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花に寄す/いにしえの薔薇・1

グラナドが王都に帰り、義理の姉であるクラリサッシャ女王に対面します。王族特有のゴタゴタの中、グラナドの花嫁選びの話題も進みます。


いにしえの薔薇、とは、オールドローズのツルバラです。

新書「花に寄す/いにしえの薔薇」1


コーデラ王家の紋章は、ツルバラとオリーブの葉だ。王都コーデリアは、聖女の都、とも呼ばれている。


古い都というのは、30年程度の年月では変わらないが、クーデターの爪痕はまだ残っていた。二年、ということを考えれば、早い復旧ではあったが。


新しく白い建物が並ぶところもあれば、古いセピアの建物が残る所もある。外側から内側に向かって白くなるかというと、必ずしもそうではなく、商店街に新しい建物が目立った。

(壊しやすい所から、先に壊した、という訳だろう。)


クロイテスが迎えにきて、王宮までの道は、グラナドは魔法動力のではなく、儀式用の古式な馬車に乗り、騎馬の騎士団が囲んで進んだ。グラナドは時々、歓声に窓から手を降っていた。俺とファイスは同じ馬車にいた。ミルファ達は、後続の馬車に乗った。俺はあまり顔を見られないほうがいい、とまでは行かないが、騎士に混ざって騎馬で進むのも憚られた。ホプラスの時と違い、正式な騎士ではないからだ。ファイスは、馬のほうが落ち着くんだが、と小声で言っていた。

王宮に着くと、魔法院の副院長のヘドレンチナ、クロイテス夫人のシスカーシアなど、グラナドに近い人々が出迎えた。シスカーシアは幼少期の、ヘドレンチナは少年期の、グラナドの「先生」だ。

(グラナドは、院長のミザリウスの事は呼び捨てだったが、彼女の事は「ヘドレン先生」と呼んだ。)

クラリサッシャ女王は、神殿から広間に向かう最中ということで(何かあったらしい)、しばらく合間が出来、彼女達から、現在の様子を簡単に聞いた。

王宮の西側は、まだ修復中なので、グラナドが滞在するのは東の棟になる。クーデター時は王宮は改築を進めていて、西は国王一家の住居、東は来賓用のスペースだが、執務室や会議室のある中央と共に、先に修復して、西は一番後回しにしていた。

クラリサッシャ女王は、昼は中央の執務室にいるが、夜は神殿まで戻るそうだ。

グラナドが東棟に入り、ザンドナイス公はリュイセント伯の屋敷に、カオスト公は「オーダ伯爵」の屋敷に滞在する。

オーダ伯爵家は、今のカオスト公の生家で、先代は晩年、彼をを養子にした。先代から見て、母方の身内に当たるが、今は途絶えている。カオスト公の従兄弟にあたる男性が継いでいたが、子供のいないまま死亡した。その妻は、ラエル伯爵(当時は男爵)と再婚したが、庶民出身の女性で、再婚の条件が、前夫の遺産の放棄だった。

後からこれが問題になり、もめた末に、ラエル男爵家が伯爵領の一部を継承して伯爵家となり、他は、カオスト公が管理している。数奇な伯爵夫人は、今は故人だが、ラエル家には、娘が二人いるため、将来はどちらかがオーダ伯爵となるかもしれない。

実質、今は、オーダ伯爵の屋敷は、伯爵が空位のため、カオスト公の屋敷の一つ、と見なされている。

「公爵は、一昨日、ようやく領地から戻ってきました。エクストロス様は領地です。シラルの、タニアス海峡の橋の工事の件です。混乱で中断していましたが、ようやく再会したということで、公爵様ご本人は、行ったり来たりです。」

