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2005年

【蓮向裕子の記録】


「本日お呼びいたしましたのは、お子様のことについてのご相談です」

「はい」


 蓮向(はすむかい)裕子(ゆうこ)はうなずいた。


 双子が通う学校の応接室に通され、今年から担任になったという中年の男性教師と向かい合って座る。この学校は保護者の生活レベルがやたら高く、行事やら何やらで訪問しないといけないとき、いつも服装に困るのが裕子の悩みであった。

 とはいえ今日は個人面談ということで、だいぶ気を抜いたパンツスーツ姿である。


「相談ですが……心当たりはありますか?」

「いいえ?」


 双子が学校から呼び出されるような問題に心当たりはなかった。あの日以来、親にさえ迷惑をかけない手間のかからない子どもになってしまったので、むしろ少し寂しいぐらいだ。


「こちらが二人が今年提出した進路調査票です」


 机の上に二枚の紙片が差し出される。進路希望を書く枠が3つあり、どれも書く手間を省くため、『学部』『学科』が印字されていた。成績に問題なければ大学にエスカレーターできる高校なのだから当然の処置だ。


 そして双子はどちらもその印字部分に取り消し線を引き、就職、と記入している。


「お母様はこのことをご存知ですか」


 裕子は噴き出しそうになるのをこらえた。お母様。この学校の関係者はみなそう呼んでくるがいまだになれない。


「んん。ええ、知っています。進路のことはずいぶん前から説明を受けていますから」

「説明……?」


 言い方がおかしいと思ったのだろう、教師が眉根を寄せるが、説明としか言いようがない。

 小学校受験をしたいと言ったあの日に、それ以降の進路についても大まかに説明を受けている。高校卒業後は就職するというのも聞いていた予定の通りだ。


「とにかく……就職するなんてお子様にとって大きな損失です。今は就職も困難ですし、大学へ進学することを強くおすすめいたします」

「まあ、でも」


 裕子は頬に手を当てる。


「あの子たちの成績ではとても大学でやっていけるとは……」

「お母様はご存知ないかもしれませんが、お子様の実力はお母様の想像以上です。お子様方は確実に、的確に、試験で手を抜いているだけなのです」


 教師は「私が見抜いた」とばかりにドヤ顔をし――


 裕子は「なんでこの人はそんな事情も知らないのか」と首をひねった。そんな話は小学生のころにとっくに済ませている。あの時の担任教師は話のわかる人で、「目立ちたくない」という双子の好きなようにやらせてくれることを約束してくれたのだが……引き継ぎをしていないのだろうか?


 どうもいつもの茶番では終わりそうにないと、裕子は内心ため息をついた。その間、教師はいかに双子が鋭い質問をしてくるかとか、他の教師からの評判を話したりしていた。


「……ということでぜひお母様、お父様からも、二人に進学するように言い聞かせてやっていただけませんか」

「私は二人の意志を尊重すると決めていますので」


 裕子はやんわりと断った。

 おそらく双子は、裕子が希望すれば大学に行くだろう。小さなころから子どもらしくない子どもをやっているだけあって、両親に大きな恩義を感じているらしい。誕生日や記念日は必ず祝ってくれるし、自分たちで稼ぎ始めてからは事あるごとに贈り物をしてくれる。この間は推しのライブチケットだった。まったくもってわかっている。


 そもそもの話、裕子はそこまで双子に恩を着せた覚えはなかった。むしろこちらが礼を言いたいことばかりである。周囲の親世代が言うような子どもに関する不満は一切感じたことがない。なんなら掃除洗濯だけでなく炊事まで自分たちで済ませてしまうし、手のかかることなんて全くない。

 そのうえ夫婦間の隠し事――お互いオタクであることを早々にバラしてわだかまりをなくしてくれた。これが一番大きいかもしれない。おかげさまで夫婦そろって、子育て世代にもかかわらず独身時代と同じかそれ以上に趣味に没頭できるようになった。ストレスなんて全くない。幸せな毎日だ。


 いや、心配事といえば、双子がそもそも未来から戻ってきたという理由――夫に訪れる危機というのがあるといえばあるが……しっかりした双子のことだし、任せていて問題ないだろう。そのうち明らかになるに違いない。裕子はのんびり構えていた。


