「中は見せられない」
マンションに到着し、最上階へと上がるエレベーターの中。他に誰も乗っていないので、俺はいつも通りの声量で福井に話しかけた。
「そういえばさっきは、普通に1人で部屋に行かせてしまって、すまなかった」
「え?」
「強盗が怖いから私の家に泊まると言っていたのに。念の為、部屋まで一緒に行けば良かったな」
怖がっている様子が微塵も見れなかったので、そこまで気が回らなかったが。昨日、強盗犯と遭遇したばかりなのだから、多少なりとも怯えていただろうに。福井に何かあってからでは遅いのだ。このマンションに来るまでのタクシーの車内で、俺はそれをずっと後悔していた。
「いえ、そんな。少しの時間でしたし、何かあればすぐ社長に助けを求めるつもりでしたから、大丈夫ですよ」
「そうか? でも、もし家に帰る必要があるときは、声を掛けてくれよ。私も付いて行くからさ」
「あ……。そのお気持だけで充分ですから」
何故か気まずそうに目を逸らす福井。遠慮しているのだろうか。
「ところで社長のお部屋は、どこなんです?」
エレベーターを降りながら、福井はそう訊いてきた。
「一番奥の部屋だ。重い荷物を引かせたままで悪いが、もう少し頑張ってくれ」
「ああ、お気になさらず。このキャリーバック、見た目ほど重くは無いんですよ」
「ん? そうなのか」
確かに、大きいのに軽々と引いている。中に何が入っているんだろう。