もうダメだ
『もすうるしゃーの祟り』の意味を知ったアタシは、大きな溜め息をついた。ワン望愛泰夢は『もすうるしゃー』の意味を深読みして、狗藤組長に危害が及ぶことを心配し、結果的にアタシがここに来る羽目になった。それなのに、『もすうるしゃー』が『口内炎』って。まぁ、アホ集団と評判の猿怒冷酸のことだから、そんなことかとは思ったけれど。けどもっ! ……もう疲れた帰りたいよ。
というか『mouth ulcer』は『もすうるしゃー』じゃなくて、『マウスアルサー』みたいな読み方だった気がするんだけど。
とにかく、聞きたいことは聞けたし、こんな(変態的)精神状態にある今の猿怒冷酸が、ワン望愛泰夢への嫌がらせを続けられるとも思えない。たぶんね。だから目的は達成したということで。そういうことにして。アタシはさっさと帰りますさようなら。
「どこに行かれるのですか女王様」
逃げようとしたが、豚に引き留められてしまった。視線を動かすと、周りは他の構成員たちに取り囲まれ、出入り口の扉の前では、斧を持った構成員がアタシの退路を塞いでいる。逃げられないなぁ。仕方が無いので、芝居を打つことにした。
「あんたら、そんなに痛みが欲しいの? 薄汚いのは、その顔だけにしてほしいんだけどね」
そう言ったら、構成員たちが息を荒げ出した。ドン引きなんですけど。
「そんな家畜共には、お仕置きが必要だね。目隠しになるようなものはある?」
「はい! ここに!」
当然のように人数分の目隠しがあるなんて。この組織は大丈夫なんだろうか。
「よし、じゃあそれを各々装着して。良い夢を見させてあげるからね」
『はいっ!』
構成員全員が目隠しをしたのを確認してから、息を潜めて足音を消して、事務所の扉から逃げ出すアタシ。その背後で、
「女王様、どんな夢を見せてくれるんですか?」
「おれ、飛び切り苦しいのが良いです」
「それは女王様が決めることだ。お前の意見は話すな」
「ああそうでしたごめんなさい。お詫びにたくさん殴られますね」
「バカ野郎。それなら僕は強く縛ってほしいです」
「女王様」
「女王様!」
「……女王様?」
「…………女王、様……?」
「あれ? 声が聞こえない」
「放置プレイか」
「ああそうか。ありがとうございます女王様!!」
と騒ぐその姿に、この組織はもうダメだと確信を持った。