「いやしかし、ご両親ともに教育熱心だと聞いておりますよ。各語学教室から多彩な芸術の教室まで、いくつもの習い事をさせているとか」

「あの子たちが自分で望んだことですから。私たちが強制したことは一切ありません」


 むしろ減らして休んだらどうかと提案したぐらいだ。


「……ではせめてナルトさんだけでも、考えていただけませんか。お姉さんに影響されて機会を失うのはよくないでしょう」

「ナルトも自分の意志で決めていますから、私たちから言うことは何もありません」


 双子の弟の方はどうも姉の後を追っているように見られがちだが、裕子は理解している。その通りだと。彼は姉の側にいることが幸せなのだ。きっと双子とはそういうものだろう。神秘的な愛。それを間近で見て、けっこうわくわくしている。

 もちろん、いざとなれば自立するだけの能力はあると信頼してのことだが。


「……あのですね」


 スッパリと双子の説得を断り続ける裕子に、教師が少し高圧的な態度をとった。

 この学校はいわゆる上流階級の集まるエリート校である。そのため親もそれなりの地位に立つものが多く、裕子のような庶民が紛れ込むのは例外と言えた。正直なところ教師にとってみれば、教師とその親という立場さえなければ敬語を使う価値さえない相手という認識である。


「お子様たちの実力はクラス内でも薄々感づかれています。成績優秀な生徒が進学しないのでは示しがつかないのですよ」

「はあ。他の子のために我が子の自由意志を無視しろと?」

「いや、そういう言い方は」

「では学校の進学率を考慮しろという話でしょうか?」


 教師は押し黙る。裕子は内心ため息をついた。帰りたい。帰ってライブのDVDでも見ていたい。


「とにかく我が校の生徒としてふさわしいふるまいをですね」

「――あの子たちの有り様がこの学校にふさわしくないのなら」


 双子にはあらかじめ言われている。無茶なことを言われたときはそうして構わないと。


「退学しましょう」

「は? え、いや、それは」

「あまり言いたくなかったのですが、そもそもこちらの授業料は我が家の家計には相当な負担で……あの子たちもそれを察して就職を選んだのだと思います」

「いやいやそれでしたら他の教室をやめれば済む話では」

「こちらの授業料と比べれば雀の涙ですよ。ましてや大学なんて」


 実際のところは別に負担でも何でもない。双子が翻訳サービスで稼ぐようになって数年で、これまでこちらが負担してきた教育費をすべて返済してきた。今双子にかかる出費は、すべて双子の稼ぎから出ている。


「とにかく、あの子たちが望む学校生活を送れないのであれば、ここにいる意味はありません。上司にもそうお伝えください」


 言って、相手がこれ以上動かないのを確認して立ち上がり、一礼して扉へ向かって開けて――


「……お疲れ様」


 扉の外にいた双子と顔を合わせる。

 テルネは不自然な笑顔で何かを背に隠し、ナルトは呆れたような目をそちらに向けている。


 こういうときはテルネが何かやらかしている状態であると、裕子は察した。


「ナルト。テルネは何を?」

「さあ? 僕にはどうして教師との話し合いを盗撮する必要があるのか、なんのお約束がそこに存在するのかさっぱりだよ。確かに評判は良くない教師だけどさ、いったい何を心配していたんだろうね?」

「バカお前」


 慌ててナルトの口を塞ぐテルネの手には、最近発売されたばかりの小型最軽量をうたうビデオカメラがあった。裕子の記憶によれば、10数万円はする。


「ちが、違うんだ母さん。あくまで証拠を押さえるためのもので、まだこの時代はバッテリー容量も小さいし冒頭ぐらいしか録画できないからいざとなってもすぐ踏み込むつもりで」

