いつもの朝
たくさん張りすぎた伏線を回収できるか不安を抱きつつ、また新たな伏線を張ろうかと思います。正直、回収しきれる自信がありません。
朝。カーテンを開けると、眩しい陽の光が部屋に差し込んでくる。
外は雲一つない快晴!
空気は寒さのせいか、いつもよりも澄んでいる!
鳥の囀りと共に聞こえてくる、仕事関係のメールの着信音!
デスクの上に開いて置かれた、スケジュールがびっちり書かれた手帳!
ああ今日も仕事したくねぇな!
ベッドに投げつける勢いでパジャマを脱ぎすて、ワイシャツとスラックスを身にまとう。一瞬のノリで選んだネクタイで首を絞めつけ、まだ歯磨きをしていないことを思いだしてネクタイを外す。頭がまだ働いていないようだ。
自室を出てリビングに向かうと、
「おっはー」
当たり前のような顔で、神奈がソファに寝転がっていた。
「おはよ」
俺もその光景を、当たり前のように受け入れてしまっているわけだが。
テーブルの上には、神奈お手製の朝食が並んでいる。こうやって彼女にご飯を作ってもらうのは、最近よくあることだ。最初のうちは抵抗もあった。なぜなら彼女は、俺の命を狙っているから。だが、「住まわせてもらってるし、これくらいやらせろ」と傲慢な態度でお願いされてしまい、無下に断るのも命に関わる気がするので出来ず、何回か作ってもらっているうちに警戒心は無くなっていた。毒を盛られたことも無いし、むしろ普通に美味しいし。だから俺は今日も、殺し屋の作ってくれた無毒で美味な朝食を、有り難く頂くことにした。
「神奈、さっきから何を見てるんだ?」
食べながら、ソファで寝転がりつつ携帯端末を見つめる彼女に、そう尋ねる。
「お前の会社のサイト」
「公式ホームページか? 何で急に」
「いや、公式じゃない。会社の社員の中でも限られた人しか見られない、裏サイトだよ」
「それをどうして神奈が見られているのかも気になるが、それ以前にそんなサイトがあったのか」
「社長のくせに知らないんだ」
「うっ。面目ない」
「仕事への不満だとか、人間関係の愚痴なんかが主な内容みたい。刻也の悪口とか、刻也が加担した、公になったらまずい不祥事とかを探していたんだけど」
「性根が腐ってるよな、お前」
「でも、このサイト内でもお前の評判は良いよ。『社長は目の保養』『仕事もできて気遣いもできる完璧な社長』『挨拶にも必ず笑顔で返してくれる。その笑顔に見悶えた』とかとか、つまんねーわ。お前が書いてるのかってくらい、褒め言葉しか載ってないじゃん」
「さすが俺。外面の良さには定評があるからな」
「内面ひどいのにな」
「お前もな」
「つまんねーから、刻也がくしゃみをする直前の不細工な写真を載せておいた」
「お前……!」
「でもその写真を見た社員たちは、『社長のいつもと違う素の顔が見られた、ありがとう』『ちょっと抜けた顔も可愛い、最高です』『この写真を拡大印刷して売ってくれませんか、お願いします』ってリアクションで白けたわ」
「大丈夫かな、うちの社員……」
「悔しいから、写真を拡大印刷して売ってやったぜ」
「ちゃっかり稼ぐんじゃねぇよ」