飲みすぎました
―――1時間後
「刻也、おい刻也、大丈夫か?」
「……んー。大丈夫だって言ってんらろ、うるしぇーなー」
「呂律回って無いぞ。つか、座敷だからって横になるなよ。仮にも、そこそこ大手の会社の社長様なんだからさ」
「うっせーやい。どうせ誰も見てねって」
「ほらご覧。あそこで子供が、憐れんだ目でお前を見ているよ」
「見てんじゃねぇガキー。見世物じゃねんだぞ、大人はみんな、こんなだからな。お前もこうなるんだからな」
「大丈夫だよボク。世の中、こんな大人ばかりじゃないからね。将来に絶望しちゃダメだよ」
「何言ってんだよ、絶望は早めにさせた方が良いだろうがよー。どうせ世の中こんなだぜ。俺なんかさー、毎日毎日、社員たちからの暑苦しい眼差しの中でさー、期待に応えるために頑張ってんだからな」
「それは大変だな」
「そうなんだよ大変なんだよ。でも大変って言えないんだよ。だって俺仕事できるし、外面良いし、それに社長じゃん? 弱音なんか吐けるかよ。だから疲れるんだよチクショウが」
「それならさ、周りに頼ってみれば良いだろ、たまには」
「何言ってんだアホ! そんなんだからお前は……あれだよ、あの……ほら……あれだよバカ!」
「続く言葉が思いつかないなら言うなよ」
「それに、本当の自分とかよー、見せたくねえっつーか。見せて拒否られたら、俺どうするよ? 生きてけねーよ」
「そうか?」
「みんなみんな、お前みたいな良い奴ばっかじゃねえっつーの。猫被った俺だけを見て、それが俺の全てって思って、少しでもイメージと違えば、あなたってそんな人だったんだって引かれてよー。うぜえよ、お前は俺の何を知ってんだっつーの」
「確かにな」
「ま、でも結局、全部自分のまいた種だってのは知ってんだけどよー……だから、自分以外の誰も責められねんだよ。だから余計につれえの」
「そうか……」
「うっ……ううう……ぐすっ……」
「なっ。刻也、お前泣いて」
「ああ? 俺が泣くわけねーだろバーカ。これは涙じゃなくて、酒だっつの」
「ったく……そうだな、酒だな。ごめんごめん」
「おや、来栖さん、大丈夫?」
「ああ大将。ごめんね、こいつ酒弱いんだ。まだビール2杯しか飲んでないのにコレだよ」
「え、2杯でその泥酔具合なんだ。タクシー呼ぼうか?」
「うん、お願い」
「そう言えば来栖さん、さっき何か叫んでいたみたいだけど」
「ああ……こいつさ、自縄自縛なところがあって。変に着飾らなくたって、十分立派なやつなのによ」
「大好きなんだね、来栖さんのこと」
「はは、照れるからやめてよ大将。……でも、刻也とは切っても切り離せないっていうか……大将と、大将が頭に巻いてるそのタオルみたいな関係なんだ」
「うーん……分かるような、分からないような」
「そう言えば大将って、いつも頭にタオル巻いてるよね。やっぱり、汗かくからなの?」
「それもあるんだけどねえ。……頭にちょっとした怪我があってさ、それを隠すためでもあるんだよ。……あ、そんなことより、来栖さんの連絡先教えてもらえないかな?」
「ん? 何で?」
「さっき、話を途中で切っちゃったからね。来栖さん、その話すごく聞きたがってたみたいだし、後でゆっくり話そうかと思って」
「そういうことか。うん、いいよ」