「……お父さんになんのことか聞いてもいい?」

「申し訳ありません」


 テルネはキレイな土下座をする。大げさな娘であった。


「……まあ、心配してくれたみたいだし、許すわ」


 頭のいい娘のことだ、自分に思い至らない何かがあるのだろう。そう結論づけて、裕子は考えるのをやめた。


「じゃあ帰りましょうか」


 こうしてテルネは稼いできた好感度の大半を犠牲にして、裕子からの制裁を回避したのだった。



 ◇ ◇ ◇



【ルカ・ウラジミルヴィッチ・スミルノフの記録】


 ルカ・ウラジミルヴィッチ・スミルノフは屋上に侵入した。南京錠程度、彼にかかれば合鍵を作る必要もない障害だ。

 ルカは太陽の位置を確認し、姿勢を低くして前進する。校庭を望むフェンスに近づくと、肩に担いだ荷物を下ろす。袋から取り出し、手早く組み立て、スコープを覗く。


 標的は校庭にいる。


 短い髪、化粧っけのない、それでいて凛とした顔。体操着から覗く手足に無駄な肉はなく、スラリと伸びる。


 蓮向テルネ。高校三年生、18歳。家族構成は平凡な両親と鏡写しのような姿形をした双子の弟。


 ルカはスコープを使い、照準をテルネの頭部に合わせる。距離、角度、風向き、風速。それらを計算し引き金に指をかける。弾着までは0.3秒、18フレーム。


「ッ」


 呼吸を殺し――引き金を引く。


 瞬間、標的がこちらを振り向いた。確実にこちらを見ている。足が止まる。


 放った仮想の弾丸は、テルネの背後の地面へと消えていった。


「やっぱりだめ」


 ルカは声変わりを経てなお少女のような中性的な声でつぶやき、スナイパーライフル――のモデルガンを畳んで袋にしまい込み、屋上から静かに姿を消した。 


 ◇ ◇ ◇


「お前、アレいい加減にしろよ」


 昼休みのカフェテリア。双子を中心としたグループは、毎日その一角の決まったテーブルで昼食をとっていた。五ヶ国の人間が集まるグループは校内でも珍しく、またそのうちの誰もが人の目を引く容姿をしているため、逆に近寄りがたい雰囲気を作り上げている。

 その中心にありながらそういったことに無自覚な少女――テルネは、行儀悪くおにぎりを頬張りながらルカに文句を言った。


「あら、何かされたんですか? テルネさんも愛されていますね」


 妖しく笑うのはインドネシア出身の華僑、ラトナ。長い髪を耳の上にかきあげながらティーカップを持ち上げる仕草は、貴婦人のような印象を周囲に与える。


「もちろんオレもテルネを愛している」

「黙れ変態」


 天然パーマが額の上にまとまってリーゼントのようになっている男子は、エジプト出身のカリーム。学内の女子からは石油王のようだともてはやされているが本人は石油王ではないし、このグループ内ではテルネが先ほど一蹴したような扱いである。


「いつものって何、何?」


 最近は長くなったブルネットの髪を大きなポニーテールにまとめているフランス出身の娘、ヴァレリーがそれを振り回しながら言う。明るい性格に美しい容姿だが、考えが足りない。ポニーテールが隣に座るテルネの双子の弟、ナルトの顔面を叩いている。


「狙撃ごっこだよ」


 テルネは顔をしかめて言い、物を咀嚼しながらルカに指を突きつける。


「こいつ最近BF2にハマッて、それでFPS脳になってるんだ。今日も屋上から芋スナのマネしてきやがって」

「芋……?」

「待ち伏せするスナイパーってことだ。体育の時間に屋上からモデルガンで照準あわせてきやがった」

「そんなことが……? 本当ですか、ルーニャ?」

「本当」


 ルカは頷いた。

 Battle Field 2というFPSゲームにハマッているのも本当だし、FPS脳も否定はできない。


「完全に当たるタイミングで引き金を引いた。けど、避けられた」

「……モデルガンの持ち込みを? どうやって?」


 曲がりなりにもエリート校であり、セキュリティはある。モデルガンの持ち込みをラトナが疑問に思うのも当然だった。


「フッ、それについてはオレが助言してやった」

「楽器ケースの中に隠せばバレない」

「お前ら……」


 カリームは最近話しやすくなった、とルカは評価している。ゲームの話もよくしている。このアイディアは何かのアニメからだと聞いていたが、そちらにはあまり詳しくないルカだった。


