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刻也の昼休み

 昼。俺はいつものように、社員食堂へと来ていた。昼飯くらい落ち着いて食べたいから、本音を言えば社員がうじゃうじゃ集る食堂には来たくない。けれど、社長である俺が社員と同じものを同じ空間で食べているというだけで、周りからの好感度が上がるのだ。周りからの評価を気にしてしまう この性格のせいで、昼休憩でさえ一瞬たりとも気を抜くことができないのであった。

 心の中でそっと溜め息を吐きながら、窓際の席に1人で座る。社員たちはこちらに視線を向けはするが、挨拶以外は滅多に話しかけてこない。黙々とカレーライスを食べていると、社員たちのひそひそ声が聞こえてくる。


「(社長、今日も麗しいわ)」

「(社食だということを忘れるくらい、絵になっているわね)」

「(庶民の食事がお口に合うのかしら)」

「(ずっと眺めていられるよ)」

「(声を掛けてみたいけれど、挨拶だけで精一杯ね)」

「(あんまりしゃしゃり出ると、カースト上位の女性社員に狩られるわよ)」

「(それもそうか)」


 社員同士で、狩ったり狩られたりしているのか。恐ろしい会社だ。そして俺はそこまで素晴らしい人間ではない。何せ、好感度だけを考えてここに居るくらいだ。

 相変わらずの居心地悪さを感じながらも、それを決して顔には出さず、カレーにのみ意識を集中していると、


「お疲れ様です、社長」


 声を掛けてくる人がいた。


「ああ、柊木さん。お疲れ様」


 秘書の柊木さんだ。

 社員たちの ひそひそ が ざわざわ に変化した。


「(柊木さんだわ、珍しい)」

「(あの2ショット、目の保養になるわね)」

「(社食でこんな光景を見られるなんて)」

「(ご利益ありそうだね。拝んでおく?)」

「(それもそうね)」


 どうして社員たちは、こちらに向かって静かに手を合わせているんだろうか。神や仏の類いと勘違いしているんじゃなかろうか。


「あの……お昼、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「もちろん、どうぞ」


 向かい側に座り、焼き魚定食の載ったトレイを置く柊木さん。社員たちに拝まれていることは、一切気にしていないようだ。


「珍しいな、柊木さんが社食にいるなんて」

「いつもはお弁当を作って持ってくるのですが、今日は寝坊をしてしまいまして」

「え、寝坊するの」


 真面目な彼女も寝坊をするんだ……。何か意外。


「いつも仕事を頑張ってくれているから、疲れが出たんじゃないか?」

「そんな、勿体ないお言葉です。でも確かに、寝不足気味かもしれません」

「何か悩み事?」

「悩み事……。そうですね。それを解決するために、色々と勉強をしているところでして」

「勉強?」

「はい。録画したテレビを見たり、最近の流行りの音楽を聞いたり、雑誌を読んだりと、日々勉強しているんです」


 寝不足になるまでそういうことをしているのか。悩み事というのは……忙しくて流行に乗る暇も、流行りを知る暇も無いとか、そういうことなんだろうか。女性は大変だな。


「仕事が終わっても勉強だなんて、やっぱり柊木さんは努力家だね」

「いえ、そんなことは、断じてありません」


 無表情のまま手を振って、必死に否定するその姿は、少し面白かった。


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