に入ってくる。


「ネットゲームと経済の融合だ。オタクたちにとっても好ましいことだろう? アマチュアではなくプロの作ったものが手に入るようになるのだからな。また企業の知名度から新規顧客も呼び込み、ゲームの活性化にも繋がるだろう」


 最新の取り組み。この話題にテルネが食いつかないわけがないとカリームは確信していた。携帯電話でのインターネット利用にも、テルネは早い段階から流行を予言していた。技術とオタク、これがテルネの興味のあることなのだろう。ならばその事業に乗り出そうというのが、カリームの考えだった。そうすればテルネからの評価も上がるだろうと。


「……ということで、セカンドライフでどういう商売を始めるべきかアイディアを得ようと……どうした?」


 そういう計画を話しながら歩いていると、テルネはピタリと足を止め、顔を伏せた。


「……はぁぁ〜……」


 カリームの問いに返ってきたのは、特大のため息だった。


「お前……お前は……お前はオタクのことをこれっぽっちもわかってない!」


 そして叫ぶ。周囲の通行人が、そのよく通る声にぎょっとして目を向ける。だがテルネは一切気にせず、カリームの胸に指を突きつけた。


「いいか、オタクってのはな! 貢ぐのは好きでも食い物にされるのは大嫌いだし、自分たちの場所に空気を読まない権力者が仲間ヅラして入ってくるのはもっと嫌いなんだよ!」

「そ、そうか?」

「商売のために上っ面だけ合わせてくるのなんて秒で見抜くんだよ、馬鹿にするなよ! ……こっち来い!」


 テルネはカリームの腕を掴んでひっぱり始める。普段なら接触に心を震わせるところであったが、その勢いにカリームは何も考えられなかった。


 テルネはどんどんとカリームをひっぱり、裏通りのいくつかの店に入っていく。

 ある店では中古のゲームソフトを買いあさり、ある店ではアニメのDVDBOXの値段に文句を言いながら棚から取り出した。


「金ならオレが」

「ダメだ。それはお前の親の金だろうが。ていうか石油王ってのはな、好きなコンテンツに投資すんのが義務なんだよ。女に貢ぐとか何の生産性もないぞ」

「オレは石油王ではないが?」


 交わした会話はこの程度で、あとはテルネがパッケージを見てブツブツと独り言を言うぐらい。とにかく店を回っていく。


「お、おい、年齢制限があると書いてあるぞ」

「お前は日本人からしたら年齢が分からんから黙ってレジに立て。制服もコートの下だしバレるわけがない。何か言われたらアラビア語で文句を言え」


 故郷では考えられないような扇情的なパッケージの商品もどんどん購入され、持たされる。コメディ映画の荷物持ちのようになってきたが、文句を言える雰囲気ではなかった。


「――こんなもんか」


 テルネの勢いがようやく落ち着いたのは、すっかり日も暮れて、カリームと金魚のフンが抱える荷物が視界をさえぎるぐらいになった頃合いだった。


「おい、カリーム」

「なんだ」


 カリームは荷物の隙間からテルネを見る。彼女はいまだ怒りの表情をしていた。


「今日買ったアニメ、ゲームはな、全部お前にやる」

「……オレに? テルネが欲しいものではなかったのか? それなら金を出す……」

「さっきも言ったがお前が出す金は親の稼ぎだろうが。お前がどういう認識か知らんがな、親の金で無駄遣いするのは屁でもないんだろう。何か買っても気に入らなければさっさと捨てる、違うか?」


 違わないし当たり前だとカリームは考える。捨てる以外にどうしろというのか?


「だけどな、いいか。今日買ったこの『宝物』の金の出処は私だ。私が小さい頃から、一日の大部分の時間を犠牲にして仕事をし、稼いできた金だ。つまりこの宝物を捨てるということは――私の何百時間もの努力を捨てるということだ」

「テルネの……」

「そんなことをしたらどうなるかぐらい、わかるよな?」


 テルネの何百時間をゴミにする。

 それは――許されないことだろう。


 カリームには金の価値がわからぬ。しかしテルネの時間を独占できるのであれば、それは黄金にも等しいものだと、いや、黄金でさえ買えないほど貴重なものだと理解できた。


「だからお前ができることはただひとつ。私が選びぬいた作品を余すとこなく味わい尽くすことだけだ。一分一秒ごとに私に感謝しながら、これらの素晴らしさを理解しろ。……ずいぶん前にゲーム百本クリアしろと言ったが、どうせお前は手をつけていないだろ?」


 図星だった。言われたその日に使用人に言いつけて適当なゲームを揃えさせ、プレイできる環境も整えさせたが、ほんの5分、ひとつだけ触って投げ出した。邪魔だったのですでに処分さえしている。


「だがお前はこの宝物たちは消化せざるを得ない。なぜならこの宝物は私の時間と同義だからだ。もし無駄にするようなら――」


 テルネは凍てついた目つきをする。


「お前との儚い友情もこれまでだな」


 カリームは震えた。テルネが本気であることを理解したから。


「じゃあな。私たちは帰る。荷物? 適当にタクシー呼べばいいだろ。いくぞ」


 金魚のフンを連れてテルネが駅の方へ消えていく。それを立ち尽くして見送るカリームは――



 心のうちで感動に打ち震えていた。



「なんと……テルネとオレの間には友情があったのか?」


 いくら求婚しても首を縦に振らないテルネに、カリームは彼女がまだ自分になんの感情も持っていないのだと思っていた。だからこそ必死にアピールし、日々求婚していたのだ。


 しかし、なんとテルネはカリームに友情を感じているらしい。


 友情があるということは、愛情に変わるまであと少しではないか。


「こうしてはいられん」


 カリームは携帯電話で近くに控えている使用人を呼び出す。すぐに車に乗って帰宅すると。


「愛情を失うわけにはいかない。早速、この『宝物』を理解しなければ!」

応援ありがとうございます。レビューもいただきました。URL貼ってもリンクにならない……レビューのところからぜひどうぞ!

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[一言] トーカちゃんの言葉、オタク歴が長いオイラにとっちゃ刺さりまくりだったわ。 貢ぐ事にゃ後悔しないが、利用されるのは御免被りたいね。
[一言] カリームがドチャクソ·アブラデル氏みたいに即売会に現れたりスパチャ連打してアク禁食らう未来が見えた
[良い点] なんか懐かしい話題がちらほら見えて泣けてきたw
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