「まあ、それはいいとして。テルネさんが避けたというのは……?」

「弾道計算して当たるタイミングで撃った。でも避けられた」

「それは偶然では……」

「じゃない。こっちを見られた」

「……どうやって?」

「殺気を感じたからな」


 こともなげにテルネは言う。


「殺気、ですか?」

「説明しづらいんだが、ルーニャが私を殺そうとした意志を感じたってところだ。変な道場に通ってるうちに身についた」

「なんですかそれ……」

「すごい! かっこいい!」


 ますますかなわなくなった、とルカは考える。


 テルネと初めて会ったあの日、ロシア語で話しかけられて彼女を祖国のスパイと判断し、ルカは制圧を実行した。軍人の家に生まれたルカは頭のおかしい祖父からすでにさまざまな技術を仕込まれており、同級生の小学生ぐらい簡単に抑え込めると思っていた。例え2対1でも。

 しかし制圧されたのはルカだった。仕掛けたつもりがいつの間にか地面に叩きつけられ、関節を極められていた。それからテルネが誤解を解くまで、ルカは死を覚悟して床をなめていた。


 その後、ルカはことあるごとにテルネの暗殺を計画した。子どもに負けたなど祖父には言えない。だから存在を消して事実を抹消しようとした。しかし数回の試みで現時点での可能性を見いだせない結果となり、それからはテルネの近くで彼女の隙を探し続けている。


 それが本来の目的を忘れたのはいつのことか。いつの間にか、ルカはこのグループの中で笑うようになっていた。


 しかしここ2年、ルカの心は落ち着かない。それが最近のテルネ狙撃シミュレーションに繋がっていた。


「ルーニャさん、なぜそんなことをしたのですか?」


 問われれば、つい答えてしまうぐらいには追い詰められている。


「……テルネ。進学せずに就職するのは本当?」


 この学校の生徒の大半は進学を選ぶ。それ以外の道を選ぶのはよっぽど家の事情が変わったか、成績が不良のものだけだ。テルネの成績は学年の平均を行っているが、本気を出せばトップになることぐらいこの中の誰もが確信していた。そもそも、平均の時点で進学には何の問題もない。


 だからこそ、ルカはなぜテルネが就職を――自分たちと離れる道を取るのか理解できなかった。この就職氷河期と呼ばれる時代に。


「何度も言ってるだろ。私は特に大学でやりたいこともないし、学歴も必要としていない」

「オレの嫁になれば当然のことだな」

「ならん。就職するって言ってるだろうが」

「けれどよく考えてみれば不思議ですね? テルネさんは翻訳サービスで起業しているのでしょう? 十分な収入もあるようですし、改めて就職しなくてもよいのではありませんか?」

「起業はしてない。法人は作ってないからな。あれは個人事業だ」


 テルネはため息をつきつつ説明する。


「日本で個人事業主っていうのはフリーターも同然でな。クレジットカードの審査も通らなければ、ローンを組むこともできない。いわんや、家を買うなど」


 初めて明かされたテルネの計画に、質問が殺到する。


「翻訳事業を法人化すればよろしいのでは?」

「え? 家? テルネ、引っ越しするの!? ヤダヤダ!」

「なんだ家が欲しいならいくらでも買ってやるぞ」


 両耳をふさいでその嵐に耐えたテルネは、ゆっくりと語りだす。


「翻訳サービスの法人化はしない。今後機械翻訳の精度が上がることは目に見えているからな。本業にするつもりもないし適当なところで切り上げる。で、ヴァレリー、お前に住居の指定をされる気はない。どこに住もうと私の自由だろうが。あとカリームは自分で稼いでから言え」


