ラッキーとアンラッキー
「社長、最近起こっている強盗事件のこと、ご存知です?」
「ああ、ラジオで聞いた。私が住んでいる近くでも被害があったらしくてな」
「僕、その犯人と昨日会いました」
ラーメンが喉に詰まりかけた。
「な、何だと?」
「昨日は珍しく仕事が早く終わったんですけど、マンションに帰ってドアを開けたら、人の気配がして。僕、一人暮らしなのにおかしいなと思って、恐る恐る中に入ったんです。そしたら男が立ってて、ニュースでやっていた、強盗犯の特徴と一致していました」
「それで、どうしたんだ?」
「どうしても盗られたくないものがありましたから……近くにあった傘を振り回して襲いかかったら、窓から逃げていきましたよ」
「すごいな」
可愛い顔して、意外と度胸が据わっているんだな。
「警察には?」
「行ってません。確認したら、何も盗られていませんでしたし。大事にもしたくなかったので」
「だとしても不安だろう」
「そうなんです。マンションのセキュリティーは万全なのに侵入されて。もしまた侵入されたらと思うと、怖くて怖くて」
「だろうな」
「そこで社長、お願いがあるんですけれど……」
上目遣いで、口ごもる福井。何だろう、嫌な予感しかしない。
「少しの間、社長のご自宅に泊めさせてもらえませんか?」
嫌な予感が的中したぁぁぁああ!!
「え」
「1人は怖いのでホテルは無理ですし、実家は会社から遠くて」
「私の家より、同僚の方が気が楽じゃないか?」
「お願いします、社長。この通りです!」
テーブルに頭を付けてお願いされた。やめろ、周りからの視線が刺さる。
これだけされて断ったら、今まで積み上げてきた俺のイメージが、一気に崩れてしまいそうだ。かと言って、唯一の安息の地まで奪われたら、心と表情が崩壊するかもしれない。ああ、悩ましい。強盗のやろう、どうして福井の家なんか狙ったんだ。
「分かった。私でよければ、力になるよ」
「わぁっ、ありがとうございます社長っ」
さようなら、俺の安息の地。
「本当に助かります。ご迷惑は掛けませんので」
もう充分迷惑だ。
「仕事が終わったら連絡する。電話番号教えてもらえるか?」
「はい喜んで」
「終わるの、少し遅くなるかもしれないが」
「大丈夫です、任せてください」
何を。