ヘドレンチナが淡々と説明した。シェードが、小声でレイーラに、

「タニアス海峡って、あれ、姉さんの?」

と尋ねていた。レイーラは、

「ええ。…きちんとした橋が出来るなら、いいことだわ。」

と答えていた。シスカーシアがこれを聞き、

「貴女は、あの時の担当の方たですか?」

と尋ねた。レイーラは、

「はい。僅かですが、お手伝いさせていただきました。」

と返事をした。カッシーは、「ああ、あのお話ね。」と言い、ミルファとハバンロも、理解した様子だったが、ファイスは、当然、知らないようだった。

グラナドが概略を説明した。

「カオスト公爵の領地は、あちこちに点在しているんだが、ラッシル側に入り組んだ、港町のシラル中心の区域が、最北になる。そこから、ラッシル領のサイベラ半島を経て、北のキャビク島方面に向かう陸路を伸ばす計画が、昔からある。

陸路と言っても、最後は転送装置なんだが、安全確実な距離まで、陸路は『詰めて』おかないと。

その工事の時に、事故があった。救助のために、神官を派遣した事がある。」

キャビク島は、カオスト公の管理下だが、それだけではなく、昔から、島民や行政に、根深い対立がある。もとはテスパン領で、クーデターの時に、カオスト公の統治を巡り、紛争が起きた。それは直ぐに治まったが、その時に、ソーガスの家族が、激化した争いの中で、亡くなっていた。

いわゆる離島の問題点の解消は必要だが、他の意図を疑ってしまう。

エクストロスは、まだ十歳かそこら、領地に一人いても、監督にはなるまい。グラナドの居ない間、積極的に売り出し中と聞いていたが。

「キャビク島は、そこまで田舎でしたかなあ。」

とハバンロが言った。ミルファは何も言わなかったが、心配そうな顔をしている。

「残念だな。エクストロスにも会いたかったが。」

と、グラナドは、別に皮肉でもなく言った。

「真面目に、エクストロス本人は、はきはきした、礼儀正しい子だからな。家庭教師中心の教育で、昔は、あまり表には出てこなかったから、ほぼ接点はなかったが。」

「あら、学校は、行ってなかった?」

とミルファが聞いた。

「最初は、タッシャ叔母様が、騎士の養成所か魔法院の学校に入れたがったらしいが、両方とも、魔法力が規定に足りなくて、実現しなかった。騎士は、魔法官に比べたら、剣技の訓練次第で、魔法剣はカバーできる面があるし、公爵の跡取りなら、エキスパートになる必要はない。だけど、ようやく『お預かり』が禁止されたばかりだったし、身内だから特例というわけにはいかない、と、公爵が辞退した。本人は、『大人になったら、オペラ座に出たい』なんて言ってるくらいだった。

結局は、自宅に講師を呼んでいた。音楽も含めて。」

ファイスが、「お預かり」とは何か、と聞いたので、グラナドが簡単に説明した。続いて、禁止の経緯も付け加える。

「『お預かり』で入っても、それで有利になることはないし、あまりに成績が悪いと、卒業出来ても、騎士にはなれない。特別扱いはされないから、別に実害はないんだが、父様は、そういうのが嫌いで。

国王でも、慣習があるから、好き嫌いでどうこうは出来ないんだが、『入学に試験を行う、総ての教育機関は、公立私立を問わず、入学試験の基準と、合格者の成績を明らにせよ。』という法律を作った。

私立の場合は、基準に『その他、責任者の判断による』と入れておけば、問題はないが、高等教育を行う機関は、まず公立だからな。」

俺は、「お預かりが嫌い。」という下りで、そっとクロイテスを見た。彼は俺の視線に気づかなかったが、苦笑と言うには厳しい顔をしていた。

複合体の時の、水の宿主、キーシェインズ。「最後の武人戦争」の立役者、ハープルグ将軍の孫で、ホプラスやクロイテスの同期の「お預かり」だった。

水の宿主になってからした事もともかく、養成所時代から問題行動が多かった。「お預かり」でも、立場を理解して、真面目に振る舞う者もいるが、彼は異なった。

ルーミにとっては、「譲れない」所だったんだろう。

話していると、騎士が呼びに来た。オネストスだった。女王付きになったらしい。(ソーガスの言った、『新しい女性に捕まって』は、この事だったようだ。)