 テルネはルカの顔を見る。


「ルーニャ。なぜ私が就職するのを気にする?」

「テルネと……一緒にいたい」


 ルカは答える。


「大学にいけばもっと一緒にいられる」

「一緒にっていつまでだよ? 大学に行ったところでプラス四年だぞ。その後はどうするんだよ」

「ならぼくが同じ会社に就職」

「構わんが社会人としてローンを組むまでしか所属しないぞ。たぶん一年たたんうちに退職する」

「なら一緒に住む」

「迷惑だ。いつまでくっついてくるつもりだ? お互い別々の人生があるだろうが」

「なぜ――」


 ルカは短く問う。


「――テルネは、ぼくたちを遠ざけようとする?」


 テルネが口をつぐむ。他の三人もテルネの顔を静かに見つめた。

 テルネは人を寄せつけようとしない。誰と接するときも線を引いて対応している。このグループの中でさえ。ルカにはそれが理解できない。


「どうして――」

「私には人生をかけた目標がある」


 テルネが語るその顔は、ルカが初めて見る表情だった。


「そのためにこれまで努力してきた。すべてはそのためだ。本当なら――お前たちに関わるつもりなんてなかったんだ。目標のためにはお前たちは必要ない。だから教師から世話を頼まれても、適当なところで放り出すつもりだった。だから……そうするだけだ」


 ルカにはテルネの瞳が潤んでいるように見えた。


「人それぞれに人生ってのがあるだろ」


 ズッ、と鼻をすする音がカフェテラスに響く。テルネ……じゃなかった。ヴァレリーだ。


「……その目標を私達が共有することはできないのですか?」

「駄目だ。目標を達せられなくなる。内容も明かせない。だから……高校を卒業したら、お前たちと会うつもりはない。……すまない」


 ルカは知っている。テルネは一度決めたことはどうあっても曲げないことを。


「もっとハッキリした態度をとっておくべきだった。本当にすまない」

「フン、何を。甘いテルネが非情になれるわけがなかろう」

「お前に関しては一切未練はない」


 カリームは余裕の笑みで肩をすくめる。


「テルネェェ……! 離れ離れなんてヤダよお!」

「いやお前も大学行かないよな?」

「そうだけどぉ!」


 ヴァレリーは成績が足りなくて進学できない組だった。テルネが大学進学を選んでいてもバラバラになる。


「……なんか水をさされたが、とにかくだな……これまでつるんできたことには、まあ感謝している。退屈しない学生生活だったよ。けれど人間、いつか必ず道を別にする日が来るだろう?」

「結婚したら別れないが?」

「黙れ変態。えーっと、とにかく、それが少し早いだけだと思って納得してくれ。私は目標を諦めない。譲る気はない。お前たちには理解してくれと頭を下げることしかできないんだ」


 ヴァレリーがグズグズと泣き、ラトナとカリームは余裕の表情で「好きにしろ」と言う。ナルトは我関せずとばかりに紅茶を飲んだ。

 ルカは――


「なあ、泣くなよ」


 席を立って近づいてきたテルネに頭を撫でられる。


 ルカが座っていてなお、テルネは腕を高く上げて。


「まったくお前は……図体だけはでかくなっても、他はずっと変わらないな。ちゃんと食べてるか? ガリガリじゃないか」


 出会った当初は誰よりも背が低く、ことあるごとに抱きしめられていたルカ。今や誰よりも背が伸びて、抱きつかれる側になった。

 座ってうなだれた自分の頭をこうしてテルネが抱きしめてくれるのは、いつぶりだろうか。


「卒業まであと半年あるだろうが」

「半年しかない」


 それにテルネは忙しい。語り合う時間はもっと短い。


「学生時代の半年なんて永遠さ」

「……永遠にするには殺すしかない」

「ハッ。それが狙撃ごっこの理由か? いいだろう、やってみろ。いくらでもかかってこい」


 テルネは不敵な笑みを浮かべる。


「いくらでも返り討ちにしてやらあ!」


 その笑顔を見て、ルカは心を決めた。



 ――よし、本気を出そう。

応援ありがとうございます。明日も更新します。

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― 新着の感想 ―
[一言] うはぁ…これは何とも新しい。 主人公には鋼鉄の筋が一本通ってますな。 友人達?はどうなっていくのか慌てずに読み進めたいと思います
[良い点] VTuber文化を一から再構築するという発想とその実行が非常に基層的な面からであることが非常に面白く思いました。まだ物語の時代背景的にはYou Tubeができたばかりの頃ですが、今後がなん…
[気になる点] いわゆる「リーゼント」と呼ばれる髪型の あの額のトサカ あれはポンパドールという名前だそうです (後頭部の中央に向かい撫で付けたあれは「ダックテール」だそう) まあ日本語ではまとめて…
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