傍にいるよ
「それより、いい加減に部屋で寝ろ。もう2時近いぞ」
「別に良いよ、明日……と言うか、今日は休みだし」
「寝不足は健康寿命を縮めるんだよ、おじいちゃん」
「俺の命を狙っている奴が何を言うか。あと、おじいちゃん呼びは本気でやめろ。泣いちゃうだろ」
「涙腺ゆるゆるだな。歳のせいか」
全く、失礼な奴だ。まぁでも、流石に寝るか。1度の寝不足がのちのち体に応える歳になってきたしな。マグカップを流しで洗い、自室に行こうとリビングの扉を開ける。
「神奈こそ、寝た方が良いんじゃないか?」
未だに窓の外を眺め続ける背中に、そう声を掛けた。
けれど向こうは、立ったまま動こうとはしない。
「アタシはほら、警備をしないといけないからさ。自宅警備員」
「俺と同じニート予備軍になるぞ」
「それは嫌だ」
「だろ。それに寝不足は、寿命を縮めるんじゃないっけ?」
「ああ、それは良いよ。さっさと死んだ方が世の為だ」
冗談めかしたその言葉に、返す言葉が思いつかず黙ってしまったのは、その言葉に少なからず気持ちが込められていると気付いたからだ。
「ちなみに刻也、その腕時計」
「これ? 会社の部下に貰ったんだ」
「へぇ」
「何で?」
「それ、似合ってないよ」
「え、そうか?」
俺はファッションとかセンスには疎い方だ。若い彼女の感性を信じて、この腕時計はしばらく外した方が良いかもしれない。
腕時計を外してリビングのテーブルに置くと、神奈が少し安心したような顔をした。そんなにこれ、似合っていなかったのだろうか。もう何日もずっと付けていたのに、急に恥ずかしくなってくる。
「じゃあおやすみ、刻也」
「うん、おやすみ」
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ああ、残念。
今夜は、一緒に寝られないね。
いつでも傍に居たいのに。
いつでもあなたを感じていたいのに。
でも大丈夫、焦ることはない。
確実に自分は、彼に近付いている。
きっと、手を伸ばせば届く距離にまで来ている。
だから、もう少し待っていて。
必ず、どんな時でもあなたの隣にいてあげるから。
その為に、邪魔なものは排除しないと。絶対に。
…………今度は、万年筆にしようかな。