彼は、再会の挨拶をした後、女王の意向を伝えた。

「広間でお会いする前に、執務室の方にお越しいただきたい、と仰せです。皆様もご一緒に。」

グラナドが、急に緊張し、承諾の返事をした。俺に、「離れないように」と小声で素早く言うと、先に立って進んだ。

今まで、クラリサッシャ女王に関しては、あくまで神官としての立場を全うしたく、グラナドが王位につくべきだという考えで、即位も「仮」としていた、という話を聞いている。グラナドを王位に、という考え方なら、「味方」だ。

しかし、一度女王になって、うまく治まっているものを、わざわざ覆してまで、と言うことになれば、どうだろう。グラナドは今は歓迎されているが、一時的に死亡の噂が流れた後だったから、という側面もある。

「考えても、仕方ないわよ。」

とカッシーが言った。思わず振り向いたが、女王との対面に、緊張したシェードに、かけた言葉だった。

かくして執務室についた。中は、昔より、広く感じた。装飾が簡素になり、「同じ部屋」の面影はなかった。

部屋の中央には、「同じ人」がいた。

柔らかいプラチナブロンド、空色の瞳。優雅に微笑むディニィが、そこにいた。

服装こそ、現代的な、直線を活かしたシンプルなものだが、神官と一目でわかる立ち姿の女性。

クラリサッシャ女王、その人だ。

グラナドを見た時、ディニィに似ている、と思ったが、彼女は、髪と目の色もあり、より似ていた。母親のバーガンディナ姫は、きりっとした感じの人だった。ディニィと、兄のクリストフ王子が父親似、バーガンディナ姫とイスタサラビナ姫が母親似、と言われていた。クラリサッシャ女王の父親は、バーガンディナ姫の父方の従兄弟だった。その組合わさった影響が、容姿に強く出たのだろう。

「ピウストゥス。」

と、優雅な声で呼び掛ける。声は、ディニィより低く、メゾだったバーガンディナ姫に似ていた。(昔聞いただけだったが。)

「こちらに、いらっしゃい。」

と、笑顔で言われたが、何故か、グラナドは、進もうとしない。一気に増えた緊張が見てとれる。

「グラナド。」

もう一度、名を呼ぶ。今度は、愛称で。しかし、次には、愛称とは縁のない、厳しい声が響いた。

「こっちに来て、ちゃんと説明しなさい。二年分、勝手にふらふらしていた言い訳が、山のように、あるでしょう。」

口調は優雅なもの、声の響きも優しかった。顔も笑顔に戻っていた。


目元以外は。


そう言えば、かなり勝ち気な女性、と聞いていた事を、呑気に思い出していた。


「まったく、アリョンシャから事情を聞くまで、本当にてんてこ舞いだったわ。」

「ヘイヤントは貴方に好意的な都市なんだから、参加すれば良かったのよ。敵から追われて逃げる時に、石橋の欄干に、ほんのちょっと傷があるからって、渡らない人がいますか。」

「子供の頃の、ブーメラン競技を思い出すわねえ。貴方が投げたのは、何故か戻って来なかったわ。」

クラリサッシャ女王は、立て続けに、グラナドに文句を言った。グラナドは相槌くらいしか打てず、手詰まりだった。

こんなに小さくなっている、というか、恐縮しているグラナドは始めてだ。女王については、以前、確か、「産卵期のファイアドラゴンに匹敵する」と言っていたが。

ひとしきり、手早く喋ったサッシャ女王は、自分から、

「他は後でもいいわ。」

と打ちきり、

「これから広間で、皆に会うから、覚悟してね。」

と微笑んだ。今度は、目元も笑っていたが、グラナドは笑うどころではなさそうだ。女王は、

「今さら、お断りするのもなんですが、皆さんにも、一緒に来ていただきますから。」

と、俺たちに言った。俺、ハバンロとミルファは、直ぐに、「畏まりました」と慣れた挨拶をしたが、後は驚いていた。俺は騎士時代の習慣で、疑問に思わなかったが、考えて見れば、一介の「旅仲間」が、公の席で王子に随行する訳だ。だが、グラナドの祖父のクレセンティス十二世に会った時も、似たようなものだった。(それでも、国王の前に出たルーミは、緊張し、少し絨毯につまづいていた。)

