狗藤組長の弱点
「男に二言はありませんよ。どうか教えてください」
「分かった。ただしこの情報は、狗藤組の中でも限られた人しか知らない、トップシークレットだ。口外しないと誓ってくれるか?」
「もちろんです」
力強く頷くその表情を信じ、アタシは声を潜めた。
「実はさ…………狗藤組の組長は、組の名前に「狗」が入っているくせに、犬アレルギーなんだ」
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「……え?」
「ん?」
「それだけですか?」
「うん」
「それが、トップシークレットなんですか?」
「うん」
「…………」
「…………?」
「前言撤回です。嫌がらせはやめません。それどころか更に攻撃性を高めた嫌がらせに変えます」
「何でっ! 教えたのに! 男に二言は無いんでしょ?」
「でもさすがに……。これだけ期待させておいて、内容 があまりにも 無いよう って感じだったので」
「今のダジャレは流すね」
「はい」
「たかがアレルギー、されどアレルギーだ。それで死亡した人だっている」
「狗藤組長のアレルギーの程度は、そんなに重症なんですか?」
「くしゃみが止まらなくなるくらいかな」
「その程度の弱点を、どう生かせというのですか」
「1匹だと大した脅威じゃないかもしれないけれど、100匹の犬を集めれば、狗藤組長の気力を削ぐことができるかもしれないよ」
「100匹も集めている間に、私たちの気力が先に削がれそうです」
「じゃあどうしたら良いのさっ」
「逆ギレしないでくださいよっ。私が聞きたいです」
まぁ流石にこの程度の情報では、猿怒冷酸は動かせないか。それが分かったら、少し安心した。
「これでは話になりませんね。交渉は決裂です」
「そっか。残念」
「ええ、残念です。殺し屋といえど、この人数差ではさすがにこちらが圧倒的有利な立場にいることですし、大人しくしてほしいのですが」
そう言いつつ、こちらへと静かに歩み寄ってくる利伊田。周りを取り囲む構成員たちも、じりじりとアタシとの距離を詰め始めた。