「あの、すいません、女王陛下。」

シェードが、慌てて、しかしなんとか平常な声を出して言った。

「いきなりすいません。俺達…俺は、こういうの、始めてで、その、変な真似したら、グラ…殿下に悪いし。」

珍しく、弱気になっているようだ。

「それは心配ないわ。広間には、入れる人数も限られているし。緊張する雰囲気ではないし、お祭りみたいなものよ。」

と、女王は気さくに笑った。シェードはほっとしたようだが、

「せいぜい、騎士と魔法官と議員と、伯爵家の代表くらいだから。」

との笑顔に、絶句していた。


広間には、女王の言った通り、大勢が集まっていた。貴族は伯爵以上しかいない、と聞いたが、男爵家の、見知った顔もちらほら見えた。

グラナドは女王の後から進み出た。ミルファとハバンロも、勇者の子孫かつ幼馴染みということもあり、直ぐ後に続いた。顔の売れていない、残りの俺達は、その後だ。王座から見て、右手側に立った。

グラナドが不在を謝罪し、代表で話しかけたオルタラ伯爵(議長)に労いの言葉を駆けた。ザンドナイス公(健勝な方だったが、やはり老いは刻まれていた。)が、ディジー王女を伴っていた。婚約者のヴェンロイド男爵の次男は、一緒に来ているようだが、この場にはいなかった。

ディジー王女は、泣きながら、グラナドの無事を喜んだ。金と茶色の斑な髪(珍しい色合いだった。)に、目は青いようだが、グレーに見えた。そばかすが目立つが、色白ではある。顔立ちは、口元はバーガンディナ姫に似ていたが、後は父親に似たようだ。


そして、カオスト公爵。


先代のイメージから、居丈高で、いかにも遣り手な、強烈な政治屋タイプを想像していた。だが、予想は外れた。やせ形で上背があり、政治屋のような面は欠片もない、むしろ学者か教師のように見える。親子だけあり、ユリアヌスの面影がある。

「殿下、ご無事で何よりでした。」

そう言う声は、穏やかで礼儀正しい。なんとなくだが、歌が上手そうな声だった。

「ようやく揃いましたな。」

とザンドナイス公が言った。微妙に棘を感じる口調だ。カオスト公は、王都と領地を行ったり来たりしていて、ミルファをシィスンに行かせて、グラナドを遠ざけようとした所から、「揃う」のを避けている、と見なしていた。そのため、「中身」が入れ替わるなどして、グラナドに看破されるのを避けている、とも思っていた。

グラナドとは、対面の時に合図を決めておいた。中身が入れ替わってるなら、右手で、でなければ左手で、耳にかかる髪に触る、というものだ。俺の視線に気付いて、上げた手は左だ。

「一同揃った宴も久しぶりですね。明日は前庭を解放しますが、ダレルのアトリエの回りは、縄を張らなくては。一仕事だわ。」

と女王が言い、一同が笑ったが、グラナドは驚いた。俺達もだ。

「ダレル画伯、戻っているのですか?」

と、グラナドが女王に尋ねた。

「ええ。貴方がゆっくり戻ってきたお陰で、ラッシルから連れ戻す間がありました。」

また一同が笑う。

「西の回廊にあった、勇者集合図を修復しているの。取り外してあるから、回廊は、今、星の天井が見られるわ。

落ち着いたら、会いに行ってあげて。でも、画伯の事だから、仕事中は、貴方が脇で花火を上げても、聞こえないかもしれないわ。」

またひとしきり笑い声が響く。

最後に、グラナドは、言葉を促された。

いきなりだが、予想はしていたろう。少し考えてから、広間を真っ直ぐ見て、朗々と話だした。

「長らく留守をしてすまなかった。父の…前王の事は、私にも皆にも、容易に忘れる事はできない、悲しい出来事だ。

私は、遠く及ばないが、女王陛下をお助けしていく事を約束する。それが、私に、神が残してくれた、唯一の物だ。」

明るい拍手が沸き起こる。女王とザンドナイス公爵は微笑み、ディジー王女と、シスカーシアは涙ぐんでいた。

お開きになった後、女王と俺達、クロイテスとヘドレンチナは、女王の執務室に戻った。明日の予定を確認するためだ。その時、ヘドレンチナが、

「『ロサヴィアン』誌が少し気になりますが、ご立派なお話しぶりでした。苦手でしたのに。」

と言った。俺は思わず「えっ」と言って、注目を浴びた。ロサヴィアンの名は久しぶりに聞く。28年前は、真面目な席には出てこないタイプの誌面(つまりは醜聞専門)だった。よく、ホプラスとルーミとの、大袈裟に話を盛った記事を書いていた。まるごと信じる者もおらず、俺達が抗議した事はない。俺達よりバーガンディナ姫やイスタサラビナ姫のほうが派手な記事を書かれていたので、王室が何度か抗議した事がある。

「失礼しました。あまり真面目な記事を書くとは思えなかったので。」

と言い訳した。グラナドが、

「今は真面目かな。過去と比較しての話だが。」

と説明し始めた。

「記事が遠因で、悲惨な事件が起こってね。ラエル家の長男が、一般市民の女性と婚約した時に、『堅物貴族の女性遍歴』と題して、記事を乗せた。

婚約が正式発表前で、名前ははっきり書かれていなかったが、王都住まいなら、誰か直ぐに解る記事だった。

記事自体は間違いではなかったが、読みようによっては、異母妹も恋人の一人、ととれなくもなかった。実際、皆が飛び付いたのはそこだ。

結局、婚約は壊れ、妹は自殺未遂、本人は婚約解消の直後に行方不明。婚約者は…どうなったかな。王都は出た。

しばらく争ってたが、最終的には、和解した。和解の条件は、『内部の総換え』だったが、責任者と記事を書いた記者がクビになって終わった。

王都暮らしでも、ほぼ忘れてるだろう。」

最後の一言は、元騎士という設定で、王都の最近に疎い俺の発言を、弱めるためだろう。我ながら迂闊だったとは思う。

「ちょうどいいわ。ラエル家の話が出た所で。」

と、女王は、俺の発言に不信感を持たなかったようで、話を引き継いだ。安心したが、続く、

「明日のパーティでは、ラエル家の姉妹が積極的に出ると思うけど、同情から面倒な相手は、選ばないようにね。綺麗な子達だけど、貴方の好みじゃないから、まずないでしょうけど。

貴方の意思は優先するけど、未来の王妃に適当かどうかを考えて選らんで。」

に、俺は再び、「えっ」と言った。

レイーラは「まあ。」、カッシーは「あら。」、ハバンロは「ほう。」、シェードは「へえ…。」と言った。ファイスは、目で驚いただけだった。

「出来ればシシウス大隊長のご令嬢か、セディアス男爵家の上のお嬢様か、ザンドナイスの大叔父様が面倒を見てる、パンテオ男爵の姪の…。」

「待ってください。」

グラナド、ミルファ、俺が同時に遮った。

三人は顔を見合わせ、ミルファが紅くなった。女王は、微笑みながら、

「もちろん、貴女なら大賛成だけど、ミルファ。」

と言った。

「でも、まだ考える所があるでしょう。コーデラは今、復旧中には代わりないし。

グラナド、貴方も、今すぐ誰と決めなくてもいいけど、これからは、そういう積もりも、充分に持っていて。

適当かどうかわからないけど、『税金は毎年払うもの』というでしょう。納めなければいけない物は、納めるべき時期は外せないのよ。

一度受けた王位を譲るには、貴方が結婚して、後継者を確保していたら、話が進めやすいから。」

ここで、女王の、さらなる笑顔を見た時、俺は、

「一本取られた。」

と思った。いずれは、と思っていた問題が、いずれ、では無くなった。

グラナドは、はっきり返事をしなかったが、クロイテスが、東宮殿の様子が、そろそろ整ったでしょう、と助け船を出した。女王は、

「長く悪かったわ。夕食まで、皆、休んでちょうだい。」

と切り上げた。俺達は、順次退出したが、グラナドだけは、

「貴方は少し残って。」

と引き留められた。


閉まる扉が、超越界とワールドを繋ぐゲートのように見え、俺は暫しぼんやりと見つめていた。



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